GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

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Vol.124

教育委員会主導で「GTEC」を受検させ 、 青森県独自の指導・評価モデルの確立を目指す

青森県教育委員会

青森県教育委員会

「郷土に誇りを持ち、多様性を尊重し、創造力豊かで、新しい時代を主体的に切り拓く人づくり」を目指す。そのため、市町村や関係機関との連携を図りながら、学校教育の充実、社会教育の振興、文化財の保存・活用、スポーツの推進に取り組んでいる。
近年は青森県教育振興基本計画を踏まえ、「子どもたちの学ぶ意欲や主体的に探究する力の向上」「子どもを守り支え安心して学べる環境づくり」「地域の多様な教育資源の活用による地方創生」に重点的に取り組んでいる。

取り組みのポイント

  • 教育委員会の主導で、県内の公立高校の1年生約3500人に英語4技能試験を受検させる。
  • 年度末の研修会で各校の結果を持ち寄り、地域ごとに結果や今後の課題を共有。
  • 青森県の県民特性や英語力を踏まえた独自のCan-Doリストおよび指導、評価モデルを作成。
  • 持続可能なPDCAサイクルの確立。

取り組みの背景

 青森県教育委員会は、2018年度、約2000万円の予算を確保し、「青森県の将来を担うグローバル人財育成事業」に着手した。青森県では重点施策の1つとして、「教育、人づくり」を挙げている。郷土への誇りとともに、多様性を尊重し語学力やコミュニケーション能力を磨きながら、国内外で活躍し新時代を切り拓く人材を「目指す姿」としてイメージしている。その実現に向け、コミュニケーション能力育成のための土台作りを行うのが、本事業の目的だ。
 本事業は2つの柱から成る。1つは、「あおもり英語4技能向上プロジェクト」だ。CEFRに対応した英語4技能試験を県内の公立高校の1年生約3500人に実施し、そのデータを基に同県独自の指導・評価モデルを作成することを目指す。もう1つは、「グローバル実践力発揮プログラム」だ。同県立高校から選抜された100人の生徒を対象(2018年度実績は62人)に、海外語学研修や学校交流などを実施し、実践的なコミュニケーション能力の向上を目指す。

取り組みの詳細

大学入試改革と新学習指導要領への対応を見据えつつ、教師の意識改革を図る

 「あおもり英語4技能向上プロジェクト」では、21年度入試から始まる「大学入学共通テスト」や、22年度に全面実施される高校の新学習指導要領への対応を見据えつつ、教師の意識改革や生徒の経験値の向上を通して、同県の実状に合った4技能向上の指導体制を確立したいと考えている。同事業を主導している同県教育委員会学校教育課高等学校指導グループの伴一聡指導主事は、次のように語る。
 「新学習指導要領や新しい大学入試で求められる4技能を確実に身につけさせるためには、4技能を客観的な評価指標で把握し、学校現場の授業や評価の改善に反映させる体制づくりが急務です。全県での4技能試験の実施やCan-Doリストの作成等を通して、4技能育成に対する教員の意識改革を図り、県全体の英語教育の底上げを実現したいと考えました」
 実際、同県内には学校現場の多忙感もあり、パフォーマンス評価の実施に課題がある学校も少なくないという。教員の負担を軽減し、腰を据えて4技能の育成に取り組んでもらうため、現場が使いやすい指導評価モデルを県教育委員会主導で確立し波及させていく必要があった。
 また、学校によっては、教員の指導方針の違いにより、足並みをそろえて4技能の指導にシフトできない状況もある。
 「ベテラン教員の中には、『大学入試で結果を出しているからやり方を変えない』『4技能は大学進学後にやればよい』といった意識の人もおり、英語科が同じベクトルを向くのが難しい場合も少なくありません。客観的なデータを共有し指導の足りない部分を浮き彫りにすることで、各校で先生方のベクトルをそろえることができると考えました」(伴指導主事)

全校の担当者が集まり地域ごとの結果と課題を共有

 同プロジェクトを進めるにあたっての最大の懸案は、データの偏りが生まれないよう、幅広い地域から多様な学力層の生徒に参加してもらうことだった。参加校の決定にあたっては、公平性を担保し、かつ行政による押し付けにならないよう「手上げ方式」をとった。幸い、同県内全6地域から県立高校の半数にあたる24校が応募。成績層も進学校から進路多様校までと幅広く、大規模校から小規模校まで含まれるバランスのとれた編制となった。
 CEFR対応の英語技能検定には、「GTEC」を採用した。検定を選ぶ際に最も重視した条件は、都市部以外の学校が不利にならないことだったという。
 「「GTEC」なら大都市に出向くことなく校内で実施できる上、ベネッセの担当者が学校を訪問し、試験の実施やデータの活用についてのアドバイスをしてくれました」(伴指導主事)
 また、生徒が検定に取り組む姿を間近に見せることで、4技能に消極的な英語教員や管理職にも重要性を認識してもらいたいという思いもあった。
 18年5月末に募集をかけ、24校から目標を超える3,579人の申込者を確保。以後、6月から19年2月まで約8か月間かけて各校で検定を実施し、3372人が実際に4技能試験を受検した。
 実施後は各校で試験結果の分析を行い、4技能のそれぞれについて結果の総括と今後に向けた改善案を1枚のシートに記入し県教育委員会に提出した。すべての参加校が受検を終えた3月には、指導主事と各校の担当者が集まり研修会を実施し、ベネッセ担当者から試験の総括を聞いた。その後、県内5地域に分かれて協議会を行い、指導主事と英語教育推進リーダー(後述)の助言を受けながら、地域ごとの課題の共有と改善案について話し合った。
 「各校の分析結果を共有することで、他校がどのような対策を取ろうとしているのかを共有できただけでなく、自校の分析方法が確かだったかどうかに気づけたことは大きな成果でした。学校現場の努力だけでは気づけない部分なので、県教育委員会が主導して行ったことは意義があったと思います」(伴指導主事)

