「昨年までの先生がやっておられた訳読式の授業がやはり落ち着くらしく、『わかりやすかった』という生徒も多い」ということですが、先生も「自分の力で訳す活動にも力を入れたい」とおっしゃっているので、双方の思いは同じ方向を向いていると感じました。ただし、生徒さんが言っているのが、「自力で訳すのではなく、先生が訳したものを写すほうが落ち着く」ということであれば、これはゆゆしき問題です。学びではなく、作業だからです。
和訳すると落ち着くというのは、慣れ親しんだやり方をすると安心するということであり、それは受け入れてあげればいいと思います。しかし、高校での英語の授業についていくためには、一語一語の意味を知り、センスグループごとの意味を把握したあとで、より美しい日本語にするにはどうするかを考えないといけません。最初から全文訳をしようとすると高校では失敗することを伝え、語句の意味を味わうように促してはいかがでしょうか。
私が担当している大学の教養科目の英語の授業で、「センスグループ訳をしてごらん」と言っても、「自分は全文訳のほうが慣れているし、全文訳で今まで困ったことはなかった」と言い張る学生がいました。私は、「じゃあ、今日はセンスグループ訳にチャレンジしてみて、すべて正しかったら来週は全文訳をしよう」となだめてやらせてみたところ、関係代名詞のthatと接続詞のthatが区別できていませんでした。これは、両方とも全文訳では訳さない語だからです。
〔例〕He insisted that he was innocent.
Is there anything that I can do for her?
それ以来、その学生はセンスグループ訳を否定しなくなりましたし、thatが文中に出るたびに注意深く確認するようになり、他の語句に関しても内容の濃い質問をたくさんしてくるようになりました。私もその学生のおかげで、言葉をさらに深く味わうようになりました。
私が飛び込みで2、3年生を担当したときは、まず彼らが過去にどんな学習をしてきたかを知り、極力それと似た形式で授業を行って生徒を安心させてから、徐々に私のやり方を提案していきました。最初からこちらのやり方を押しつけると反発しますので、まずは生徒に合わせたのです。そして、少しずつ生徒が支持してくれる活動を紹介していきます。すると生徒は、「先生、それいいね」とか「それ力がつくね」と言ってくれるようになります。2学期になると、「1年のときから先生に習いたかった」と言うようになります。要は、生徒が支持してくれる活動をいくつ持っているかです。そして、慌てないこと。
中学英語の幹は、文字と語順です。文字の読み方を知らないと、次のような問題が出ます。
(1)単語が読めない
(2)単語をかたまりで認識するので、長い単語ほどつづりを覚えられない
(3)音読ができない
語順とその構成要素を知らないと、次のような問題が生じます。
(ア)読解の際、センスグループに分けることができないので、
長い文の場合どこで区切って読めばいいかわからない
(イ)センスグループを英語の語順に並べることで、英文を書いたり
言ったりする、ということができない
ですから、私が飛び込みで中学2、3年生を担当したときは、文字の読み方のルールと、英語の語順を教えましたが、それも無理をせず、彼らが知りたいと思うようになるまで、少しずつ刺激し続けました。
授業での活動は、まず楽しさで生徒の興味を引きますが、力がつく活動であることを実感してもらわなければ、生徒は先生を支持してくれません。残された時間が少ないのならば、なおさら力がつく勉強法を提示してあげなければなりません。このサイトでもいくつか活動を紹介していますので、参考になれば幸いです。