GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.126

資質・能力ベースの指導と評価を推進し、英語による思考力・判断力・表現力を備えた生徒を育成

青森県立青森高等学校

青森県立青森高等学校

1900(明治33)年創立。青森県第三中学校を前身とする旧・同県立青森高校と、同県立第三高等女学校を前身とする旧・同県立青森女子高校が統合して生まれた、県内で最も古い歴史を持つ高校の1つ。綱領「自律自啓」「誠実勤勉」「和協責任」のもと、創造的思考力と主体的な行動力を身につけた、社会に貢献できる人材の育成に力を入れている。2014(平成26)~18(平成30)年度にSGHの指定校となり、海外におけるフィールドワークなどを強化。そうした取り組みは、後援会や同窓会の協力により、現在も海外におけるフィールドワークなどを継続している。また、17(平成29)年度からはSSHの指定を受けている。

基本情報
基本情報:公立、共学、普通科
規模
1学年約280名
主な進路状況
国公立大は、北海道大5名、弘前大63名、東北大24名、東京大1名、大阪大2名をはじめ192名が合格(2019年度入試)

取り組みのポイント

  • 学校として育成を図る資質・能力「青高力」と、その評価規準である「育ちのプロセス」に基づき、資質・能力ベースの指導と評価を一体的に進めるべく、英語科におけるシラバスを作成。
  • 生徒の資質・能力を測れるよう、授業や定期考査、実力テストで初見の英文を積極的に活用。
  • 生徒が臨機応変に受け答えができる英語力を伸ばせるよう、口頭表現に特化した活動を行う学校設定科目「表現探究」を設置。

取り組みの背景

青森県立青森高等学校の英語科では、資質・能力ベースの指導と評価に力を入れている。
そのきっかけは、2017年度、「主体性と協調性をもって果敢に未来を切り拓く生徒」の育成を目指すことをうたった「学校グランドデザイン」が策定されたことだ。そして、18年度には、「学校グランドデザイン」の理念を具体化すべく、全教師で議論を重ね、あらゆる教育活動で育成を目指す10の資質・能力を「青高力」として定義した(資料1)。英語科の當麻進仁先生は、その意義を次のように語る。
「変化の激しい現代社会では、新しい価値を創造できるよう、知識・技能を習得するだけではなく、それらを活用できる資質・能力が欠かせません。新しい大学入試や次期学習指導要領で『学力の3要素』がより重視されるようになるのも、そのためでしょう。本校の英語科には、以前から資質・能力ベースの指導と評価に力を入れる教師もいましたが、学校として大切にする資質・能力が示されたことで、教師間でそうした指導と評価の重要性への共通理解が深まりました」

取り組みの詳細

生徒が社会で必要な英語力を伸ばせるよう、指導と評価を一体的に改善する体制を整備

同校では、全校体制で「青高力」の育成に向けた授業づくりを充実させられるよう、18年度に全教科・科目共通の評価規準を設定した。それが、①基礎となる知識・技能とその活用方法を理解している段階「習得」、②知識・技能を活用した基本的な思考・判断をすることができ、それを的確に表現できる段階「活用Ⅰ」、③知識・技能を複合的に用いて高度な思考・判断を行い、それを簡潔に表現できる段階「活用Ⅱ」の3段階から成る「育ちのプロセス」だ。また、縦軸に「青高力」、横軸に「育ちのプロセス」を据えたルーブリックも作成し、生徒に自己評価をさせることにした(資料2)。
19年度には、各教科団での合議により、「育ちのプロセス」に基づいたシラバスを練り上げ、指導改善を本格化させた。具体的には、授業で「習得」「活用Ⅰ」「活用Ⅱ」の各段階にあたる活動を取り入れるとともに、定期考査や実力テストにも各段階に応じた問題を必ず設けている。英語科の落合宏子先生は、同科での実践についてこう述べる。
「本校の生徒は、時間をかけて英語で考えをまとめ、それを発表するのは得意です。しかし、社会に出れば、何も準備していなくても、臨機応変に受け答えができる英語力が欠かせません。そこで、授業における『活用Ⅰ』『活用Ⅱ』の段階では、社会で求められる英語力を向上させるための活動を中軸に据え、その成果と課題を適切に測れるよう、定期考査や実力テストの設問を工夫しています」
 英語科では、定期考査の問題を「習得」が6割、「活用Ⅰ」が3割、「活用Ⅱ」が1割という構成、実力テストの問題を「習得」が2割、「活用Ⅰ」「活用Ⅱ」が4割ずつという構成で作問し、模範解答には、設問ごとに「習得」「活用Ⅰ」「活用Ⅱ」と段階を示すことにした(資料3)。
「模範解答を配布した後、生徒には、自分の得点を『習得』『活用Ⅰ』『活用Ⅱ』に分けて計算するよう伝えています。そうすれば、生徒一人ひとりが自分はどの段階に課題があるのかを具体的に把握することができ、メタ認知を深めながら、課題の克服に向けた学習に取り組めるようになるでしょう。また、設問ごとに段階を示すことで、教師は『習得』に偏らず、『活用Ⅰ』『活用Ⅱ』の内容を意識的に取り入れながら作問できると考えました」(落合先生)

