田尻先生
Q.37
私の勤務校ではかなり文法指導に力を入れているのですが、あまり定着していないようです。私は「教師がひたすら説明する形式の授業では、生徒が退屈してしまうだけでなく、なかなか知識が定着しないのでは」と思い、授業形式を大きく変えました。グループ活動を通して、生徒間でテキストのわからないところを教え合うようにし、私が机間指導でサポートをすれば、より個別に生徒に対応できると思ったのですが、友だちや私に質問しようとする生徒はほとんどおらず、また生徒の理解も進んでいません。他にもっとよいやり方があるのでしょうか。  

 基本的に、そのやり方でよいと思います。私も同様の発想で生徒にグループ活動をさせていましたが、とても活発に行っていました。しかし、先生の学校では同様の成果は見られていないようですね。何が原因かは生徒から学ぶのが一番ですし、学年や時期によっても生徒の心理は異なりますので、私の考えは憶測に過ぎませんが、「生徒の目的意識が高くない。英語が上手になりたい、わかるようになりたいという気持ちが充実していない」、もしくは「生徒間の人間関係が確立されておらず、話し合いをすることに躊躇したり、先生に個人的に質問したりすることで、目立ちたくないと考えている」などが考えられると思います。

 前者を解決するためには、活動を点数化することです。「ちゃんと理解したことを証明したら、平常点として何点か与える」と宣言されれば、生徒は本気で取り組むと思います。

 後者は、入学直後や新しいクラスになった直後によく見られる現象です。その場合、まずは異なる意見を引き出す個別学習をさせ、お互いの意見を鑑賞し認め合う体験をさせて心のバリアを取り除いてあげると、ペア活動やグループ活動に対する抵抗が少なくなってきます。いずれにしても、まずは生徒の気持ちを理解することに力を注いでください。

 私は大学で全学共通外国語科目の英語も教えていますが、グループ活動やペア活動を多く取り入れ、できたことに対して点を与えています。授業の冒頭で今日何をするかを黒板に書き、それぞれの活動ができたときのポイントを書けば、あとは学生がどんどん動くだけです。全体に指示するのは90分の授業のうち30秒くらいのことで、残りの時間は学生がどんどん学習していきます。

 授業では、文法や修辞法、語感などについて学生にどんどん尋ねています。センスグループ訳も毎回のようにやらせますし、複雑な文構造を持つ英文については必ず質問をします。単元を締めくくる活動の1つとして全文訳をさせることもあります。全文訳は文構造を理解していないとできないからです。ですから、おそらく私が学生に尋ねていることは、高校の先生方が教えないといけないと思っていらっしゃることとさほど変わらないと思います。しかし、手法は異なります。先生もお感じになっているように、教師が一方的に説明したり、生徒を一人ひとり指名して答えさせたりするなどの方法では、生徒が英語を好きになる可能性が低いからです。

 教科書を使った私の授業では、以下の手順で進めています。

(1)センスグループ訳などを宿題としてやる。

(2)授業の冒頭で宿題をチェックし、平常点をもらう。

(3)学生を4〜6人のグループに分かれ、お互いに宿題を見せ合い、
   ディスカッションをする。グループでコンセンサスを得て、
   全員が文構造や意味を理解したと思った時点で、
   田尻のところに来る。

(4)学生はくじを引き、3が出たら第3段落について田尻が
   ありとあらゆる質問をするので、それに答える。

(5)誰かが間違ったり、5秒間の空白があったりすると、
   そのグループは不合格になり、順番待ちをしている列の
   最後尾に並び直して、再チャレンジをする。
   合格したらポイントをもらう。

(6)合格したら、音読などの習熟の活動に移る。
   ここからは個人で学習する。

(7)学生は個別に音読や英訳、サマリーなどの課題に
   チャレンジし、合格したらポイントをもらう。

(8)そのトピックについて、教師やクラスメートと
   英語でディスカッションする。
   誰とディスカッションをするかは田尻が決める。
   2分間で5往復したら合格。

 英文構造などに関する質問は(3)でやります。不合格になって列の最後尾に並ぶと、その前のグループの学生が「何聞かれた?何で不合格になった?」と尋ね、「こういう質問をされた」と報告すると、数グループが合体して、順番を待つ列のなかで教え合いが始まります。その結果、私の質問にすべて答えることができたグループは、ガッツポーズや雄叫び、ハイタッチなどをしています。つまり、文構造や訳を言えることがエキサイティングだと思うように仕組んでいるのです。

 授業は(6)〜(8)が勝負です。(1)〜(5)までのところが習慣化されると、「一人ずつ指名して言わせた後に教師が解説する」というやり方より、楽しくスピーディーに進めることができます。そして最後のディスカッションで教科書本文を活用することができると、学生は音読の効果をかみしめます。「高校でもこのやり方をしてくれたら、もっと英語が好きになったり得意になったりしたと思う」と言う学生は多いので、試してみられてはいかがでしょうか。

 
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