GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.121

「TANABU Model」で4技能の確実な定着を図り英語コミュニケーション能力や論理的思考力を育む

青森県立田名部高等学校

青森県立田名部高等学校

1917(大正6)年、町立田名部女子実業補習学校として開校。改称や統合を経て、1949(昭和24)年、現校名となった。校訓に「自律・協和・純正」、教育目標に「全人的な人間教育の実現」を掲げる。1995(平成7)年に英語科を設置するなど、かねてより英語教育に力を入れており、2013年度には文部科学省「英語によるコミュニケーション能力・論理的思考力を強化する指導改善の取組」拠点校の指定を受けた。各教科でのアクティブ・ラーニングや課題探究型学習の実践も推進している。

基本情報
公立、共学、普通科・英語科
規模
1学年200名
主な進路実績
国公立大は、弘前大、岩手大、山形大、福島大、埼玉大をはじめ81名(2018年度入試)

取り組みのポイント

  • 教科書をベースにコミュニケーション活動中心の授業を構成。
  • 教科書のレッスンごとに軽重の差をつけ、4パターンのプログラムを作成。
  • 「GTEC」を活用して英語コミュニケーション能力の伸びを確認し、授業改善に結びつける。

取り組みの背景

 青森県立田名部高等学校は、下北地方を代表する進学校の1つとして100余年の歴史を持つ。近年は地域の人口減少や少子化が急速に進み、生徒数が減る一方で、生徒の学力層の幅が広がるといった課題を抱えながら、地域活性化の支えとなるべく様々な教育改革に取り組んでいる。
 中でも力を注ぐのが、英語教育の充実だ。現行の学習指導要領が導入された2013年度、文部科学省「英語によるコミュニケーション能力・論理的思考力を強化する指導改善の取組」拠点校の指定を受けたのを機に、4技能を統合的に伸ばす指導を推進している。取り組みを主導した堤孝先生は、当時の課題意識を次のように振り返る。「従来は訳読や文法指導が中心でしたが、そうした指導では、英語を使ったコミュニケーション能力は十分に育っておらず、英語が好きになってくれる生徒も少ない状況でした。教師は『授業を変えなくてはならない』と焦りを感じながらも、どこから着手すればよいかが分からず、一歩を踏み出せずにいました。そこで、拠点校の指定を好機と捉え、英語の授業を根底から見直しました」

取り組みの詳細

コミュニケーション活動主体のオールイングリッシュの授業を展開

 同事業では、コミュニケーション活動を主体としたオールイングリッシュによる授業を通して、「コミュニケーション能力」「論理的思考力」の2つの能力を強化することが求められた。そのためにはまず、教師の意識を大きく変える必要があった。
「授業は教師主体ではなく、あくまでも生徒主体の活動で構成する方針を共有しました。同時に、生徒のコミュニケーションや思考を促すための働きかけを検討し、それを英語で行うようにしました」(堤先生)
最初は試行錯誤の連続であり、活動を盛り込み過ぎて授業の進度が遅れがちになるといった課題が見られた。そこで、活動を精選するとともに、レッスンごとに軽重をつけて4パターンの基本形を構成し、それを「TANABU Model」と名づけた(資料1)。 
どのパターンの授業でも、生徒はペアやグループでインプットやアウトプットを繰り返し、4技能を高めていく。さらに「パターンA」「パターンB」では、最後に目標となるアウトプット活動を設定し、定着の強化を図る。
「教科書の内容を理解するだけでは、英語力はなかなか身につきません。アウトプット活動を通して、自分の考えや思いを発信しようと必死に思考することで、しっかりと定着すると考えています」(堤先生)
「パターンA」は最後にパフォーマンステストを行うプログラムであり、教科書の1レッスンを15時間で構成する。最も多くの時間数を要するため、年間2回程度の実施となる。パフォーマンステストの内容は、1年次がロールプレイ、2年次がディベート、3年次がディスカッションであり、学年が上がるにつれて即興的なコミュニケーション能力や思考力が問われるものとなる。
4パターンのうち最も多く実施するのは、教科書の1レッスンを12時間で構成する「パターンB」だ。このプログラムでは様々な活動を通して知識や技能を高め、最後に「ストーリーリプロダクション(STORY REPRODUCTION)」で定着を図る。一方、「パターンC」はリスニング力、「パターンD」は読解力に特化したプログラムだ。

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【資料1】「TANABU Model」の4パターン

教科書の内容をベースとした多様な活動で授業を構成

 「TANABU Model」ではどのような活動を通して4技能を伸ばしていくのか、「パターンB」の具体的な内容を通して見ていく。
「パターンB」は、次の3時間を4セクション行い、計12時間で構成される。授業は全て学年共通のワークシートで進行する。

【1時間目】
◎「PARAGRAPH CHART」(資料2)
教科書を参照してプリントの空欄に適切な語句を記入する。辞書は使わず、初見で大まかな文意を理解する力を養う。
各自で取り組んだ後、ペアで用紙を見ずに口頭で確認し合い、その後、クラス全体で確認する。

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【資料2】「PARAGRAPH CHART」のワークシート

