田尻先生
Q.65
小学校で英語専科として勤務しています。教科書をすすめ、単元ごとにペーパーテストと会話テストを行い、教科書終えることができるだろうかと、焦りながら授業を行っている状態です。

英語が教科化になり、成績もつくということで、以前と比べると、英語を苦手と感じでいる児童が年々増えてきていることをとても悲しく思っています。この状況をなんとか改善し、少しでも多くの子供達が笑顔で中学校英語をスタートできるように、自分の授業を見直したいとおもっています。

先日、田尻先生の研修会に参加させていただいた時に、研究室で小学生に授業をされているとおっしゃっていらしたのですが、小学生に教える際に、どんな点に重きをおいて、どんな活動をされているのか教えていただけたらと思い、メールさせていただきました。お忙しい中、長くつたない文を最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

  大学が地域貢献のために行っているプロジェクトの一環として、私も英会話教室のお手伝いをしています。授業をするのは私ではないのですが、私のカリキュラムに則って行っており、私はそれを見ながら指導者に適宜アドバイスをしたり、フィードバックを与えたり、児童の相手をしたり、ノートをチェックしてやったりしています。
  現在の6年生は、小学2年時から参加しており、正進社のTalk and Talk 1を終えて、中1の教科書を使って勉強しています。この教室で最も大切にしているのは、基礎・基本をしっかり身につけることです。
  「通じることが大切だから、間違いを恐れず英語を使おう」という言葉は、もちろん正しいと思います。しかし、それに加えて「その上で、英語で言えなかったことや、聞き取れなかった部分などを録画等で確認し、次回からはそれができるようになるためのフィードバックやアドバイスをもらうことを忘れずに!」というステップがないと、ブロークンな英語のまま、あるいは単語レベルでの意思疎通であり続けると思います。よくCNNなどでアメリカ在住のヒスパニック系の人がインタビューを受けているシーンが流れますが、彼らの英語は流ちょうでも、画面下には英語の字幕が出ていることがあります。そういう人たちは、accuracyは身につけず、fluencyだけを身につけてしまったということです。これを見て、やはり英語の基礎・基本と、間違った時の修正は大切だと思いました。

  私は、中1では、(1)英語らしい音を身につける、(2)音と文字とを結びつける、(3)使用頻度が高い英語の語順とその構成要素を知る、(4)Q&Aのしかたを知る、という4つの大きな目標を持って授業をしていました。それを小学生にも当てはめて、レッスンを組み立てています。
  (1)、(2)に関しては、ヘァツオン記号とフォニックスカルタを使って指導しています。ヘァツオン記号は、このWebsite Workshopの「英語指導の部屋」に載せています。この流れに沿って、アルファベットカルタ、音の足し算カルタ、そして田尻式フォニックスカルタ(ベネッセ・コーポレーション)を使いながら教えています。関西大学のホームページのKANDAI TOPICSの下の「もっと見る」のタブをクリックし、2020年度を選び、7月6日のところまでスクロールダウンするとヘァツオン記号の指導動画にたどり着きますので、こちらもご利用ください。
  単語がある程度読めるようになったら、曜日チャンツをし(『チャンツでノリノリ 英語楽習』NHK出版)、数字を使った活動を行い、さらに英語で加減乗除を練習しました。
  次に時刻を英語で言う活動を行い、基数になれた時点で序数に移行しました。そして、阪急電車の路線図を使って、最寄り駅から、お出かけスポットに行くには何番目の駅で電車を降りるかを言う活動をしたり、月の名前を覚え、様々な記念日を英語で言う活動を行ったりしました。
  ここから(3)、(4)の語順や文構造の学習に入っていきます。
  1) パンチゲームで主語+be動詞の組み合わせを覚える。
  2) パンチゲームで主語+do/doesの組み合わせを覚える。
  3) 語順2-Aで自分の調子や天気を言えるように、単語を覚え、その日の自分の調子とお天気を英語で言えるようになる。
  4) 語順1-AでI like 〜.を使い、自分の好きなものをたくさん言えるようになる。(Cランク:I like 〜. Bランク:I like 〜 very much. Aランク:I like 〜 the best / the most.)
  5) 語順ワークを行う。
  6) 様々な単語を聞いて文字にする活動を行う。
  7) Write and Talk and Talkを使った学習を行う。
  8) 中学校で学習する6種類の疑問文(付加疑問文と間接疑問文を除く)を学ぶ。(6種類の疑問文に関しては、『おたちょこ』(正進社)をご参照ください)
  9) 教科書を使った学習を行う。

  早い児童は小学4年でNew Crown English Series 1を使って語順表指さし暗唱をしたり、1人称で書かれた文を3人称に直して語順表指さし暗唱をするというレベルに達しました。しかし、小学生ですから、スキルアップのための活動ばかりやっていると飽きるので、子どもたちに大人気の「フラッシュ太郎」(2012年〜2014年放送のNHK Eテレ『テレビで基礎英語』から)の視聴時間を設けました。
  また、家で親に反抗したり、気持ちが荒れたりといった相談も多くなった時は、心を耕す活動に重きを置いたり、災害の時に、身の回りのものをどう活用するかをI will 〜. で言う活動をしたり、日本語で文章を書かせ、その中から3つ単語を選んで○で囲み、チャレンジ英和辞書で調べさせたりしました。テーマは、「先生、あのね」、「日本の行事」、「環境問題」、「サンタさんへの手紙」、「新年の抱負」などで、コンテンツに意識を持っていくことを心がけました。

  この英語教室が始まって5年が経過しましたが、小学生は中学生の2〜3倍の時間がかかることが分かりました。これは、国語力が十分身についていないのが要因だと思われます。ですから、外国語を学ぶ前に、まず母語をしっかり学習して言語力を伸ばし、論理性や抽象的思考力を身につけなければ、単純な会話しかできないということです。2020年小学校入学児童は最初の2年間はほとんど学校に行けておらず、国語や算数の授業を十分に受けていないので、私の教室ではまず学校の国語や算数の宿題を終えてから英語のレッスンに入るようにしています。最初はすぐにイライラして、「ドリル帳、破いたろか!」などと叫んでいましたが、今は落ち着いて座学しています。
  2018年度小学校入学児童は、小2で始め、小6でやっとで中1の教科書が終わるかどうかというところですが、この5年間があってこそ、中1で躓かないと思われます。つまり、今の中1の教科書を消化するには、それだけの時間が必要だということです。そのためには、意味も構造もよく分かっていない英文を丸暗記してやりとり(会話ではなく、相互暗唱)をするよりも、少しでも小学校で英語の基礎・基本を身につける活動(パンチゲームや代名詞ダンス、フォニックスカルタなど)を行うといいのに、と思う今日この頃です。

 
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