Vol.115
成績層に応じた多彩な活動を授業に取り入れ、
生徒全員の本質的な英語力の向上を実現
東京都立板橋有徳高等学校
2007(平成19)年、2つの都立高校を発展的に統合して開校した普通科単位制高校。
学習面では、国語・数学・英語を重点教科として1年次から習熟度別授業を展開し、基礎学力の定着と伸長を図る。2・3年次には単位制の特色を生かした進路希望や、興味・関心に応じた選択科目が用意されている。国際理解教育も推進されており、海外修学旅行(台湾)や夏休みの語学研修旅行(シンガポール)、ブリティッシュヒルズ(福島)での冬季語学研修により、語学力と国際感覚を育成している。
- 基本情報
- 公立、共学、普通科
- 規模
- 1学年約240名
- 主な進路
- 国立大は、電気通信大に1名が合格。私立大は、学習院大、成蹊大、成城大、日本大などに延べ166名が合格。短大、専門学校進学82名、就職20名。(2017年度卒業生)
取り組みのポイント
- ●英語で考え、英語で伝える活動を授業の主軸とし、生徒が自然に英語を話せる環境を整備。
- ●教科書の本文の要点を整理する活動を継続し、readingスキルの向上につなげる。
- ●論理的に多く「書く」をテーマに、英作文指導に力を入れる。
取り組みの背景
東京都立板橋有徳高校は、2007年に開校した新しい学校だ。国際理解教育に力を入れ、海外での研修や海外からの留学生との交流を始め、特色ある取り組みを推進しているが、英語に苦手意識がある生徒も少なくない。
そこで、英語の授業においては、習熟度別に応用・標準・基礎の3クラスを設け、コミュニカティブな活動を多く取り入れながら、生徒の学習意欲と英語力の向上を図っている。指導の成果を客観的に測るため、ベネッセの「GTEC」を導入しているが、そのスコアの伸びは著しい。例えば、9期生(現3年生)では、どの生徒もwritingのスコアがグレード2以上になり、readingのスコアではグレード3の生徒が増えた。学年全体で英語力の着実な定着がうかがえる。大きく実を結びつつある同校の指導を見ていく。
取り組みの詳細
初期指導で予習の仕方を具体的に示し、学習習慣の定着を図る
同校の指導には、3つの柱がある。1つ目は、学習習慣の確立だ。特に初期指導における最重要課題と位置づけ、1年次4月の最初の授業で予習・復習の仕方や授業中のノートの取り方などを詳細に伝える。予習では、教科書の本文をノートに書き写し、分からない単語の意味を調べてから、本文を音読するよう指導する。そして、教師は定期的にノートを回収し、しっかり予習しているかどうかを確認。平常点として成績に反映させる。
英語を用いた思考力・表現力の育成を重視し、アウトプット活動中心の授業を展開
2つ目は、生徒が自然に英語で考えられるような環境の整備だ。「コミュニケーション英語」における実践を見てみよう。応用・標準クラスでは、JET(The Japan Exchange and Teaching)プログラムの講師(以下、JET講師)と連携し、①単語の発音と意味の確認→②教科書の本文の音読→③本文の内容理解といった流れで進める。生徒が集中しやすくなるよう、各活動は長くても15分間ほどにしている。内容理解では、JET講師の発するQuestionに答える形で、interactionしながらワークシートに書き込んだり、生徒同士が英問英答しあうペアワークを行う。
定期考査においても基礎的な英問英答問題や30語程度の英文で記述する問題などを必ず出題している。英語科の問谷薫先生は、こう述べる。「英語で思考し、表現する力の定着には時間がかるため、1年次からじっくり取り組む必要があります。日本語訳を覚えるような学習はしてほしくないと考え、定期考査には日本語で答える問題は設けていません」
基礎クラスでは、各レッスンの教科書の本文を2〜3のパートに分けて進めていく。単語や熟語の意味を確認し、難しい表現や構文については日本語訳を示すこともある。そうして内容への理解を深めてから、音読を繰り返す。教師の後についてリピートしたり、生徒がペアになり、1人が音読、もう1人がそれをチェックしたりと、様々なバリエーションで行っている。英語科の澤田淳先生は、音読の狙いを次のように語る。「基礎クラスには文法が苦手な生徒が少なくありません。そこで、現在形・過去形・過去分詞形といった語形変化に、『音』で慣れさせたいと考えました」
基礎的な文法知識の定着に向け、全クラスで小テストの指導を徹底
