初めて教壇に立つ前にしておかなければならないことは、3年分の教科書を分析することです。全体像を見ずして授業の1コマを考えると、木を見て森を見ずという状態になり、教科書に依存してしまうようになります。とりあえず教科書を1ページずつ進めれば、授業はできるようになっているからです。
授業作りは、まず卒業する時にどんな力をつけておいてほしいか、その到達度を測るには、どんなペーパーテストを作ればよいか、どんなパフォーマンステストをすればよいかなどを考えることから始まります。そして、それらのテストで期待する結果を得るためには、何年のいつごろまでに、どんなことができるようになってほしいかということを考えます。それが、逆算(バックワードデザイン)の発想です。そして、そこまでたどり着くためにはどんな教材をどのように使うかを考えます。教科書は、その目標を実現するための教材の1つに過ぎません。
私は、教科書はReadingの教材として位置づけていました。Listeningは教科書付随のCDやNHKのラジオ番組、私のオリジナルの教材、ALTの英語、英語の歌などを使い、SpeakingとWritingはTalk and Talkを主教材としていました。教科書は万能ではありません。教科書で紹介されている4技能を伸ばす活動のすべてが、100点満点ではないことは、先生方も体験的に感じておられると思います。だからこそ教科書を分析し、どこが素晴らしくてどこが改善の余地があるかを見極め、満点ではない部分に自分なりの代替案を持ってくるのが授業作りです。
とは言え、最初から最終目標を具体的に決められることはないと思いますので、まずは使用教科書の最終単元を見て、それを発展させた活動を最終目標とされるのも一案です。私の場合、例えば2004年度は、セバン・スズキさんの世界環境サミットでのスピーチを聞き、内容を理解し、感想を言うことを最終目標にしていました(「活動例」3年生3学期 参照)。2005年度は転勤して3年生を受け持ったので、教科書(東京書籍のNew Horizon English Course)の最終単元で取り上げられていたレイチェル・カーソンにちなんで、「環境問題について、ALTに1分間で20文のスピードで自分の考えを伝え、ALTの質問に答えられる」ということを目標にしました。
このような授業作りに教職1年目から挑戦することは、次の世代が新しい英語教育の流れを作る要因になると思っています。忙しくて大変だとは思いますが、ぜひ時間を作ってチャレンジしてみてください。
次に、職員室の人間関係を見ることです。だれが他の先生方に支持をされ、信頼を得ているか、どの先生が皆をまとめているか、管理職は先生方をやる気にさせているか、どの先生のところに生徒がいつも集まっているかなどを観察し、薫陶を受けるべき先生を見つけてください。(ただし、生徒に慕われて常に生徒に囲まれている先生でも、他の先生の気持ちを察して早めに生徒を職員室から出すか、自らが生徒を連れて職員室を出て生徒に対応している先生の方が、自己陶酔型ではなく、配慮型の先生です。)
会社は社長で決まるように、学校は校長で決まります。教室の生徒をやる気にさせることができるようになり、今度は職員室の先生方をやる気にさせてみたいと思った人こそ、管理職になるべき人です。単なる出世欲や、教職の奥深さを知ることなく、同じことをやることに飽きた人が管理職になっているようでは、教育の発展はありません。教職1年目からいつか管理職になったとき、どうやって先生方のよいところを引き出し、伸ばし、自信を持って仕事に邁進させるかを考える人は、生徒も同じようにdriveするでしょう。大きな視野で、長いスパンで物事を考えてください。