◎「SUMMARY」(資料3)
セクションを100字以内の日本語でまとめる。辞書は使わず、理解できた情報をもとにストーリーを推測する力を伸ばす。その後、4人グループで発表し合い、学び合いを促す。
早く終わった生徒から、分からない表現を抜き出す活動を行う(資料4)。次の活動「COMPREHENSION」まで辞書は引かせない。

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【資料3】 「SUMMARY」のワークシート

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【資料4】 辞書調べのワークシート

◎「COMPREHENSION」(資料5)
ワークシートの問題に取り組み、内容理解を確認する。最初に個人で取り組み、ペアで口頭による確認を行う。その後、指名されたペアが問題と答えを板書し、別のペアが添削して、クラス全体で答えを確認し合う。 

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【資料5】 「COMPREHENSION」のワークシート

【2時間目】
◎「VOCABULARY SCANNING」(資料6)
ワークシートに書かれた日本語と語数に該当する英語の語句を教科書のテキストから抜き出す。できるだけ早く解答するよう促し、英文を速読しながら英語を処理する力の向上を図る。
生徒同士やクラス全体で声に出して確認した後、ペアで日本語→英語、英語→日本語の練習をして定着を図る。

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【資料6】 「VOCABULARY SCANNING」のワークシート

◎「READING PRACTICE」(資料7)
右側に日本語、左側に英語が書かれたシートを用い、ペアを中心に多種多様な音読練習を行い、英語の構造や文法、また音声とその意味を結びつけるインテイクを図る。音読の種類は、コーラスリーディング、リピーティング、バックトゥバック(2人が背中を付けて逆を向き、交互に大きな声で読む)、サイトトランスレーション、シャドーイング、同時通訳、クレイジ―リ―ディング(最速で読んだり、声色を変えたり緩急を付けて読んだりする)など。

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【資料7】 「READING PRACTICE」のワークシート

【3時間目】
◎「DICTATION」(資料8)
CDで音声を2回流し、ワークシートの空欄を埋め、英語の構造や文法、語彙の定着を図る。

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【資料8】「DICTATION」のワークシート

 
◎「STORY REPRODUCTION」(資料9)
所与の10個のキーワードを使い、セクションの内容を再生するアウトプット活動。口頭で内容を再生(個人で1回)→口頭で内容を再生(ペアで3回)→英文を書いて内容を再生(個人で10分)→教科書を読んで各自で添削→教師の添削、という順に学習を深めていく。

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【資料9】 「STORY REPRODUCTION」のワークシート

 「TANABU Model」の導入と同時に、「CAN-DOリスト」も見直した。4技能別に学期ごとの学習到達目標を設定し、パフォーマンステストと連動させて評価する内容に改めた(資料10)。
 生徒には年度当初にCAN-DOリストを提示し、学期ごとに5段階で自己評価をさせるなどし、身に付けたい技能を具体的にイメージさせる。

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【資料10】CAN-DOリスト

取り組みの成果と今後に向けて

 「TANABU Model」の実践は、拠点校の指定を終えた後も継続しており、2018年度に6年目を迎えた。取り組みが深まるにつれ、教師たちは様々な面で生徒の変化を感じている。
 その1つが、英語を使ったコミュニケーションに対する姿勢が非常に前向きになったことだ。2学年担任の相馬唯成先生は、こう述べる。
 「英語を読んだり聞いたりした時に分からないことがあっても、自分なりに推測して理解しようとしたり、知っている単語や表現を使って必死に伝えたりしようとします。その過程でコミュニケーションの感覚が育ち、知識や技能の定着も進んでいます」
 そうした学びを通し、英語コミュニケーションの技能がしっかりと育っていることは、効果測定として活用している「GTEC」の結果にも表れている(スピーキング以外の3技能)。「TANABU Model」の授業を初めて受けた学年は、3年間のスコアの伸びが全国平均のほぼ2倍であり、全国3位となった。その後の学年も同程度か、それ以上の伸びを示している。
 授業以外の場面でも生徒の変化を感じていると、大釜賢子先生は話す。
 「『総合的な学習の時間』における探究活動でも、生徒たちは協働学習をスムーズに行っています。英語の授業で学び合いや自己表現活動を充実させているからでしょう」
 「TANABU Model」は、ワークシートの再考など、毎年のように改訂してきた。2018年度の1年生は次期学習指導要領を見据え、これまで以上に中学校の復習に力を入れている。1学年担任の中田洋平先生は、こう述べる。
 「大学入試改革などを考えると、できるだけ早く4技能の力を伸ばし、英語の資格・検定試験を受けさせたいと考えています。その土台となる中学校の学習内容の基礎を固め、その内容を用いて自己表現活動を繰り返し、定着を図っています」
 同校はこれまでの成果に慢心せず、取り組みを進化させている。
 「どうすれば目の前の生徒の4技能の力をもっと伸ばせるのかを考えて『TANABU Model』を改善し、振り返ったら原形をとどめていないというのが理想です」(堤先生)

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(左から堤孝先生、相馬唯成先生、大釜賢子先生、中田洋平先生)

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