英語は積み上げの教科であり、体育や音楽などと同じ技能教科です。1つひとつの技能が身につくまで、繰り返し練習しなければなりません。技能教科では、授業の中でこれから身につけるべき技能(what to learn)を1つずつ紹介し、その練習法(how to learn it)を体験させます。体育や音楽は道具などが要りますので基本的にその授業中に勝負しなければならないのですが、英語は家に帰ってたっぷり練習ができるのが教科の特性です。
英語は「外国語による聞くこと,読むこと,話すこと,書くことの言語活動を通して,簡単な情報や考えなどを理解したり表現したり伝え合ったりする」ことが目標ですので、そのための表現を身につけなければなりません。とすると、ご質問の教科書のパートでは、Harry Potterで出てくるdining hallはOxford UniversityのChrist Churchというcollege内にあるthe Great Hallがモデルであることを紹介し、生徒の「知りたい」、「知ってもらいたい」という気持ちを引き出して英語使用を促すと同時に、存在を表すbe動詞の使い方、it takes 時間、know 〜 from …、remember 〜 from …、be full of 〜などの表現を身につけることが目標となります。このパートではいわゆるキーセンテンス/ターゲットセンテンスはありませんが、覚えるべき表現や語句は複数あります。
中学教科書の英文を全て身につけると、日常会話ができるようになります。高校教科書(特にadvancedレベル)の英文を全て身につけると、ビジネス英語ができるようになります。ですから、教科書本文は暗記して使いこなせるようにしなければなりません。そのためには、英文の意味と構造が分かった上での、文字を音声化する音読と意味を音声化する音読の2種類が必要です。
そこで私の英語科教育法を取っていた学生が2016年度に作った教材では、このパートは次のような活動を採用していました。
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学生A |
学生B |
「理解」 |
勝手に英会話A (セリフ作成) |
音声ガイド |
「暗記」 |
勝手に英会話A (セリフを元に暗唱) |
文頭数語ヒント音読 |
「応用」 |
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ひねくれ者音読 |
「発展」 |
勝手に英会話A (セリフを英訳) |
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このパートはこれらの活動ができるようになることが目標となりますので、授業で紹介し、体験させたら、あとは家で習熟させます。そして、翌日以降に、それができるようになったら教師の目の前で披露させ、できたら平常点を与えるなどします。活動の詳細については、拙著『英語教科書本文活用術!』(教育出版)をご参照ください。
英語の授業はテレビ番組の「水戸黄門」とは異なり、「導入→展開→まとめ」という形で50分の授業が毎回なされることなどないのです。例えば「現在完了に慣れ親しむ」などという目標は数年かけて達成されるものです。「私は彼女の誕生パーティーに招待されている」は現在形ではなく現在完了形ですが、その感覚を身につけるには何年もかかります。他教科の先生方にそのことを説明し、「英語は積み上げの教科であり、数時間、あるいは数ヶ月、場合によっては数年かかって1つの目標を達成する教科ですので、1つ1つの授業の“学習目標”よりも、長い目での“達成目標”を作成する方がなじみます」と説明してあげてください。