まずは、先生のように一生懸命勉強なさっている方に対して、敬意を表します。少しでも授業をよくしたいと願って努力されている方がいるからこそ将来の教育に期待できるのであって、自分をばからしく感じる必要はありません。その努力をどう成果に結びつけ、正当に評価してもらうかです。
私が授業改善のために心がけていたことには、以下のようなものがあります。
1. 生徒から授業のフィードバックをもらう。
2. 受験を突破できる力をつける。
3. そのうえでコミュニケーション能力を高める。
まず、生徒の感想を聞く。わかりやすかったか、知的好奇心をそそられたか、楽しかったか、伸長感や達成感があったかなど、指導法や教材教具などについて、様々な観点からフィードバックをもらうようにしていました。こちらが頑張れば頑張るほどついつい力んでしまい、今考えると30代〜40代前半は自分の考えややり方を半ば押しつけていました。40代後半になると、それまでの失敗を冷静に振り返ったり受け入れたりできるようになり、生徒への接し方や生徒の反応を受けて指導法を改善することなどが柔軟になってきました。
次に、受験を突破できる力についてですが、高校は大学入試合格という大きな目標がありますので、まずはここをちゃんと押さえておかなければ生徒や同僚の信頼は得られません。
私が担当する大学の教養英語のクラスには、ライティングをさせると中学校で学習した英語の基礎が身についていないと思われる学生が何人もいます。ほとんど何も書けない学生に尋ねてみたところ、予備校で徹底的に入試対策はしたので、リーディングでは知っている語句を手がかりになんとか解答を導き出せるようになったが、ライティングはしたことがないので全く英作文ができないとのことでした。
先生は、おそらくそのような生徒が少しでも減るよう、リスニングやライティング、スピーキングに力を入れておられると思います。それは文部科学省も社会も求めていることであり、4技能を統合した授業が大切であることは間違いありません。私もそこを目指して日々努力しています。しかし、我々には生徒という相手がいます。こちらの意図を彼らが納得してくれて、やる気を出してくれないことには、こちらの理想には近づきません。
私は中学校教員だったとき、転勤した年に担当した中3生との間で先生と同じ葛藤を常に経験しました。若い頃は感情が先走り、自分のやり方で成果を出そうと気負いましたが、年をとるにつれて生徒と相談し、彼らに合わせてやりながら、最終的に4技能が等しく使える英語力をつけることを目標とするようになりました。
私は「理解」→「暗記」→「応用・発展」という流れで授業をしていますが、まずは英語で書かれた文章の意味と構造が「理解」できなければ、「暗記」も「応用」も「発展」的な活動もできませんので、「理解」には力を入れています。拙著『英語教科書本文活用術!』(教育出版)にはたくさんの読解方法を載せていますが、大学での教養英語や支援に行っている高校で授業をする際には、「センスグループ和訳」もよくやっています。
また、「合いの手音読」と「語順指さし音読」は定番活動です。「理解」の部分ではよく日本語を使っています。授業はすべて英語で行う必要はなく、日本語という財産は否定すべきではないと考えています。しかし、「暗記」、「応用・発展」の段階では英語を使わなければ意味がありません。おそらく、先生の生徒さんは「理解」の部分でもっとしっかり理解したいと思っているのではないでしょうか。そこで、オールイングリッシュでやられることに不安や抵抗を感じているのかもしれません。「かもしれない」からこそ、ぜひ生徒さんに尋ねてみてください。
最終的には、「応用・発展」の活動で4技能を駆使して英語で活動できるのが目標であり、そのプロセスにおいては、オールイングリッシュでできるのが理想ではありますが、日本語という財産を活用するのも一案だと思います。特に下位層の生徒に対しては、「理解」の部分で安心感と満足感を与えなければ、「応用・発展」の活動がスムーズに流れません。