指導要領や県民特性を踏まえたCan-Doリストを作成

 「GTEC」の受検と並行して、同県独自のCan-Doリストの作成も進められた。事業の開始にあたって、県内6地域(東青地域・西北地域・中南地域・上北地域・下北地域・三八地域)に各1人、文部科学省の研修を受けた教員(英語教育推進リーダー)が配置されており、指導主事と共同でリスト作成に取り組んだ。作業は18年11月に始まり、全6回の会合を経て19年3月に素案が完成した。(資料1)
 リストは英語コミュニケーションⅠ、論理・表現Ⅰなど、新学習指導要領の科目ごとに設定されている。リスト作成の際にこだわった点は、育てたい資質・能力に県民特性を反映させた点にある。新学習指導要領の求める英語力を前提としつつ、6地域のリーダーが情報を共有し、各地域の生徒の気質やレベル差を踏まえた人材像を掲げ、各項目のレベルや文言を調整した。たとえば、青森県民は口数が少ない分、円滑なコミュニケーションを図るための雰囲気づくりに長けている。そのため、他者と継続的なコミュニケーションがとれるよう、粘り強く最後まで人の意見を聞く、あるいは誤解を招かないように最後まで自分の意見を伝えられる力などを重視した。また、ちょっとしたことで傷つき挫折しやすい特性を踏まえて、失敗しても繰り返し挑戦し続ける気持ちを育てることも強調された。
 「単なる会話のやり取りだけではなく、コミュニケーションの前提となる部分も意識して育てたい資質・能力を設定しました」(伴指導主事)

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伴指導主事(中央)を囲んで、小田桐指導主事(左)と小中学校指導グループの淋代秀樹指導主事(右)

英語教育推進リーダーが中心となり、県の事業の成果を自校の指導改善に活用

 19年度には、同県のCan-Doリストを活用した各校の取り組みが本格化している。その中軸を担っているのが、地域の英語教育推進リーダーだ。具体的に見ていく。
 西北地域に勤務する英語教育推進リーダーである佐々木先生は、自校の英語科の教科団でCan-Doリストに基づきながら合議を重ね、各学年の指導計画を策定。1年次は音声指導に力を入れ、リスニングのパフォーマンステストを、2年次は教科書の読解に重点を置き、リーディングのパフォーマンステストを実施することにした。そして、3年次には、簡易型ディベートなど、生徒が英語で考え、英語で表現する活動を充実させていく予定だ。
 「本校の生徒の課題に応じて、段階的な指導計画を練り上げました。英語科での指導改善は、以前は教師が個別に推進しており、組織的・系統的な取り組みにはなっていませんでした。しかし、県のCan-Doリストを作成する中で、どのような資質・能力をいつまでに生徒に育む必要があるのかという目標が教師間で明確になり、統一した方針を確立できました」(佐々木先生)
 東青地域に勤務する英語教育推進リーダーである當麻先生は、県のCan-Doリストと、自校で以前から活用してきたCan-Doリストを融合させることを目指している。
 「県のCan-Doリストはあくまでもモデルであり、各校が生徒の実態に即してアレンジをすることが求められます。県のCan-Doリストと本校における従来のCan-Doリストのよいところを融合させ、本校が目指す指導をより具体化させていきたいという思いがありました。また、「GTEC」の結果から生徒の強みや課題を把握し、それらをCan-Doリストに反映させていけば、指導のさらなる充実につながるでしょう。今回の事業には、「GTEC」の受検が含まれていることで、単なるCan-Doリストの『作成』にとどまらず、その『改善』を進めていくことができると考えています」(當麻先生)