英語を用いて「その場」で考え、生き生きと表現する生徒たち

英語科における指導を見ていく。
週4回の「コミュニケーション英語」の授業では(資料4)、まず、「習得」として、CDを用いたリスニング、生徒同士のペアワークやグループワークなどを通して、初出の語彙や文法事項などを身につけさせる。重要な構文などについては、教師による解説を適宜行う。
次に、「活用」として、教科書の英文に関連した内容の初見の英文を示し、それを用いたプレゼンテーションやスピーチなど、様々なアウトプット活動を設定している。例えば、将棋の羽生善治棋士へのインタビューを題材としたレッスンでは、A4判用紙6枚から成る羽生棋士への別のインタビュー記事を配布。その記事と教科書の内容を基に、生徒一人ひとりが羽生棋士のものの見方や考え方、人生観などを考察し、プレゼンテーションを行った。
「プレゼンテーション用原稿を作成すると、生徒はそれを読んでしまい、とっさに英語で考えをまとめて話す練習にはなりません。そこで、生徒には、原稿ではなく、自分が発表したい内容のアウトラインのみを書いたメモを作成するよう伝えました。プレゼンテーションでは、メモを見ながらその場で考えを整理し、表現する生徒が多く、ねらい通りの活動になりました」(當麻先生)
その時代に存在するはずがない人工物「OOPARTS(「Out of Place Artifacts」の略称)」をテーマにしたレッスンでは、教科書に続いて、OOPARTSに関する別の記事を読ませた後(資料5)、A3判の白地図をクラス全員に1枚ずつ配布。教科書と記事で取り上げられたOOPARTSの場所や年代、特色などを白地図にまとめさせ、発表をさせた。(資料6)
「活用」段階におけるアウトプット活動では、生徒同士の質疑応答の場面も必ず設けていると、當麻先生は話す。
「教科書の英文だけを用いたアウトプット活動で質疑応答を行っても、生徒全員がよく知っている内容なので、質問は思うように出ません。しかし、初見の英文を併用した活動では、多くの質問が出て、質疑応答が活性化します。クラスメートからの予想外の質問を受け、適切に答えられるよう、英語で考えを深める生徒も目立ちます」(當麻先生)

生徒の資質・能力を測るべく、定期考査でも初見の英文を積極的に活用

 定期考査における「活用」段階の設問でも、教科書以外の英文を積極的に活用している。
「単なる知識・技能ではなく、英語による思考力・判断力・表現力など、資質・能力を測ることが、『活用』段階の設問の役割です。そこで、暗記では対応できない、初見の英文の読解問題などを必ず出すことにしています」(當麻先生)
具体的には、羽生棋士へのインタビューを扱ったレッスンの定期考査では、「活用Ⅰ」の設問として、オバマ前アメリカ大統領へのインタビュー記事を読解させた。さらに、「活用Ⅱ」として、テニスの錦織圭選手がインタビューに応じている音声を聞き、内容を把握するリスニング問題を出した。
「実際のインタビューでは、インタビュアーの質問への答えだけではなく、余談も含まれます。余談と質問への答えを適切に選別し、答えだけを抜き出せるかどうかを測りたいと考えました」(落合先生)

