単刀直入に言えば、筆記体が読み書きできる大学生はいないと思ってください。2002年に施行された指導要領では、筆記体の扱いが「指導することもできる」というレベルに下げられました。生徒にとってブロック体をマスターするだけでも大きな負担である上、筆記体まで果たして必要かという議論がありましたし、完全週休2日が施行され、ゆとり教育が叫ばれていた時期でもあったからだと推察されます。その結果、筆記体は中学校で指導されなくなりましたので、一部の興味を持った生徒を除いて、筆記体を学んだ者はいないと思ってください。なお、発音記号についても同様で、現在ではほとんどの中学校で発音記号の読み方は教えられていません。
筆記体は、漢字で言えば行書や草書のようなものであり、まず楷書に相当するブロック体が書けるようになることが大切です。実生活においても、筆記体を目にすることはほとんどありません。印刷媒体も、筆記体で書かれている確率はきわめて低いと思います。あるテレビ番組に出ていたイギリス人のALTは、「アメリカでもイギリスでも(筆記体)を使っている人が少なくなっており、ほぼ年配の人しか使っていない。」と言っていました。
今後、教育実習でお世話になる大学生は、筆記体が教科書から消えた年(2002年)以降に中学校に入学した人たちであり、筆記体は習っていません。大学で筆記体を教えるというのは、よほど必然性がなければ行われていないでしょうし、大学の先生のなかでも、筆記体を使用する方はさほど多くないと思われます。ひょっとすると、日本の高校の先生方が一番筆記体を使う割合が高いのかも知れません。
最近はパソコンが普及し、様々なフォントも使われていますから、筆記体ってかっこいいなと思っている生徒はいると思います。私自身も、筆記体は好きです。しかし、ブロック体より筆記体の方が書き損じが多く、消しゴムを使う回数が多いと生徒が言っていましたので、もし、筆記体が必要だと思われるのなら、生徒が納得する説明をした上で、その先生が指導しなければならないと考えてください。
それにまつわるエピソードを1つ。
2006年に島根県の中学校を卒業して公立高校に進学した教え子たちが、入学前の宿題が大変で春休みなどないと言うので、英語はどんな課題が出ているのか尋ねたところ、中学校の教科書を筆記体で書写してくるというもので、驚きました。そこには指導がありませんので、筆記体を自学しろということになります。生徒たちは入学する前に、すでにその学校に対してネガティブな気持ちを抱いていました。
このように、今後ますます筆記体を読めない、書けないという人は増えると予測されますが、私はこの原稿を書きながら、やっぱり筆記体っていいなと思いました。大学の英語科教育法で筆記体を教えようかと思います。おそらく「めんどっちー」と言って途中で投げ出す学生がいると思いますが…。
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