私は大学の教養英語のクラスで、英語が苦手な学生を教えています。授業ではこのウェブサイトからダウンロードできる語順表と名詞団(名詞句・名詞節)の表を中心にして、まずは文構造とセンスグループの意味をしっかり把握することから始めます。そこで学生が「文構造や文意がわかってきた」、「文構造や文意がわかってきたので、英文が暗記しやすくなってきた」という喜びを感じてくれるからこそ、様々なゲーム的活動や骨太のドリルを受け入れてくれます。英文の構造がわかり、語句が増えてこそ英語力の伸長も感じますし、コミュニケーション力も上がりますので、その喜びが授業の規律をつくり出します。
前述の『英語教科書本文活用術!』で紹介した「語順指さし音読」と語順表を使った英作文、「下線部が答えの中心となる疑問文づくりとロング、クール、ショートの答え方」などは、英語力を伸ばし、なおかつコミュニケーション力をつける活動ですので、学生は受け入れてくれます。英語が壊滅的なほど苦手だという大学生も、1回生の4月の時点で「先生の活動をちゃんとやっていけば、英語ができるようになる気がする」と期待してくれて、1年間頑張り続けてくれます。高校まで英語はあきらめていたという学生が、語順表と名詞団の表を使った音読や英作文で英文構造がわかり始め、希望を見いだしてくれるのです。そして「暗記」ができるようになって喜び、「応用・発展」の活動で四苦八苦しながらディスカッションやミニディベートなどのコミュニケーション活動にチャレンジしてくれます。
先生の授業では、生徒さんはどれぐらい「わかるようになった」、「できるようになった」という喜びを感じておられるのでしょうか。英語によるコミュニケーション活動はもちろん大切ですが、それができるようになるための段階的な指導が必要です。それに納得し、活動に意義を感じてくれれば、友だちに「ちゃんとやろうよ」とか、「これ、絶対やった方がいいよ」と言ってくれる生徒が出てきて、自浄作用が起こって学習規律が生徒側からもつくられます。それでも言うことを聞かない生徒がいる場合、私ならそこでいったん活動を切って、なぜそうなるか原因を分析して対策を講じると思います。
また、理系の男子は活動が嫌い、冷めた女子は活動が嫌い、と感じられる場合、私なら次にどういう手を打つべきか考えます。活動にバリエーションを持たせ、そういう子たちでも楽しめたり、意義を感じたりする活動を用意すると思います。私の生徒にも、英単語カルタをすると自分は見つけているのに取ろうとせず、それを指さすだけの女子がいました。そういう子には何も言わず、何度かカルタをしたあとでカルタの単語を覚えているかどうか単語テストをしていましたが、そういうタイプの子たちは好成績を挙げるので、それをほめていました。
その単語テストは、リストも渡しておらず、書く練習も全くしたことのないカルタの単語を書けというものでしたので、1つでも書けたらすごい、2つ書けたら超すごい、3つ書けたら天才、4つ書けたら超天才、5つ書けたら神がかり的と言って行っていましたし、成績に入れておりませんでしたので、生徒に感想を聞いたら「減点方式のプレッシャーがないので、気分が楽だし、フォニックスの知識を使って書けたときは嬉しい」などと言っていました。
①先生は授業研究や授業づくりを頑張っている。
②先生は生徒一人ひとりを少しでも伸ばしてあげようと努力している。
③先生は生徒一人ひとりを理解しようと双方向のコミュニケーションを取ってくれる。
④先生は英語の授業を通して、人生を豊かに生きていくためのメッセージを伝えている。
これらのことを生徒が感じてくれれば、学習規律は自ら生まれます。どなったりしかったりして強制する学習規律は先生がいなくなると崩れますが、自分たちがつくり上げた学習規律は先生が席を外していても機能します。
「入試を突破する力をつけ、なおかつコミュニケーション力も上げてくれる授業であれば、生徒は教師を信頼し、授業規律は守られる。そのためには、文構造と文意がわかることは必須であり、そのうえで暗記できて応用できるようになってこそ生徒は喜ぶ。そして、題材を通して様々なメッセージを発し、いろいろ考えたり感じたりしてもらいたい。もっと知りたい、もっと知ってもらいたいという気持ちを引き出すことで、英語を使う必然性が生まれる」というのが、私がずっと考えてきたことでした。何かの参考になれば幸いです。