教員の仕事は、生徒が将来仕事などを通して社会に貢献ができ、人とうまく関われて、幸せな人生を送るための準備を支援することです。我々英語の教員は、英語の授業を通してそれを行うことであり、英語教育界の流れが変わっても、その大原則は変わらないと思います。
英語教育推進委員の先生方がおっしゃることはもっともだと思います。確かに英語をたくさん聞かせることは大切ですが、限られた時間を計画的に使い、ゴールが明確で意図のある活動を入れないと、時間が無駄に過ぎていくことになります。ご質問を拝読して、英語教育推進委員の先生方のアドバイスの中にその部分の言及や、定着のさせ方に関するアドバイスがあれば、先生も納得がいったかもしれないと推察いたしました。
私は今でも中学生を教えていますし、小学生や高校生も教える機会をいただいています。やればやるほど感じるのは、徹底的なトレーニングをしなければ定着はしないということです。聞き流すだけで英語ができるのであれば、もっとその手法が世間に広まっているはずです。しかし、そうではないことを考えると、いかに密度の濃い練習を大量にさせるかが学力向上のカギを握ると思います。これは、部活動と同じですよね。ですから私は、「英語はスポーツだ!」をモットーに授業をしています。そして、密度の濃いトレーニングを大量に、しかも苦痛を忘れて大量にやらせるための教材を作成することは私のライフワークです。
語学は「理解」→「暗記」→「応用・発展」という流れがあることは何度もお知らせしていますが、小学校ではこのうち「暗記」が中心です。
小学校で英語教育が本格的に始まり、先生方が個性を生かして授業を工夫し始められた結果、児童は歌やチャンツ、ゲームなどを通して英語の授業に夢中になり、繰り返すうちに覚えてしまったという状況が増え始めていました。その後We can!とHi, friends!の合本が届き、先生方も児童も英語の授業が苦しくて辛いものになってしまった、という声をよく聞いたのは残念なことでしたが、それでも小学校の先生方のご努力で児童にはかなりの英語のストックができています。しかし、英文の意味や構造を理解しているわけではなく、音声中心の学習は音声教材などを持ち帰ることができない限り家庭での復習はできませんので、ご指摘の通り定着はしていないものと思われます。
私は研修会で中高の先生方に小学校の学習指導要領外国語編を紹介することがあるのですが、「2 内容 (1) 英語の特徴やきまりに関する事項 エ文及び文構造」の項目を見られると、「中高でもできていないことが小学校で求められているのか」と驚かれます。特に、「d 疑問文のうち,be動詞で始まるものや助動詞(can,doなど)で始まるもの,疑問詞(who,what,when,where,why,how)で始まるもの」は、高校の先生方もかなりの生徒がマスターしていないと思われると言われます。
また、小学校3年で英語学習を開始するメリットの1つに、年齢が低いほど音を取るのがうまいことが挙げられますが、小学校の先生方は英語教育の専門家ではありませんので、“Repeat after me.”と言われる先生方に教わった児童は間違った発音を身につけてしまっている可能性も否定できません。大学で教えていて、英語らしい発音ができる学生はほとんどいません。いくら何でもひどすぎるだろうという発音をする学生はたくさんいますが。これは、中高で発音指導をされていないからであり、それらの学生はリスニングができません。同じ英文でも、ネイティブが読んだ時と自分が読んだ時の音がかなり違うと、identifyできないからです。
これらのことを考えると、中学校では小学校で「暗記」した英文の意味と構造をしっかり「理解」させ、それらを「応用・発展」まで持って行くことが必要ですし、間違った発音をしている場合、それを矯正してあげなければなりません。まずは中学校入学後に小学校でどのようなことをどれだけ学習し、何ができるようになっているかをプレースメントテストなどで確認し、できていないところや抜け落ちたところを教科書や副教材を使いながら英語の専門家である中学校の先生方が教えていく、という流れになると思われます。小学校では浅く学んでいますので、小学校で手に入れた財産を生かしつつ、中学校では英語科の先生方が英語の専門家として深く教えていくと考えられてはいかがでしょうか。