GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.119

発信型授業やパフォーマンステストを導入し、
英語力も「英語が好き」という意識も大きく向上

山形県立新庄南高等学校

山形県立新庄南高等学校

1914(大正4)年、新庄町立実科高等女学校として開校。校訓は「清楚 誠実 進取」。一人ひとりの個性と多様な進路希望に応じた教育を実践している。普通と総合ビジネスの2科制のもと、普通科では進学に対応できる学力の育成を最重点目標に掲げる。総合ビジネス科は、各種検定試験(簿記、情報処理、商業経済、ビジネス文書、電卓ほか)の合格に力を入れており、2年次から進路希望や興味・関心によって2コース(会計・経営情報)に分かれる。

基本情報
公立、共学、普通科・総合ビジネス科
規模
1学年120名
主な進路実績
国公立大は、山形大1名、福島大1名、山形県立保健医療大2名をはじめ6名(2018年度入試)

取り組みのポイント

  • レッスンの最初の時間にできなかったことが最後の時間にはできるようになったと実感できる授業計画を立案。
  • レッスンの最後には1人1分程度のパフォーマンステストを行い、音読や英借文の練習意欲を引き出す。
  • 定期考査の出題箇所や出題形式を事前に生徒に示し、学びの動機づけにつながりやすくした。

取り組みの背景

 山形県立新庄南高等学校は、2014年度から3年間、山形県の「山形『スピーク・アウト』推進事業」(以下、同事業)の研究指定を受けたことをきっかけに、英語の指導改善に着手した。以前は、英語に苦手意識を抱く生徒が多く、学習意欲に課題がある生徒も少なくなかったという。英語科の石山優先生は、次のように語る。
 「いわゆる英語嫌いの生徒の姿を見て、『力はあるのにもったいない』と感じていました。そうした中、同事業の研究指定を受け、山形県教育委員会の指導主事の先生から、同事業は『スーパーティーチャーの育成ではなく、あくまでも授業モデルの開発を目的としている』と説明されました。それを機に、英語科内で指導改善への意識が高まったのです」
 英語科では、生徒にどのような力を身につけさせるべきか、検討を重ねた。そうして打ち出されたのが、「英語をコミュニケーションの道具として使える力」「英語を即興的に使える力」「英語が楽しいという思い」という3つの育成目標だ。
 「本校では、大学進学希望者の大半は推薦・AO入試を利用します。また、就職希望者も少なくありません。そこで、大学入試よりも、生徒に英語を『使う』魅力を伝えることを重視した目標を設定すべきだと考えました」(石山先生)

取り組みの詳細

生徒が自分の成長を実感できるよう、授業計画を再構築

 同校が最も重視したのが、授業の「計画性」だ。
4技能について、高校3年間の到達目標や「GTEC」の目標を明確にした「学習到達目標(CAN-DOリスト)を作成(資料1)。これに基づき、各レッスンや各授業へと逆算式に詳細な計画へと落とし込んでいった。
「以前は、レッスンと次のレッスンのつながり、今日の授業と次の授業のつながり、授業中の最初と最後のつながりに課題がありました。それを改善すべく、授業の系統性の強化に力を入れることにしました」(石山先生)
例えば、教科書の英文が社会問題を扱ったものだったとしても、社会問題に興味を持つ生徒は多くはない。そこで、いきなり教科書の社会問題から授業を始めるのではなく、身近な題材を取り上げてから、社会問題につなげていくことにした。
また、生徒に「できなかったことができるようになった」という達成感を味わわせるような組み立てにすることも意識した。そこで、1レッスンが15時間分の場合、最初の1時間目と最後の14〜15時間目に同じようなアウトプットをさせる。最初はできなかったことが、1カ月〜1カ月半後の授業でできるようになったと実感させようと考えた。これは、1つの授業の中でも同じだ。テーマを与えて、ペアで話をさせるようなSmall Talkを授業の最初と最後に行う。最初はうまく話せなかった生徒が、授業中に音読などを繰り返すことによって「うまく話せるようになった」と感じさせるようにするためだ。1年次のうちは単語数個だけで話すので精いっぱいだった生徒も、学年が上がるにつれて楽しみながら話せるようになる。
「授業の中では、なるべく音読を入れています。自分でできることはできるだけ家庭でやってほしいという思いがありますが、家で音読してくる生徒は多くはないからです。このため、授業の中でどれだけ音読の時間を取れるかが大きな鍵になります。授業では説明の時間を少なくして、練習の時間を多く取るようにしています」(石山先生)