英語の実用的なコミュニケーションに特化した活動を推進する学校設定科目「表現探究」

1年次の「コミュニケーション英語Ⅰ」の授業では、2週間に1回、日本人教師をT1、ALTをT2とするチーム・ティーチングにより、生徒の口頭での英語表現力を伸ばすためのグループ活動に取り組ませている。そこで力を入れているのが、即興性のある情報交換だ。例えば、1つの動画や絵物語(資料7)を複数に分割して生徒一人ひとりに与え、生徒は自分が得た断片的な動画や絵物語の情報を持ち寄り、グループで共有。動画や絵物語の全体像を組み立て、代表者が発表する。発表にあたっては、原稿ではなく、自分が言いたいことを簡単にメモする程度にとどめるよう指導している。
「本校の生徒は、文法的な間違いを恐れるためか、入念に準備をしないと、英語でのコミュニケーションが控えめになる傾向があります。実際、SGHやSSHの取り組みなどで、海外の留学生と交流すると、自分が話したい内容をまとめた原稿を用意し、それを読む生徒が少なくありませんでした。そこで、英語を用いた、より実用的なコミュニケーションを図る場を設けることにしました」(當麻先生)
2年次では、文系・理系に分かれ、ともに日本人教師とALTのTTによる指導のもと、1年次のグループ活動を継続・発展させていく。
文系では、週1回の学校設定科目「表現探究」を設け(資料8)、アジア諸国のゴミ問題や世界の貧困問題といった国際的なテーマについて、ネゴシエーションやプレゼンテーションなどを推進している。あくまでも即興性を重視するため、ネゴシエーションやプレゼンテーションでも、基本的に原稿は作成させない。
「表現探究」における活動の柱として位置づけられるのが、12月に設定された「多角的ネゴシエーション」(資料9)だ。ベトナムのゴミ処理について、法律・経済・市民生活・ゴミ処理技術の4つの観点から向き合い、グループごとに解決策を考える。
一方、理系では、「コミュニケーション英語Ⅱ」の授業で、2週間に1回、「表現探究」と同じ活動に回数を減らして取り組ませている。
 「以前は2年次にディベートを課していましたが、19年度からネゴシエーションに変更しました。ディベートは考えの『対立』にとどまりますが、社会に出れば、対立を乗り越え、協働することが求められます。異なる考えの『融合』を目指すネゴシエーションに取り組ませ、実用的・汎用的な資質・能力の向上につなげたいというねらいがあります」(當麻先生)
1・2年次を通して、日本人教師やALTは、生徒が英語での自己表現に意欲的になれるよう、「英語は間違えれば間違えるほど上達する。間違いを恐れないことが大切だ」と繰り返し伝えている。
「そうした中、何も見ずに堂々と英語で考えを述べる生徒が徐々に増えていきます。実際、2年次の生徒アンケートでは、『文法の間違いを気にせずに英語を話せるようになった』と回答する生徒が目立ちます」(當麻先生)

定期考査で生徒同士のディスカッションを課し、生徒の多様な資質・能力を測る

「表現探究」の定期考査では、パフォーマンステストとして、生徒がペアになり、教師からその場で示された英文を1分間で読んだ後、その内容について3分間のディスカッションを行っている。
採点の効率化を図るため、試験会場を3つに分け、ALTを含む英語科の教師3人が分担する。
「ディスカッションでは、単に自分の考えを述べるだけではなく、相手の主張に応じて反論をする必要があります。英語で臨機応変に考えをまとめる速さや的確さ、相手の主張への理解力など、社会で求められる様々な資質・能力を測れると考えました」(當麻先生)

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落合宏子先生(左)と當麻進仁先生(右)

まずは正確さへの意識づけに力を入れ、後半のフリーライティングにつなげる「英語表現」

 週2回の「英語表現」の授業では(資料10)、各学年で4〜9月前半までは「習得」に重点を置き、文法事項を着実に定着させることを目指す。まずは、1年次から継続している「活用」への意識づけとして、知識を組み合わせる必要がある課題を課す。例えば、「好きな食べ物とその理由」「憧れのアーティストとその理由」など、簡単なテーマで50〜100語程度の英文を書かせる。そして、英文を不定詞や関係代名詞といった既習表現を用い、どれだけ多く書き換えられるかを競わせる活動を取り入れる。
 9月後半からは「活用」を主軸に据えた活動に力を入れる。具体的には、生徒同士でディスカッションをさせた後、自分の考えを文章にまとめさせる場面を積極的に設けていく。

