最近はどんどん便利な機械が現れ、AIも発達し、生徒は私たち教員以上に使いこなしていますので、今までになかった問題も出現しています。翻訳機もどんどん質が向上し、私もDeepLなどの恩恵を受けています。英文和訳であれ、和文英訳であれ、上手く使うことが大切だと思います。
私の場合、英作文をする前に和文英訳を徹底的に行い、英文構造に慣れさせるための時間を取りました。まず自分が言いたいことを日本語で表し、それを英語の語順に並べ替えます。例えば、「私の父は先週飛行機で福岡に行きました」ならば、「私の父は・行った・福岡へ・飛行機で・先週」と並べ替えるのです。これを「同時通訳和英順」と言います。ペアになり、一方が「和」文を言い、もう一方がそれをすかさず「英」文の語「順」の和文に「同時通訳」するトレーニング法です。同時通訳和英順をやったあとで、センスグループごとに英語に直すと、間違いが減ります。自力で正解を導くことができると、生徒は「成功体験」を得ますので、それが学習の動機付けとなります。
さらに、言いたいことが今までに学習した英語で表せない場合は、より簡単な和文に代えさせます。これを和文和訳と呼んでいます。例えば、「あいつのどや顔にはむかつく」ならば、「彼は自慢げに見える。私はそれを見て腹が立つ」とすると、He looks proud. I’m angry to see it. / I get angry when I see it.というふうに、中学レベルの英文で表すことができます。同時通訳和英順や和文和訳に関しては、拙著『知ってる英語で何でも話せる!発想転換トレーニング』(コスモピア)をご参照ください。私が中学校英語教員時代、トップ層の生徒たちを満たすために毎日のように出題していた和文英訳問題集です。
同時通訳和英順と和文和訳のテクニックを使って英文を作ったあと、DeepLなどで訳してみます。「あいつのどや顔にはむかつく」ならば、His smug look disgusts me.と出ました。そうなると、生徒にとってはsmug(独りよがりの、うぬぼれの、自己満足の)という形容詞と、disgust(むかつかせる、うんざりさせる)という動詞を学ぶチャンス到来です。さらに上位層には英英辞典で引かせると、例えばロングマン英英辞典では、smugはshowing too much satisfaction with your own cleverness or success - used to show disapproval、disgustはto make someone feel very annoyed or upset about something that is not acceptableと出てきます。satisfaction, cleverness, success, disapproval, annoyed, upset, acceptableなどは、どの単語も高校で重要語として扱われるから、今のうちにノートにメモっておこう!と勧めます。
ちなみに、「彼は自慢げに見える。私はそれを見て腹が立つ」をDeepLに打ち込んだら、He looks proud. It makes me angry to see it.と出ました。He looks proud. I’m angry to see it. / I get angry when I see it.などと書いた生徒たちは、「あー、It makes me angryか!make+人+形容詞か!なるほど!」などと声を出すでしょう。要は使い方なのです。
蛇足ですが、私の弟が仕事でドイツに行ったとき、ポータブル翻訳機を貸したことがあります。弟は現地の方々とそれで会話をし、仕事を進めていたのですが、ドイツの方がとても親切でよくしてくださったことに対して機械で思いを伝えることに違和感を覚え、いつかドイツ語を勉強して翻訳機なしでコミュニケーションを取りたいと切に願ったと言っていました。