田尻先生
Q.35
1年生の授業で、今年初めて『Talk and Talk』(正進社)をメインに授業をし、教科書(Unit 1〜3)を3日間で終わらせました。授業研究を行ったのですが、半分には好評で、半分には大不評でした。特に年配の先生からは「教科書を使わないということはどういうことか」と怒られました。変わったことをするというのは、勇気がいりますね。うちの県は田尻先生を招聘して授業改革を進めるのに、授業改革をしようとすると学校の周りの先生に認められません。これからの授業はどうしていくべきでしょうか。  

 私にも似たような経験があります。故郷島根に帰って勤務した3つ目の中学校では、初年度に1年生を担当しました。最初はフォニックスから始め、5月からは『Talk and Talk』の原版のプリントを使って授業をしていました。すると、「教科書を使わない」、「自分たちが中学校のときと違ったやり方をしている」、「フォニックスなんて訳のわからないことを教えている」と苦情の電話が学校にかかってきたり、私の授業を批判する内容の匿名の手紙が校長宛に来たりしました。

 私は校長に呼び出され、先生と同じように「教科書を使わないとはどういうことか」と言われましたが、少し待ってくださるようにお願いし、結果を出すことに努めました。結果とは、生徒の学力が伸び、生徒がそれを感じて支持してくれることです。

 私はそのために指導法を研究し、生徒と対話し、自主教材を作り、毎日生徒の自学帳を点検しました。教育熱心な土地柄であり、生徒もよく自学帳を出してきたので私は空き時間や休憩時間はほとんどない状態でしたが、生徒と心がどんどんつながっていきました。英語の成績も優秀であったので、いつしか批判の電話や手紙はなくなりました。

 英語にも、”If you want to make enemies, try to change something” (Woodrow Wilson、第28代アメリカ合衆国大統領)という言葉があります。新しいことをやろうとすれば、必ず批判が出てきます。しかし、それはいつの世でも繰り返されてきたことであり、それを沈静化させたのは、民主主義国家では「世論の支持」です。生徒の優秀な成績と、生徒とその保護者の支持を得ることを考えてみてください。

 教育も他の職種と一緒で、若い世代が新しいことにチャレンジしなければ進歩が望めません。ベテランの先生の言葉で参考になることはどんどん取り入れ、そう思えない部分は若い世代が改革していってください。その意味で、「教科書を使わないとはどういうことか」という言葉には、説得力を感じられなかったのでしょうね。ただし、「半分には好評で、半分には大不評でした」という部分が生徒の反応だとすると、改善の余地があるはずです。そうではなくて先生方の反応ならば、半分の先生に認めてもらったことになるので素晴らしいと思います。

 なお、私は「教科書を使わないとはどういうことか」という問い(詰問?)に対しては、「教科書より力がつくものがあれば、そちらを使えばいいと思います。要は教科書を使うことではなく、生徒の学力を高めることが目的ですから」と答えていました。当時、私は教科書で英語力がつくとは思っていませんでした。そこで、東京や大阪に出て、書店を回って海外の教材を購入し、それをアレンジして自作教材を作成していましたので、教科書だけで授業をしている先生方よりずっと工夫をしていたと思います。

 先生は「『Talk and Talk』をメインに授業をし、教科書(Unit 1〜3)を3日間で終わらせました」と書かれているように、ちゃんと教科書を使っていらっしゃるじゃないですか。教科書以外の教材を使って英語力をつけ、それを確かめるために教科書を開き、初見でどれくらい読めるかにチャレンジするというのは、立派な教科書活用法です。

 
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