3つ目は、基礎的な文法の定着だ。「英語表現」の授業を中心に、全クラスで小テストをこま
めに行い、合格点に達するまで再テストを繰り返している。「自分の考えを英語で正確に表現するためには、ある程度の文法知識が欠かせません。しっかり身につけられるよう、指導を徹底しています」(問谷先生)
ワークシートを活用した要点整理で、文章全体の要旨を把握する力を段階的に育成
技能別の指導にも注目したい。「コミュニケーション英語」では、英文の要旨を速く、正確に把握するというreadingスキルの向上を重視している。そこで、教科書の本文の内容を図式化するワークシートを作成し、これを応用クラスの授業で活用している(資料1)。空所にキーワードを補充するワークから始め、次第に書く分量を増やしていく。トピックセンテンスを抜き出したり、本文の内容を表にまとめたりすることもある。そして、3年次には、生徒一人ひとりが本文を白紙に図式化できるようになる。「文章全体のポイントを捉えられるよう、何が重要な情報かを意識的に選別しながら読む習慣を定着させたいと考えました。そうすれば、大学入試などで出題される長文読解問題にもしっかり対応できるでしょう」(問谷先生)
基礎クラスでも、本文の各パートの最後に要約を行う。まず、教師は「このパートで大事な内容は何だろう?」と問いかけ、生徒の答えを板書していく。次に、板書した中から最も重要なものをいくつか選び、その理由を解説する。最後に、教師が生徒の答えを踏まえてパートの内容を英語で要約。生徒は、それをノートに書き、暗唱できるようになるまで繰り返し音読する。
生徒が自分の考えを論理的に述べられるよう、英作文の指導に工夫を凝らす
「英語表現」では、自分の言葉で表現することに重点を置き、1年次は特にspeakingの表現、2年次はwritingでの表現活動を多く取りいれている。例えば、2年次の取り組みは、与えられたテーマについて、理由を3つ挙げて論述するというものだ。自分の考えをはっきり示せるよう、ディベートの論題になりそうなテーマを選んでいる。「昼食は給食と弁当とどちらがよいか」「犬と猫とどちらが好きか」といった個人的な好みで書けるテーマから始め、徐々に難度を上げ、後半では「コンビニの24時間営業はやめるべきか否か」といった社会的な視野から判断する必要があるテーマを設定している。添削はJET講師と手分けをして行い、添削を踏まえてrewriteを課している。文法的な正しさよりも書いた分量や内容、論理性を重視し、多く書いた生徒を褒めるなどして、生徒のモチベーションの向上を図っている。
英語に自信をつけ、学習へのモチベーションを高める生徒たち
speakingの指導には、両方の授業で力を入れている。英問英答や音読といった「コミュニケーション英語」での取り組みは、前述した通りだ。また、1年次の「英語表現」では、週1回、表現活動を中心に据えた授業を設け、レシテーションやスピーチ、スキットなどにも取り組んでいる。文法の学習をしている時は前向きになれない生徒が、創作活動では目を輝かせて活躍する場面も多々見られる。英語科主任の牧野陽子先生は、次のように話す。「教師は、実際は日本語を交えて授業を行っているのですが、生徒は英語を話す機会が多いためか、『英語だけの授業でも大丈夫だ』と思うようです。そうして自信をつけ、学習により意欲的になっていくと感じます」
取り組みの成果と今後に向けて
一連の指導の成果は、生徒の英語力に表れている。それは、冒頭で述べた9期生の「GTEC」のスコアを見ても明らかだ。writingではグレード1の生徒がいなくなり、一定の分量の英文を書く力が着実に身についている。readingでは、1年次に25人だったグレード3の生徒は、2年次には50人と倍増した。教科書の本文を要約する取り組みなどを通して、文章全体の趣旨を正確に把握できるようになっている証しだと言えるだろう。
周知の通り、2021年度入試から導入される「大学入学共通テスト」では、4技能型の英語外部検定試験の受検が必須とされる。同校では、それに向けた指導の大きな修正は必要ないと考えているが、speakingのスキルの評価基準については、全クラスで統一することを検討中だ。
問谷先生は、今後についてこう述べる。「生徒には、英語を使って、相手の伝えたいことを理解したり、自分の言いたいことを伝えられるようになってほしいという思いがあります。そうした本質的な英語力があれば、新しい大学入試も怖くありません。今後も、英語を用いて自分で考え、自分の言葉で表現できる生徒を育てていきたいと考えています」