田尻先生
Q.45
中学校では新しい教科書になり、多くの学校でデジタル教科書が導入されています。昨年度まで使っていた、フラッシュカード、ピクチャーカード、CDは使わなくなりました。しかし、まだまだデジタル教科書の機能、画面の文字の大きさ等、改善点も多いように感じています。また、板書についても、画面に出すことによって黒板を使うことは、ほとんどなくなってきました。ICTを利用した授業が、これからも、研究されてくると思いますが、便利になる一方で、情報量も過多になり、使い方を一歩誤ると、生徒たちの英語力向上には、つながらないようにも感じています。また、デジタル教科書の導入によって、ALTの存在意義についても、再考しなければなりません。週4時間になり、生徒達が授業で英語と接する時間が増えたことは、よいのですが、このデジタル教科書、ALTをも含めた授業プランを考える場合、どのようなことに配慮しなければならないか?考えをお聞かせください。  

 ICT教育の可能性と危険性については、大修館『英語教育』2012年10月号の拙稿をご覧下さい。ご質問の大部分に対する回答がそこにあります。ご指摘の危惧は、私も同感です。

 現在発行されているデジタル教科書は、私なら使いません。アナログ教科書やCDプレーヤー、フラッシュカードなどで十分その代わりができますし、むしろ効果的であるとすら考えています。授業は、家でできないことをする場です。同様に、デジタル教科書はアナログ教科書でできないことを保証すべきだと思います。

 ご質問のなかで気になったのは、「デジタル教科書の導入によって、ALTの存在意義についても、再考しなければなりません」という部分です。ICTの導入によって、ALTの存在意義が薄れることは全くありません。

 ALTを新出語句の発音モデル、新出文型を盛り込んでスキット化した演技、教科書本文の音読モデルなどで使うのなら、ICT教材の導入によってALTの存在意義はなくなるでしょう。しかし、それがALTの主たる仕事ではありません。「理解」→「習熟」→「応用・発展」という学習プロセスのなかで、ALTは主に「応用・発展」の部分で生徒一人ひとりに向き合うときに大いなる手助けをしてくれる存在ですし、英語ネイティブに通じるかどうかを試すという、生徒にとって究極の活動の相手であるはずです。(詳しくは『(英語)授業改革論』(教育出版)の第3章などをご参照下さい。)

 説明を効果的にするためにICTは有効ですが、ICTは生徒一人ひとりを伸ばしてくれるわけではありません。一人ずつ生徒と向き合い、できていないことを明らかにし、原因を分析し、アドバイスを与え、次の学習を促し、その成果を見る、というプロセスを経てこそ生徒の学力は伸び、教師と生徒の信頼関係が築かれます。それが教師の仕事であり、存在価値であり、ALTもその部分に関わることができますし、関わるべきだと考えています。

 また、ALTとのティームティーチングは、ALTがいるからこそできることをするものであり、ALTがいる授業でALTでなくてもできることをやらせている限り、ALTを有効活用しているとは言えません。したがって、ALTとのティームティーチングでデジタル教科書を使うことはほとんどないと思います。ALTが来ると教科書を進められないという先生は、ALTの内容に関してQ&Aをしてもらうとよいと思います。もちろん、個別にです。そうなると、生徒は教科書の内容を消化し、応用できるようになっておかなければならなくなり、教科書本文の定着が図れます。教科書を進めることも大切ですが、定着させなければ意味がありません。

 ALTとのティームティーチングでICTを使う場面は、いくつか考えられます。画像や映像を使ったり、音楽を使ったりする場面です。私の知っている小学校のALTは、パソコンを駆使してとても魅力的な授業を展開しています。彼は、ICTで児童を引きつけることができるのです。私の場合、ALTとのインタビューテストを個別に録画して、インタビューテストの直後にその映像を見ながら生徒本人と反省会をしていましたので、それは「ICTを活用した授業」と言えるかもしれません。

 いずれにしても、ALTとの効果的なティームティーチングは、自分がALTの立場だったらどう使ってほしいかを考えることが第一歩となります。ALTは英語教員にとって、一番身近な国際理解の相手です。ぜひ、彼らの気持ちを考えてあげて下さい。祖国に帰ったALTたちが、「日本ではいい思い出がない。自分は必要とされなかった。もう日本には行きたくない」と言っているのか、「日本ではやりがいを感じ、充実した毎日を過ごした。皆さんとてもいい人たちで、いつかまた日本に行きたい。祖国と日本の架け橋になれたらいい」と思っているかは、JTE、すなわち日本の英語の先生方の彼らに対する扱いにかかっているのです。

 
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