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【資料1】CAN-DOリスト

レッスンの最後には、1人1分程度のパフォーマンステストを実施

 レッスンの最後には、パフォーマンステストを行うが、スクリプト(台本)を作らずに即興的に行わせることもある。1人1分程度で、1時間で40人が終わるようにするのが原則だ。ペアでトークするスタイルで行うこともあるが、その場合も、誰と組むのか事前に決めるわけではない。1年次から、その場で組んだペアで即興でトークしていく。具体例を紹介する。ハロウィーンの起源を学んだ2年次の1月のレッスン(資料2)では、「外国人旅行者を誘致するために新庄まつりについてプレゼンテーションする」というテーマでパフォーマンステストを行った。テーマを決めた経緯を、石山先生はこう語る。
「当初は、ハロウィーンの起源にしようかと思ったのですが、それは授業で繰り返し学んだことなので、テーマとしては簡単過ぎます。また、生徒がネイティブの人たちにハロウィーンの起源を説明する機会は、実際には少ないでしょう。そこで、祭りという共通点があり、外国人に説明する機会がありそうな、地域の伝統行事『新庄まつり』をテーマにすることにしました。生徒にとって身近であり、興味を持ちやすいとも考えました」(石山先生)
とはいえ、新庄まつりについてゼロから英語でプレゼンテーションするのはハードルが高い。そこで、レッスンで学んだ表現を借りて用いる「英借文」をさせるようにした。パフォーマンステストのテーマに新庄まつりを取り上げることを、レッスンの前半で生徒に伝え、原稿を準備させた。英語が苦手な生徒であっても、英借文であれば取り組みやすくなると考えた。
教師はパフォーマンステストを見ながら、その場で採点する。リード・アンド・ルックアップができればB、レシテーションのように暗唱できればAなどと、3つ程度の観点を設定している。それらの観点は「テストルーブリック」(資料3)にまとめ、生徒に配布している。テストルーブリックには、生徒の学習意欲を伸ばすというねらいもあるという。
「テストルーブリックを見れば、何がどの程度できると、どのような評価が得られるのかが分かり、生徒は、力を入れるべきポイントが見えてきます。そうして取り組んでいく中で、英語を『使う』楽しさを実感すれば、学習にさらに前向きになれるでしょう。英語を『使う』楽しさの自覚は、主体的な学習の原動力であり、4技能の定着がより重視される新しい大学入試の対応にもつながると考えています」(石山先生)

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【資料2】授業内ワークシート

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【資料3】パフォーマンステスト・テストルーブリック

普段の音読や英借文の成果が反映されやすい定期考査内容に大転換

 指導改善の中で、定期考査の内容も大きく変えた。以前は「Thisは何を指しているのか?」といった問題や知識を問う問題が中心だったが、音読や英借文に取り組むからこそ、できるようになるような内容に改めた(資料4)。
「長文の中の指示語が何を指しているのかを出題しても、教科書の文章の内容を日本語で覚えていて解答できてしまう可能性があります。英文をきちんと読んで初めて正解できるよう設問することの重要性を、あらためて教科団で共有しました」
 試験前には、生徒にテスト設計を開示する。「このレッスンのこのパートからこういう形式で出題する」といったことを伝えるのだ。例えば、大問1では動詞変化と前置詞について出題すると示しておく。すると、生徒たちはそれらに注目して学んでくる。
 「定期考査では、生徒が学習に力を入れるきっかけという役割も重要です。本校の定期考査の内容は、テスト設計を参考にして授業での学習内容を復習してくれば、取り組みやすくなるようなものにしています」

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【資料4】定期考査

取り組みの成果と今後に向けて

 一連の取り組みの成果は、生徒の英語力に表れ、「GTEC」におけるスピーキングのスコアが大きく伸びた。
 「GTEC」に向けては、その付属学習教材『STEP UP ノート』を、本番1カ月ほど前から学習課題として出しているが、あくまでも実力を測ることを重視しているため、事前対策にはそれほど力を入れているわけではない。それでもスコアが大きく伸びているということは、授業がスピーキングスキルの向上につながったのだと言える。
 学習意欲も醸成されている。生徒へのアンケートの結果では、学年が上がるにつれて「英語が好き」「英語が得意」という生徒が目立つようになった。例えば、英語が得意という生徒は1年次の4月には20.3%だったが、3年次の6月には37.3%になった。
 「本校には、中学時代、英語への苦手意識を抱いていた生徒が少なくありません。そうした生徒の意識が、英語が『分かるようになった』『使えるようになった』と変化したことが、「GTEC」のスコアの伸びにつながっていると思います」(石山先生)
 現在は「流暢さ(fluency)」に重点を置いた授業を展開しているが、今後は「正確さ(accuracy)」にも力を入れていきたいと考えている。また、プレゼンテーションの後に、生徒同士のQ&Aを取り入れようと検討中だ。
 「Q&Aを行うためには、生徒が『聞く姿勢』を身につける必要があります。英語の授業に限らず、あらゆる教育活動の中で、生徒には、相手の言ったことに興味を示すよう伝えています。英語ですぐに質問を出せなくても、出てきたキーワードをリピートするだけでも相手は『聞いてもらっている』と受け止めます。1年次から聞く姿勢を育み、自分たちでQ&Aができるような生徒を育てていきたいと考えています」(石山先生)

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(石山優先生)