田尻先生
Q.39
中高一貫校で指導をしている教師です。うちの学校は活動を取り入れた授業が、あまりすすんでいない学校だと思います。そんな中、学年の変わり目で、前任の担当の先生から授業を引き継ぐことが多くあります。前任の先生のご指導が、文法・訳読の割合が高かった(活動もされていましたが)ためか、音読活動をさせても生徒の声が小さく、自信がなさそうな状態を脱することができておりません。自分が中学1年生から担当した時は、自分のペースで指導できるのでいいのですが、引き継いで自分の授業のペースに持っていくことが、まだうまくできていないと思います。田尻先生の数多くのご経験から、注意すべきポイントなど教えて頂ければと思います。  

 先生方はそれぞれの先生なりのやり方をお持ちだと思います。しかし、それは人に押しつけられません。(確実に)成功する手法や現場で積み上げられてきた経験知は共有すべきですが、確証のない、ただ「自分がやってきた」だけのやり方を押しつけるのは、誰にとっても利益がありません。残念ながら、それをやってしまう教員は少なくありません。まず先生が、自信を持って後輩に伝えていくことができる知識技能を持ってください。そうでなければ、生徒が喜ぶことはありません。

 先生の生徒さんが音読するときに声が小さいのは、何が理由ですか。自信がなければ、自信をつけてやることをめざします。楽しくないのであれば、楽しさを加味します。意義がわからなければ、意義を伝えます。生徒は、やっていることが楽しかったり、そこに意義を感じたりすると、ちゃんと行動するものです。

 私はよく生徒対象にアンケートを取りましたが、中3の最終アンケートでは、「楽しくて力がつく活動」がランキングの上位を占め、次いで「さして楽しくはないが力はつく活動」が並んでいました。「楽しいけれど力がつくとは思えない」活動からは、生徒の心が離れていきます。私の生徒の場合、人気度1位の活動は中3の“My Treasure”(Show and Tell)というスピーチでした。これは、「楽しさ」「感動」「英語力伸長感」のすべてが入っていたからです。

 和訳、文法は、生徒にとっても、本来は楽しい活動です。ただし、教員が一方的にやるのではなく、生徒がその楽しさを味わえるようなレールを敷くことが必要です。前任の先生が文法訳読式の授業をしておられたからといって、それを全否定することはありません。うまくやっておられたのなら、そこから学べばいいと思います。

 もし生徒が前年度の先生の授業を楽しんでいなかったなら、英語が面白くなってきたと思ってくれる活動を用意し、「先生に習うようになってから、英語が好きになった」と言ってもらうことをめざしましょう。

 次に、「去年は〜していた」、「前の先生は〜していた」と生徒が言ってきたときの対応です。こういう場合、教師が「私は自分のやり方を持っている」と言うと生徒の反発を招きます。生徒は、新しい先生を試しているのであり、前任者を支持しているわけではありません。支持しているのなら、「前の先生のやり方は力がついた」など、「好きだ、よかった、力がついた」というような言葉がつきます。

 「去年はどうしていたの?」と尋ねて前任者の手法を知り、それを踏襲するところから始めてもいいのではないでしょうか。そして、少しずつ自分なりのやり方を紹介していき、そのうち「先生のやり方のほうがいい」と言うようになることをめざしてはどうでしょうか。もちろん、そう言わせる手法を持ち合わせていなければなりませんが。

 私の場合、「去年はどうしていたの?」という質問に対して、「さあ」とか「忘れました」と返事する中3を飛び込みで受け持ったことがあります。最初の数か月は苦労しましたが、最後は切磋琢磨する学習集団に変身していました。キーワードは、「面白い」と「できた!」でした。詳しくは、『(英語)授業改革論』や『生徒の心に火をつける』などをご参照ください。

 
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