県の事業の存在が、新しい取り組みに対する教師間の合意形成を促進

 前述した通り、今回の事業の一環として、「GTEC」の結果は各校で分析した後、他校と共有している。他校の結果を参照できるようになったことが、自校での指導改善をさらに活性化させていると、下北地域に勤務する英語教育推進リーダーである堤先生は話す。
 「本校では、他校の「GTEC」の結果に刺激を受け、教師一人ひとりが指導改善により意欲的に取り組み始めるようになりました。生徒の4技能をバランスよく向上させることが切実な課題であるという認識も深まり、教師間の目線合わせが強化されたと感じています」(堤先生)
 今回の事業の進展に合わせ、18年度から全校を挙げた指導改善を推進している学校もある。その1つが、三八地域に勤務する英語教育推進リーダーである熊谷先生の勤務校だ。例えば、1・2年次の11月にスピーキングとライティングのパフォーマンステストを実施することにした。
 「21年度入試では、英語4技能を評価するため、大半の国公立大学が『大学入学共通テスト』の英語と、英語の資格検定試験の両方を受験生に課すでしょう。そうした入試を受験する18年度の1年生を迎えるにあたり、新しい大学入試への対応に力を入れたいという思いがあり、パフォーマンステストを始めることにしました。校内での合意形成がスムーズに進みましたが、その要因としては、21年度入試への対応を目的の1つとする今回の事業が始まったことが大きかったと考えています」(熊谷先生)
 同校では、以前から12月に1・2生全員に「GTEC」を受検させている。11月にスピーキングとライティングのパフォーマンステストを設定することで、「GTEC」への意識づけを図ろうとするねらいもあった。

全校での指導改善推進の原動力となるよう、資質・能力ベースの指導と評価の実践例を発信

 英語教育推進リーダーの勤務校における取り組みは、県内全校の英語科教師が集まる同県高等学校教育研究会(以下、県高教研)の英語部会などを通して、他校に共有される。例えば、19年8月の県高教研では、英語教育推進リーダーが県のCan-Doリストを活用した授業づくりや、「GTEC」の結果を反映させた指導実践などを紹介するワークショップを開催した。
 「新しい大学入試や次期学習指導要領では、思考力・判断力・表現力や主体性といった資質・能力を多面的・総合的に評価することがより重視されています。それに対応するためには、知識・技能の育成に偏りがちだった従来の指導の見直しが欠かせません。現在、英語教育推進リーダーの勤務校を中心に、知識・技能ベースの指導と評価から、資質・能力ベースの指導と評価への転換が進んでいます。そうした実践を多くの学校に伝え、浸透させていくことで、県内全校での指導を充実させていきたいと考えています」(當麻先生)

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英語教育推進リーダーは定期的に集まり、自校での指導改善の進捗や課題を共有し、今後の指導計画などを検討している。

取り組みの成果と今後に向けて

 事業1年目を終えた時点での最大の成果は、県立高校の約半数にあたる24校で「GTEC」を実施し、県内約8000人の県立高校1年生の約半数に4技能試験を体験させ、その様子を各学校の教員が共有することができた点だ。
 「生徒は今後求められる英語力とはどのようなものかを身をもって体験し、学校側は4技能の向上に必要なデータを得ることができました。全県をあげて英語教育の改革に一歩を踏み出せたことは大きな成果です」(伴指導主事)
 実際、学校現場からも「授業の工夫がリスニングの向上という具体的な結果として表れたことが励みになった」「手薄だと思っていたリスニングのスコアが実際に低かったので、2年次から本腰を入れて指導にあたりたい」といった声が聞かれるなど、データから授業の手ごたえを得たり、改善のヒントを得たりする教師は少なくないという。
 18年度の事業の成果を継承し、発展させようとする取り組みが各校で行われていることも、大きな成果だ。前述したように、今後は県高教研などの場で英語教育推進リーダーの勤務校における指導改善の具体的な取り組みを紹介し、県内全校への浸透を図っていく。
 今後の課題は小中高を一気通貫する指導モデルの作成だ。高校英語の改革を進める一方、同県では17・18年度の2年間に、小中学校でもCan-Doリスト形式の学習到達目標を作成した。各学校段階でどこまでの力を身につければいいのかが可視化され、つまずきがあった時はどこまで戻ればいいのか、浮きこぼれが出ないようどのような課題を出せばよいのかなどが分かるようになった。
 評価についても、どのタイミングでどのようなパフォーマンス評価をするかといった指導事例とルーブリックを小中で示した。今後は高校向けにもこうした指導モデルやルーブリックを作成し、各高校での指導のひな型として活用してもらうことで、小中高一貫した指導体制を構築していく予定だ。もっとも、各校の指導内容やルーブリックの作成について、県教育委員会から指示を出すことは考えていないという。
 「すべてを県主導で行うと、学校現場の自主性や創意工夫を阻害する危険性があります。県教育委員会から議論のベースとなるデータやCan-Doリストのひな型は示したので、今後は各校が学校や地域特性に合わせて必要な取り組みを工夫していただきたいと考えています。2019年度に事業が終った後は小中と高校のデータを突き合わせて、5年後、10年後の本県の英語教育の到達目標をより明確にしていきたいと考えています」(伴指導主事)

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◆コミュニケーション英語Ⅰ

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◆倫理・表現Ⅰ

【資料1】 青森県版「CAN-DOリスト」