田尻先生
Q.50
リスニング能力の向上に関して、「リエゾン」の指導が不可欠であると思っております。しかし、指導の方法として、インプットの量が多く、うまく体系的にインプットできないという課題を抱えています。また、インプットした内容をいかにしてリエゾンのトレーニングとして実施すればよいのか悩んでおります。ぜひ、アドバイスを頂戴したく思っております。よろしくお願い致します。  

 リスニング力向上のためには、「真似音読」が不可欠です。ネイティブの発音を真似ることで、ネイティブの発音に慣れていくからです。

 公立高校入試におけるリスニング問題のスクリプトはアメリカやカナダの方が読んでいることが多いと思われますが、その場合、以下の4つの特徴を知っておく必要があります。

1. 母音やyで始まる語は、直前の語の語尾が子音の場合、音が連結する。
2. 破裂音で終わる語は、その直後に破裂音で始まる語が来る場合、語尾の破裂音を発音する直前でやめてしまうことが多い。
3. 母音+rで終わる語は、直後に母音で始まる語が来るとき、音が連結する。
4. 母音+nで終わる語は、直後に母音で始まる語が来るとき、音が連結する。

 1は、is aやhave you、talk aboutなどが連結して「イザ」、「ハヴュー」、「トーカバウトゥ」などと聞こえる連音現象(Linking)です。

 2はeat dinnerのt、read booksのdが、口の構えはしていますが、最後の破裂まで至らない現象です。その結果、それぞれeaッdinnerやreaッbooksと聞こえます。この消滅ルールが当てはまり、生徒が一番ひっかかるのがat theです。theは破裂音ではありませんが、atの後にtheが来る場合、atのtがほとんど聞こえずaッtheとなり、「ア(ッ)ダ」のように聞こえます。それに加えて、atが母音で始まるので、例えばmeet at theは「ミータ(ッ)ダ」となり、生徒を混乱させます。

 3は1の連音(Linking)の一種です。アメリカやカナダの方はer, ir, ur, ar, or, ear, ourなどの「母音+r」が出てきた場合、rの部分を発音しますので、直後に母音で始まる語が来るときは、その部分が連結します。hear+ingのrとiはつながりますし、wonder+ingやconsider+ingのrとiもつながります。
 それに対して、イギリスやオーストラリアの方は「母音+r」のrは発音しません。しかし、直後に母音で始まる語が来ると、途端にrが復活し、つなげて読むのです。ですから、hearingを「ヒアイング」と言う人はいませんし、wonderingを「ワンダイング」と発音する人もいません。ちゃんとringという発音が聞こえるのです。この現象をリエゾンと言います。

 4は、nという文字を発音するときの約束事が大きくかかわってきます。英語ネイティブの人は、nを読むとき、舌先を上の歯の付け根付近に必ずつけて発音します。ですから、can, on, inをゆっくり読んでもらうと、「キャンヌ」、「オンヌ」、「インヌ」と聞こえるのです。このように語尾のnは「ンヌ」だと思ってください。ですから、can youは「キャンヌユー」となり、早く言うと「キャニュー」と聞こえます。「キャンユー」とはならないのです。この4番目のルールをマスターしないと、「1時間で」を「インアンアワー」と言ってしまい、英語ネイティブの方が「イナナワ」と言うと同一視できないのです。そういう生徒は、スクリプトを渡されると、「えー、こんな簡単なこと言ってたのか」と声を上げます。
 このように、1〜4は生徒が普段から意識して身につけないといけないものです。高校入試のリスニング問題では、必ずこの4つの特徴が反映されているからです。

 一方、大学入試のリスニング問題では、この4つに加えて次の6つの特徴が加わります。これらは、スピーキングの際にやる必要はありませんが、知っておかなければならないものです。

5. アクセントが来ないタ行の音は、ダ行や日本語のラ行になまることが多い。
6. hで始まる語は、そのhを発音しないことがよくある。
7. [t], [d]という音の直前に[n]という音がくる場合、その[t], [d]は発音しないことが多い。
8. [t], [d]という音の直後に[n]という音がくる場合、その[t], [d]は発音しないことが多い。
9. [t], [d]という音の直後に[l]という音がくる場合、舌先を上の歯の付け根につけたままで、舌の横から息を抜いて一気に発音することが多い。
10. [st]で終わる語の直後に[st]で始まる語が来る場合、[st]は1回しか発音しないことが多い。

 先生方は、リスニング問題に取り組ませたあとに解説をするとき、スクリプトの英文の意味は伝えておられますが、1〜10のどのルールが当てはまってどのような聞こえ方をしたのかを解説しておられないケースが多く、それがリスニング力向上を阻害するファクターになっていると推測されます。ですから、先生がおっしゃるように、リエゾンを含めた音の連結、消滅、崩れ、同化などは、体系的な指導が必要です。

 
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