ICTはコンピューターやインターネットなどの情報技術を利用し、情報を作成、処理、伝達、保管、共有するために使用される技術を意味しており、私もICTを駆使した授業を行っています。黒板とチョークだけの授業より、映像や画像、音声などをふんだんに取り入れるほうが、生徒の思考を促し、判断して表現する場面をより多く引き出すことが可能であることは、疑いの余地がないと思われます。
私がよく使う画像は、トリックアートです。I think it’s …. I can see …. It looks like …. It looks as if …. There are …. There seem(s) to be ….やなど、たくさんの表現が使えます。また、テレビでよく見かける画像の一部が変化していく映像は、現在完了で使えますし、クイズ番組のSpot the Differenceは短時間で正解にたどり着くレベルの大きな間違いが多いので、中学生でも英語で表せるものがかなりあります。
イラストや写真を使った活動としては、The Odd One Outがあります。4枚のイメージを比較して、どれが他と違う特徴を持っているかを、既習表現を駆使して英語で表す活動です。これは多角的にものを見る習慣を身につけるのに役立ちます。
教科書本文に関しては、そのトピックの背景情報や付加情報などを、映像や画像、音声で与えて興味を引き、それから本文を深く読ませます。最近よく教科書に取り上げられているbiomimeticsなどはその代表例です。また、画像や記号などを適切に配置することで、リテリングのヒントとすることもできます。教科書本文をOral Introductionし、Rewordingし、映像資料などを見せながらもう一度教科書本文を聞かせる、というのは、私が高校で飛び込み授業をするときの常套手段です。
現行版の東京書籍New HorizonのA glass of Milkは、コロナ禍で毎日患者数を発表していたジョンズ・ホプキンス大学の創設メンバーの一人だった、ハワード・ケリーという産婦人科医にまつわる実話に基づいています。この話を元にタイの通信事業企業が作った有名なテレビコマーシャルを英語字幕付きで見せて、教科書本文との違いを英語で表したりする活動をすると、心も頭も動かされます。
Write and Talk and Talkに関してですが、今の検定教科書は1年の最初のレッスンが「小学校で英語はかなり学んできている」という前提の下に作られているものが多く、複数の文法事項が1ページに出てきています。また、中学校英語は易から難へという流れがありましたが、現在は中1で複文や不定詞句、動名詞句が出ている教科書もあり、生徒は混乱しているはずです。小学校で英語をやっていると言っても、文字をマスターするには到っていないので、学校で学習したことを家庭に持ち帰って復習することはできておらず、小学校で学んだことは定着していないと考えた方がいいと思います。
私のワークショップで体験された先生方は、以前は、教科書本文を「理解」し、「暗記」し、「応用・発展」することができたが、今は「理解」させるのに1年かかるので、「暗記」や「応用・発展」の活動時間が確保できないことを理解されます。ですから、私がもし今中学校で授業をするなら、中1はまずフォニックスから入り、GW連休明けからWrite and Talk and Talkをやらせ、段階的に基礎力を付けていき、そのあとで教科書を開いてどれぐらい読めるかを確認し、分からないところを押さえていくという流れにすると思います。
2006年にNHK総合テレビ『プロフェッショナル 仕事の流儀』で取材していただいたときは、その様子を撮影していただきました。5月にNHKの方が来校して生徒に「英語は好きですか?」と質問された時は、「英語は文字を書くのが辛いから嫌い」と言っていましたが、6月18日から撮影が始まるのに際してもう一度同じ質問をされたら、「文字に慣れたので英語が楽しくなった」と答えました。そこからフォニックスの問題集の1学期の範囲を終わる生徒がどんどん出てきて、Talk and Talkがどんどん進み始め、教え合いが始まる様子を7月18日まで1ヶ月に渡って写していただきました。
中2、中3はWrite and Talk and Talkのやり方に慣れているので、各ページのやり方を確認したら、あとはTalk Boostで指定された目標をクリアするよう促すだけです。中2、中3は教科書本文にトピック性が出てくるので、それを膨らませて生徒を惹きつけることに時間を割くとよいと思います。
生徒の頭と心を動かし、もっと知りたい、もっと知ってもらいたいという気持ちを引き出すと、どうしてもスキルが必要になってきます。そのためには、重要表現を1つずつ積み上げていかなければなりません。今の英語教育はスキルを身につけることなく、間違った英文を言い合い、そのフィードバックはなし、という状況ではないでしょうか。私は「教科書を教え終わる」ことよりも、「入試の平均点が70点以上」という目標を設定して授業を組み立てていました。その結果作り上げたのがTalk and Talkでしたので、お役に立つのではないかと思っています。