高等学校の文法の授業とは、英語表現(2022年からは論理・表現)だと考えますが、英語表現の検定教科書は、左ページにターゲットとなる文法事項を用いた例文や文章があり、右ページには適語選択、和文英訳や並べ替え、書き換え、空欄補充や自由英作文、まとまりのある文章を読んでから意見や考え、感想などを述べるなどの問題が並んでいるものが多いと思います。読み物以外の英文はそれぞれが独立しており文脈がありませんので、それらを全て覚えるのはかなり骨が折れると思います。しかし、英語の学力は英文や語句を暗記してこそ向上するものですし、先生方も教科書の内容を理解したか、暗記したかを問うテストを作られますので、結局のところ生徒は教科書の文や語句を覚えなければなりません。
私の教養英語のクラスに、中高はほとんど学校に行かず、高校卒業程度認定試験を経て入学してきた学生がいました。彼女は問題集を買ってひたすら暗記したそうで、英語の独学で一番大変だったことは何だったかを尋ねたところ、「中学校に行っていないので英語の基礎がなく、英文の構造がよく分からない状態でひたすら覚え続けたことでした」と言いました。私が、どうしても分からない文や、なかなか覚えられない時はどうやって解決したのと尋ねたところ、「予備校に行って先生に聞きました」と答えました。
英文や語句を覚えるに当たって彼女が必要としたのは、事細かに全てを説明してくれる教師ではなく、分からないところをピンポイントで教えてくれる教師であり、それ以外は独学で十分だったということでした。語学は「理解」→「暗記」→「応用・発展」という順に進みますが、彼女はまず問題集の解説を読んで自力で「理解」しようとし、次に「暗記」にチャレンジし、「理解」が不十分で「暗記」できない時は予備校の先生に「理解」するまで教えてもらい、「暗記」の速度や確実性を高めようとしたのです。
これを文法の授業に当てはめてみてはどうでしょうか。家庭で左ページの例文と解説を読み、右ページの問題をやってくる。そして、授業で解答を配布する。分からないところがあれば、クラスメートや先生に聞き、理解してから暗記に入る。それから覚えたかどうかを確かめるクイズ合戦をペア、グループ、クラスで行う。このやり方だと、教師が解説するのは生徒のリクエストがあった問題のみですから、暗記に時間を割くことができ、授業が活性化すると思われます。私の場合、使用教科書のガイドブックを購入することは認めていました。家庭での「理解」を促進してくれますし、答え合わせも家庭でできるからです。
私は「理解」は極力プリントで済ませ、授業中は生徒に「暗記」や「応用」の活動をたくさんさせました。そして、まだよく分からないものやしっくりいかないものがあれば説明すると伝え、リクエストがあれば解説し、聞きたい生徒だけに聞かせていました。聞く必要がない場合は、どんどん暗記するよう指示し、説明し終わると教室を回って生徒の暗記の様子を観察し、完全に英文の意味や構造を理解しておらず、暗記がうまくいかない生徒には、語順表を使って説明し、理解を深めさせました。そして、最後は問題集を使って生徒同士でクイズ合戦をさせたり、暗記大会を行ったりしました。
英語科教育法の授業で、「その社長さんはそれ以上社員が辞めていくのを食い止めるために、新しいシステムを作った」という文を英訳させましたが、人数分の異なる解答が出ました。The president established a new system in order to prevent his employees from leaving his company. や The president set up a new system so that his employees would not quit any more. など、The presidentで始め、in order toやin order not to, in order that, so that, so as not toを使う学生が多く、中にはlest … shouldを使った生徒もおり、高校で学習した表現の豊かさを味わいました。The new system that the president made stopped his employees from quitting. という文は、「おおー、無生物主語!」という声を引き出しました。しかし、一番教室が湧いたのは、If the president hadn’t set up the new system, he would have lost more (of) his employees. でした。ofは抜けていましたが、仮定法過去完了を使ったことでどよめきが起こりました。高校英語って、こんなに面白かったんだ、というのが学生の感想でした。
時折、苦しい学習がこのような実りをもたらすことを、生徒が味わうことができるようにされるのも、一案だと思います。