田尻先生
Q.46
田尻先生は授業はすべて英語で教えていらっしゃるのですか? 例えば中学1年生に英語を教える場合、すべて英語で教えようとすると、すべての生徒に理解させるのにかなり時間がかかるように思うのですが、いかがでしょうか。ずっと英語で話し続けて、わからない時間が多くなると、理解することをあきらめる生徒も出てくるのではないでしょうか。現在30人クラスの中1を一斉に教えており、ひと月後には習熟度別クラスで、基礎クラス10人、標準クラス20人に分けて指導する予定です。習熟度別になれば、ターゲットを絞ってもう少しやりようがあると思いますが。
学習能力がある程度ある生徒なら、英語での指示を理解しようと集中すると思いますが、そうでない生徒にはどのようにすればいいのでしょうか。
ただ、ほとんど英語で授業するだけの表現力が自分に足りないせいで、日本語をついつい入れてしまっているのかもしれないとも思います。
ほとんどを英語で教えるのは、独りよがりな授業になってしまわないか、との不安もあります。
田尻先生は日本人英語教師が、英語を使うこと、日本語を使うことをどのようにお考えでしょうか。さらに、ALTが話していることをあまり日本語で説明したくないのですが、いつもどの程度日本語で説明すべきか悩みます。ジェスチャーを入れて理解させることもありますが、難しい部分は日本語を入れることもあるし、その割合は日本人の先生の考え方にもよります。
また、 slow learner にとって、アルファベットを書くこと、英単語を書くことはかなり難しい作業のようですが、そのあたりの指導はどのようにされていましたか。
 

 英語の授業は、極力英語で行うのが望ましいでしょう。しかし、教師の独りよがりの英語であってはいけませんし、生徒指導や文法説明の場面など、日本語を使用する方が効果的な場面も多々あります。また、英語のニュアンスを味わうときなどは、日本語を使わないとわからないこともあります。英語の授業で日本語の使用を否定することは、日本語という財産を生かせないことになってしまいます。何事もバランスだと思います。

 私は5つめに勤務した中学校では90%以上英語で授業をしていましたが、持ち上がりの3年生が卒業するときに実施したアンケートで、私の英語がほとんどわからず、周りに合わせて反応していたと書いた生徒がおり、とても申し訳なく思いました。私はその時々の生徒の語いを把握しており、極力生徒がわかる英語を使っていましたので、生徒は私の英語を理解してくれていると思っていました。しかし、アンケートやヒアリングをして、理解できていない生徒がいないかどうかを確認することはしておらず、教師にありがちな「調べてはいないけれど、多分そうだと思う」という考え方でいました。それ以降、生徒がどれぐらい私の英語を理解しているかは、常に把握するようにしました。そして、理解していない場合は極力簡単な英語に変え、それでもわからない場合は、自分が言った英語を書き出して解説してから再度使うようにしました。生徒の理解度をチェックするということは、クラスルームイングリッシュに関しても同様なのだと強く思わされた出来事です。

 6校目ではまず日本語で授業をし、場面と必要に応じて新しいクラスルームイングリッシュを紹介してノートにそれらを書き写させ、毎日私が使ったり生徒に使わせたりすることで慣れていくよう心がけました。そして、2学期のある日に「今日全部英語で授業したけど、気がついた?」と尋ねたところ、「え、そうだっけ? 気がつかんかった」と言われました。

 英語で授業をするためには、生徒の理解度をチェックするとともに、生徒がわかる英語を計画的に増やしていくことが大切であり、英語で進める授業に生徒がちゃんとついてこられるかどうかは、教師の計画性が大きく影響します。

 クラスルームイングリッシュはノートの最終ページ(通常60ページ目)から前のページに向かって書き写させていましたので、生徒は何か私に言いたいときは、ノートの後ろの方のページを開いて "Excuse me, Mr. Tajiri. May I use a dictionary?" などと言っていました。このサイトの「到達目標」のページにも載せていますが、1年の1学期に20種類、それから学期ごとに10種類ずつ追加して、最終的には100種類のクラスルームイングリッシュを使っていましたし、生徒が使うクラスルームイングリッシュもたくさん紹介していました。
 クラスルームイングリッシュを毎日使うことは、英文の定着につながります。中1のとき、ついつい毎日のように教材を忘れてきて、いつしか "Excuse me, Mr. Tajiri. I forgot my Talk and Talk at home, so may I ask ○○○ to show me his Talk and Talk?" という文をすらすらそらんじる生徒がいましたし、おなかを押さえて "I’m sorry to be late. I have a stomachache, so may I go to the school nurse’s room?" と知っている英文を応用した生徒がいて、急いで保健室に行かせたこともあります。

 これは、英語が話せることは楽しいと生徒が思っていたことも一因です。私の生徒は語順表を参考に、英語で言いたいことを表すことができていたので、生徒の発するクラスルームイングリッシュは豊富でした。

 一方、私が使うクラスルームイングリッシュは、いわばリスニングの練習にもなりますので、発音やイントネーションなどには気をつけました。生徒がリスニングに強くなるか、それとも間違った音を使われてリスニングが苦手になるかは、教師の英語力にかかっているからです。そして、生徒が理解していないと思ったときや、慣れてしまって英文の最初の部分だけ聞いてすぐに動き始めたりしたときは、最後までその文を聞かせて、その文の意味も確認させるようにしていました。
 例えば、 "Put everything in your desk and get ready for the card game." と私が言うと、"in your desk" のあたりで生徒が動き始めたので、本当にこの文やそれに含まれる語句の意味がわかっているかをよく確認したのです。そうでないと惰性で動き始め、結局はクラスルームイングリッシュが定着しないことになります。聞かせるだけでは定着しないのです。

 このように、英語で授業を進める場合、生徒がわかる英語を増やしていくことと、最終的には定着させていくことを戦略的に進めていかなければなりません。教師の独りよがりの英語にならないよう、心がけていきましょう。

 アルファベットを書くことや英単語を書くことに関しては、『生徒の心に火をつける』(教育出版)をご参照ください。

 
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