「教育の研究者」には2つのタイプがあります。現場で役に立つ情報を提供するための研究をする人と、書物などから得た知識などを元に教育の研究を行う人、です。どちらをめざしていらっしゃるのでしょうか。現場の先生方は、前者を受け入れてくださる可能性は高いのですが、後者は二の足を踏まれると思います。前者は「何かをくれる人」、後者は「何かをもらおうとする人」というイメージがあるからかもしれません。
ご存じのように、学校現場は多忙を極めており、教育実習生を受け入れることすらためらわれるのが現状です。また、多くの先生方は自分の授業は人に見せられるレベルのものではないとご謙遜なさいますので、そのような状況下で教育を研究したいという方を学校現場が受け入れてくださることは、かなり難しいと思います。
教育の研究をするには、やはり教員になって体験するのが一番ではないでしょうか。私は26年間中学校に勤務しましたが、だからこそ今わかることや、現場の先生方にお伝えできることがたくさんあります。教育実習生が実際に授業をしてみると、こんなはずではなかったのにと思うことからも想像できるように、考えていることを実践に結びつけるのは難しいことです。それを体験し克服した人は、現場で役に立つ情報を提供できると思います。数年でもいいので、実際に教員になってみることは、研究を深めるためには有効だと思います。
私は、これからの教育研究で大切なことは、社会の変容に即した新しい手法を提供できることだと考えています。現在大学で教えられていることは、生徒が教師の言うことを聞き、授業を受けるレディネスがあることが前提条件となっています。しかし、実際に教育現場に立ってみれば、そうではないことが痛感されます。それがなぜなのか、どうすれば解決できるのか、そういう情報を現場の先生方は求めていらっしゃいます。今後、教育の研究者に求められるのは、アドバイスをすることのみならず、医学部の教授が学生の前で患者を治療してみせるように、実際に授業をしたり、授業における生徒指導上の問題を解決してみせたりすることだと思います。
私の尊敬する広島大学の築道和明(ついどう かずあき)先生は、島根大学時代に13年間にわたって研究室を現場の先生方に開放し、毎月第4水曜日に勉強会を開催していらっしゃいました。そして、自らも私の学校や附属中学校で実際に授業をなさったり、看護学校や短大でのリメディアル教育や、近所の子どもを集めての無料英会話塾などで数々の実践を積み重ねられたりして、そこから我々現場の教員に情報を提供してくださいました。そういう大学の先生をめざされるのなら、とてもうれしいです。
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