田尻先生
Q.49
以前、田尻先生の研修会で、「習熟度別授業はやらない方がいい。それより、助け合い学習だ。上位の生徒をいかに引きつけ、味方にするかが鍵だ。そのためには上位の課題を先に与え、それから中位、下位の問題を与える。上位はほっといても自分でやる」というようなことをおっしゃっていました。今学期から、習熟度をやめ、均等に小集団で授業を行っていますが、やはり、上位用に投げ込み教材をどう入れていくのか、まだ結論が出ていません。今まで上位集団だった生徒もおとなしく、クラスでの発言も少なく、あまり均等化することのメリットを感じていません。グループ学習で助け合いの活動を入れていますが、うまく機能させるためにはどのような視点を持って取り組んでいくべきでしょうか。  

 私は習熟度別授業を否定しているのではなく、クラスを習熟度別に2つに分けて、別教室で授業を行うことに反対しています。成績が芳しくない生徒が成績上位の生徒の発想や学習姿勢に刺激を受けることがないからです。強豪チームがリーグにいるからこそリーグ全体の底上げにつながるのであって、下位チームばかりだとリーグのレベルが上がらないのと同じです。

 少人数学級は、成績上位、中位、下位の生徒が混在するので、協力的な学びが生まれ、教師も一人ひとりの生徒を見やすくなるので、賛成です。私は全校で50人前後の学校に勤めたことがありますが、1クラス15人前後の生徒数でも、これだけ多様性があり、これだけ一人ひとりを見ることは大変なんだと痛感しました。40人学級ではほとんど生徒を見られていなかったと感じ、それまで教えてきた生徒たちに対して申し訳なく思ったものです。

 協同学習は、習熟度別活動を入れることがポイントになってきます。①基礎的な活動、②応用の活動、③発展的な活動という3種類の活動を用意し、③の活動が終わって満足した生徒が、まだ①や②でつまずいている生徒に手を差しのべるのが私の授業スタイルです。各文法項目、教科書本文を使って、3種類以上の活動を用意しておき、どこまでできるか勝負させています。ですから、先生がおっしゃる「上位用に投げ込み教材をどう入れていくのか、まだ結論が出ていない」というのは私には当てはまらず、「とりあえず下位、中位、上位用の3種類(以上)の活動を用意し、やらせてみて、うまくいかなければ原因を明らかにして改善していく」という流れで授業を行い、指導法を研究しています。つまり、常に試行錯誤しているのであり、うまくいくのは失敗を経てからということが少なくありません。「まだ結論が出ていない」状態であれば、失敗もしないと思いますので、とりあえず用意した上位生徒用の活動をやってみられることをお勧めします。
 「今まで上位集団だった生徒もおとなしく、クラスでの発言も少ない」というのは、少ない人数に違和感を覚えているのが原因かもしれません。そうであれば、そのうちに慣れてきます。実際、1クラスが20人を切る学校はたくさんありますし、少人数学級で授業をしていても活発に授業が進んでいる学校もたくさんあります。むしろ、40人学級では発言しにくかったのが、半分の人数になってより発言しやすくなったというケースは多いと思われます。

 授業が活発化しない原因としては、先生が行っておられる活動に生徒が魅力や効果を感じていない可能性も考えられます。最初は環境の違いにとまどっても、今行っている言語活動や学習活動が面白い、力がつくと思ったら、生徒は夢中になります。私が大学で担当している20人ほどのスポーツ推薦クラスでも、50人に近い法学部の教養英語のクラスでも、活動が知的で力がつくと思ったら、大学生でも必死にやります。全国から集まった面識のない同級生に最初はとまどいますが、ペアやグループ活動を入れ、それをどのように行い、どのようなことができると平常点が何点入るかを説明すると、初日からメールアドレスや電話番号を交換し、連絡を取りながら予習をしてきます。学生からは、「活動が知的で面白いが、こんなしんどい授業受けたことがない」とか、「しんどいけど力がつくから納得できる」、「中高のときにこういう授業を受けていたら、もっと英語ができるようになっていたと思う」などという感想が出てきます。もちろん、すべての学生のニーズにこたえきれているわけではありませんから、今後も彼らの声を聞き、改善に努めていきたいと思っています。

 ペア・グループ学習がうまく機能するためには、ペアやグループで助け合いをしないといけない状況を生み出すことです。ペア・グループ学習は、助け合う、自分がわかっていることを相手が分かるように伝える、相互チェックする、異なる意見を知る、ディスカッションする、コンセンサスを得るなどを目標として行いますので、生徒さんがその面白さを味わえるよう、工夫してみてください。

 
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