田尻先生
Q.36
高校になると、リーダーの教科書本文では複雑な構造を持つ英文が頻繁に出てきます。文構造の解説をしないと生徒は英文を理解できないと思うので、難しい英文は毎回ピックアップして板書し、その構造を解説しています。ペアワーク(解説前にペアで和訳を相談させ、ペアにあてて答えさせる)も取り入れていますが、やはり解説に時間を奪われているように感じます。何かよい方法はないでしょうか。  

 複雑な構造を持つ文は、その構造が見抜けたときは楽しいですよね。実は、大学生に尋ねてみると、文法学習が好きな学生は少なくないことがわかりました。一方で嫌いな学生もかなりの数に上ります。

 さらに学生に聞いてみると、文法学習が嫌いな学生の特徴は、先生が一方的に説明するのを聞いてノートを取るだけだったので、実はほとんど理解できていなかったというものでした。それに対して、文法学習が好きな学生は、自分で文構造を見抜いたときの喜びを語りました。つまり、文法学習は本来楽しいものであり、その楽しさを奪う教師中心の教え込み型授業なのか、その楽しさを味わうようにし向ける学習者中心の授業スタイルなのかで、好き嫌いが分かれているように思いました。

 先生の授業スタイルは、先生が解説するか、生徒を指名して答えさせるかのようですので、生徒にとって楽しいものではありませんし、生徒を指名することで余分な時間を取っておられるように感じます。文法は、スポーツで言うとよいプレーができるコツのようなもので、教えるだけでは定着しません。練習するなかで体得しなければなりません。教える、話し合って決めるだけではなく、練習させながら理解させるということにチャレンジされてはいかがでしょうか。

 実は、複雑な構造を持った文を扱うときに最も有効な手段は、Read and Look Up(英文を読んだ後、顔を上げて英文を言ってみる方法)です。例えば、2009年6月19日放送のNHKラジオ『実践ビジネス英語』は、次のような1文で始まっています。これを Read and Look Up して暗記してください。

Although he claimed he didn't have a problem and that other people were to blame for setting him off, Madigan agreed to see a counselor who specializes in anger management after he was told renewal of his contract would depend on his doing something about his inability to control his temper.

 長い1文を Read and Look Up するためには、いくつかのセンスグループに分けて覚え、意味を考えながら復活しなければなりません。ですから、この1文を覚えようとすると、自然に脳内では構造分析と意味確認が行われます。これが言えたときの満足度は、想像に難くないと思います。また、最後まで言い切ってほめられた生徒は、どうしても覚えられない生徒を手伝ってくれるかもしれません。それは英語学習の喜びでもあります。

 語学は、「理解」→「習熟」→「応用・発展」という段階がありますが、「習熟」や「応用・発展」の活動のなかでさらに深く「理解」していくことも珍しくありません。この例も、「習熟」の活動のなかで「理解」を深めるやり方です。私は高校2年生に入試問題集を使って授業をしたときに、このやり方を取り入れてとても盛り上がりました。

 また、テキストのなかから、この文は生徒にとって難しいだろうと思われる文を選び、その構造を図式化してQ&Aや頭文字音読をするのも1つの手です。

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 『There be動詞 ⇒ 数量を表す語 + 誰・何が→どこ→いつ→なぜ』という語順の英文ですが、どの部分がどの構成要素に当たるかを確認させたら、以下のような図を見て暗唱させます。

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 次に、各語の頭文字を手がかりに暗唱させます。

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 最後は、語順指さし音読です。途中でア〜エに移動しながら、1〜6を指さしながら英文を復活できたら合格です。

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1 Now 2 there 3 are 4 more than 1,000 5 cranes <ア which イ live ウ there エ all year round>, 6 thanks to the efforts of the local people.

 高校の教科書は分量が多いので、すべての文を扱うことはできませんし、生徒にとってわかりやすい文もありますので、難解な文を抜き出してこのような活動をされてはいかがでしょうか。一度試してみて、生徒に理解度や感想を求めてみてください。

 
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