英語で意欲的に自己表現をする生徒の姿が、教師が指導改善を進める原動力となる

 英語科では、これまで見てきた通り、資質・能力ベースの指導を充実させられるよう、生徒同士のペアやグループ活動を中心に「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った授業づくりを推進している。そうした授業では、教師がファシリテーターとなり、生徒一人ひとりの気づきや学びをつないでいくことが重要になる。そこで、英語科では、資質・能力ベースの指導で求められるノウハウを学べるよう、他の教師の授業を参観する教師が多い。また、研究授業も積極的に行っている。
 「2年次の文系における『表現探究』の研究授業では、生徒のグループに教師が1人ずつ入り、英語での議論に参加します。簡単なメモだけを見ながら、様々なテーマについて考えを述べ合う生徒の姿を目のあたりにすると、当初は自分の授業スタイルを変えることに戸惑っていた教師も、指導改善に意欲的になります」(當麻先生)

取り組みの成果と今後に向けて

資質・能力ベースの指導と評価の徹底を目指した、英語科における一連の取り組みの成果は、生徒の姿に表れている。例えば、英語で堂々と自分の考えを述べたり、臨機応変に受け答えをしたりする生徒が目立つことは、前述した通りだ。英語4技能を客観的な指標で把握するために全学年で導入している「GTEC」の結果からは、多くの生徒が4技能をバランスよく伸ばしていることがうかがえる。
また、定期考査や実力テストの模範解答に載せている「習得」「活用Ⅰ」「活用Ⅱ」の各段階の表示から、自分の強みや課題を把握し、強みをさらに伸ばしたり、課題の克服を図ったりするなど、主体的に学習方法を工夫する生徒も増えている。進路指導部にも所属する落合先生は、生徒の視野の広がりを感じると話す。
「自分が社会でやりたいことを見つけようとする意欲を感じます。世界をこの目で見たいと、本校の海外語学研修への参加を希望したり、文部科学省の『トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム 高校生コース』に応募したりする生徒も増えました。そうした生徒たちには、自分の英語力が通用するかどうか、海外で試してみたいという思いもあるようです」
教師の指導力の向上も、大きな成果だ。教師が「教える」指導から、生徒自身が「学ぶ」指導へと転換を図る教師が増えている。また、定期考査や実力テストの作問を工夫する教師も目立つ。
「教師一人ひとりが、生徒の何の資質・能力を測るため、どのような問いを立てる必要があるかをより深く検討するようになりました。初見の英文を授業や定期考査、実力テストなどで活用することも教師間に浸透しています」(落合先生)
英語科では、今後、指導のさらなる充実を目指す。
「グローバル社会を生きていくためには、以前のような知識・技能に偏った英語力ではなく、多様な資質・能力に支えられた、実用性の高い英語力が欠かせません。また、そうした英語力を適切に身につければ、新しい大学入試や次期学習指導要領にも十分に対応できるでしょう。本校では、資質・能力ベースの指導と評価が根づきつつありますが、さらに発展させられるよう、今後も先生方と力を合わせていきたいと考えています」(當麻先生)

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【資料1】 「青高力」

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【資料2】 自己評価ルーブリック(抜粋)

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【資料3】 「コミュニケーション英語Ⅱ」の模範解答(抜粋)

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【【資料4】 「コミュニケーション英語Ⅱ」のシラバス(抜粋)

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【資料5】 教科書とは別の「OOPARTS」についての英文(抜粋)

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【資料6】 「OOPARTS」白地図

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【資料7】 即興性のある情報交換で用いる4コマ漫画

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【資料8】 「表現探究」のシラバス(抜粋)

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【資料9】 多角的ネゴシエーションの活動例 (左:ゴミ処理に関する活動/右:音楽に関する活動)

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【資料10】 「英語表現Ⅱ」のシラバス(抜粋)