田尻先生
Q.66 小学校外国語の評価の取り方について
今年度から小学校外国語の非常勤講師になりました。以前田尻先生の講演会に参加し、とても多くのことを学ばせていただき、授業を改善したいなと強く思っております。
小学校5,6年生の評価の取り方を、様々な本などで勉強しているのですが、いまいちわからず、学校の先生方はお忙しく、非常勤である私の勤務時間中にはなかなかしっかりとお話を伺う時間も取れないのが現状です。

小学校外国語の評価の取り方について、もし可能でしたら教えていただけるとありがたいです。

 

  小学校5,6年の外国語の評価に関しては、全国からお悩み相談が入ってきます。20数年前に、国立教育政策研究所の評価規準・評価基準で現場が大混乱したあの時と同じような状況になっているようですね。
  学力の3要素に関しては、私も絶対に正しいと思います。私自身も、「x軸が知識・技能で、大学まではx軸が優秀な人が偏差値が高く、優秀な人とされるけど、社会へ出ると、その知識・技能を活用する力、応用する力が求められる。これがy軸。でも、x軸もy軸も優秀な人たちが集まった会社でも、粉飾決済や不正会計、排ガスやエンジン性能試験を巡る不正など、倫理観・道徳観が欠けていたら会社は傾く。これがz軸。どれも等しく大切だけど、特にy軸とz軸は社会へ出てから大切になるからね」と、40年にわたって生徒に伝えてきましたので、学力の3要素はとても馴染みがあるものです。
  しかし、この3つの要素の評価となると、z軸に相当する中高での「主体性・多様性・協働性(主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度)」、小学校での「主体的に学習に取り組む態度」は、とても大切な観点ではありますが、数値化はできませんので、ABCの線引きが難しいと思います。文科省のサイトや識者の方々の書かれたものを読んでも、線引きのしかたまで踏み込んだものはなく、ルーブリックの例を見ても、明快なものにはまだ出会っていません。
  「知識・技能」は数値化しやすく、「思考力・判断力・表現力」も、パフォーマンステストやペーパーテストを実施すると、児童生徒は思考して判断して答えを書いたり言ったり(表現)しているわけですから、客観的に評価ができると思います。それに対して、「主体性・多様性・協働性」は、結局先生方が主観で付けざるを得ないと思います。
  であれば、思い切り発想を転換して、「主体性をどう評価するか」よりも、「どう全員にAをつけてあげられる授業を作るか」を考えるといいと思います。
  小学校に於ける外国語学習のz軸は、「主体的に学ぶ」ことと「自らの学習を調整しながら学ぶ」という2点が示されており、「他者に配慮しながら」というキーワードも大切だと思いますので、私ならこの3つをまず児童に示して目標を明確にします。そして、児童が夢中になるような活動を考え、違いを生み出し、グループで答えを調整するよう仕向けます。その中で、主体的に考動するよう励ましたり、聞き手・読み手を中心に据え、分かりやすい表現や相手に不快な思いをさせない言葉遣いを奨励したりすると思います。
  「自らの学習を調整しながら学ぼうとしているか」どうかは、自分の学習方法の点検や他者との比較、教師のアドバイスや働きかけなどがポイントになってきますので、よりよい学習にするための励ましやアドバイスは欠かさないよう心がけます。いずれにしても、私なら児童の「主体性・多様性・協働性」を引き出す授業作りを必死で行うと思います。結局、学力の3観点の3つめは、児童生徒の「主体性・多様性・協働性」を引き出せているかという、教員が評価されるべき観点だと思うからです。

  現場の先生方の嘆きの声の中に、「私が勤務する地域は、A, B, Cの割合を決められていて、全員にAをつけてやる授業ができないのです」というものがありました。相対評価は「Aを取る児童は○%にとどめて、Cを取る児童を□%は創り出せ」ということに等しいですから、改善のためには、教育委員会に多くの先生方の声を届ける必要があると思います。その上で、児童生徒が夢中になり、主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度に溢れた授業を教育委員会の方々や高校の先生方に見ていただき、信頼できる絶対評価だと思っていただいて初めてgive and takeが成立すると思います。

  ただ、中2以降は、「主体性を持って多様な人々と共同して学習する態度」を引き出すための活動はたくさんありますが、中1ではそこまで多くはなく、そういうことができるようになるための基礎練習期間です。小学校に於ける英語教育は、ほとんどが中1の内容ですし、教科書というものがあり、それを終えることも先生方は使命だと感じておられますから、主体的に学習に取り組む態度を引き出すアプローチは中学校より難しいと思われます。
  以下は、2005年〜2006年に、中学校教員として校区内の小学校の先生方と協力して小学校英語のカリキュラムを作った際に、私が考えた評価基準です。カリキュラムには盛り込みませんでしたが、今こそ使えるかも知れないと密かに思っています。

   a) どのような工夫をしたか
   b) 驚きや納得を引き出す発言等ができたか
   c) 人と異なる観点を持てたか
   d) 夢中になって繰り返すうちに何を身につけたか
   e) 相手や聞き手・読み手を思いやる行動が取れたか
   f) 感情をコントロールし、適切な言葉を選んで論理的に伝えようとしたか
   g) 期限内に質の作品を仕上げたか

 
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