GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.117

アウトプットをゴールとするインプット活動を積み重ね、生徒の英語による思考力・表現力を高める指導

岡山県立岡山芳泉高等学校

岡山県立岡山芳泉高等学校

1974(昭和49)年設立。建学の精神として「気宇広大」を掲げる。2002年度、単位制・2学期制の進学重視型単位制高校となった。2014年度から、全校を挙げて協働学習を軸とした授業改革に着手。探究的な活動や課題研究の充実に取り組み、そのスキルとして国際バカロレアの「知の理論 (Theory of Knowledge)」 の一部を取り入れた指導改善を推進している。生徒の自主性を尊重した部活動や生徒会活動、ボランティア活動なども活発に行われている。

基本情報
公立、共学、普通科・単位制
規模
1学年320名
主な進路状況
国公立大は東京大1名、京都大1名、大阪大5名、神戸大8名、岡山大59名、広島大9名はじめ256名(2018年度入試・既卒含む)

取り組みのポイント

  • 授業中、インプットした知識・技能を生徒が活用できるよう、スピーキングやライティングを始めとするアウトプット活動をこまめに行う。
  • 論理的なライティングスキルの育成に力を入れるべく、実力テストなどで分量の多い自由英作文を出題。
  • 予習を課さず授業で初見の英文を読ませ、その場で考える練習を積ませる。定期考査でも初見の英文を読む力を評価する。

    取り組みの背景

     岡山県立岡山芳泉高等学校では、英語による思考力や表現力を、今後の社会で必要とされる「汎用的な基礎力」として位置づけ、その育成を目指した指導改善を推進している。
     以前は、1・2年次においては語彙や文法事項のインプットを指導の中心に置き、3年次から既習内容を組み合わせたアウトプットの指導を本格化させていた。従来の大学入試に対しては、そうした指導が生徒の希望進路の実現につながっていたが、2020年度からの新入試に対しては、新たな指導が求められると考える教師が少なくなかった。英語科主任の田野雅人先生は、次のように語る。
     「大学入学共通テストにおける英語(筆記[リーディング])の試行調査(プレテスト)では、センター試験以上に大量の英文から筆者の主張や段落の要旨を短時間でつかむ読み方が重視されており、単語や熟語、構文の暗記に頼ったボトムアップ重視の指導ではいよいよ対応が難しくなってきました。文法・語彙の知識は文脈の中での理解を尋ねられており、また「GTEC」等の外部検定試験ではスピーキング・ライティングが課されることもあって、ばらばらの知識を闇雲に覚えさせるやり方には限界があります。そうした変化を考えると、インプットが完成した時点でアウトプットという手順では非効率的ですし、検定の実施時期は従来のセンター試験より早くなることから、低学年次から両方を並行して伸ばす指導を研究する必要があると考えました」

    取り組みの詳細

    初見の英文の大意を音声から把握する指導で、生徒の英語による思考力を鍛える

     同校の現1年次における英語の指導を見ていく。
     「コミュニケーション英語Ⅰ」(3単位)では、教科書の2つのセクション(4ページ約300語の英文)に2時間を充てる。両時間ともに、ペアワークをはじめとする生徒同士のコミュニカティブな活動を積極的に取り入れている(資料1)。
     1時間目は、音声から教科書の英文の大意を理解することを重視する。1年英語科の平松昌浩先生は、初見の英文と向き合えるよう生徒には予習をしてこないように伝えている、と話す。
     「事前に辞書を引いて単語の意味を調べたり、和訳をしたりすると、生徒は英語を日本語に置き換えて考えてしまいます。それでは、英語で考える訓練にはなりません。また、英文を速く、正確に読むポイントは、まず全体の趣旨を把握することにあります。そのため、辞書を引き、一文ずつ理解しながら読み進めるという学習は、この授業の目的には沿わないと考えています」(平松先生)
     中心的に用いる教材の1つが、英文中の重要語句を指示に従って抜き書きする「Phrase Hunt」(資料2)のプリントだ。語句を本文から探し、何度も練習することでコロケーションの定着を図っている。授業の基本的な進め方は、次のようになる。
    ①CDで英文を聞き、大まかな内容把握のQ&Aを行う。
    ②英文を見て、「Phrase Hunt」に書かれた表現を、指定された語数で抜き出す。
    ③抜き出した表現の発音練習を行う。
    ④ペアで英語→日本語及び日本語→英語の確認を、時間を区切りスピーディーに行う。
    ⑤英文の内容理解を深めるため、発展的なQ&Aを行う。答えが複数考えられる問いを含め、ペアで根拠を明らかにしながら対話的に学ぶ機会を作る。
     授業後は自宅で、「Phrase Hunt」の表現を練習するとともに教科書準拠の「予習ノート」に取り組み、文法・語法や文の構造を整理してくるよう指導している。
     2時間目は、理解した英文をアウトプットする活動を中心に行う。冒頭で予習ノートの答え合わせをし、Read & LookupやShadowingといった音読活動にペアで取り組んだ後、本文の内容を自分の言葉で表現するReproductionを行う。この活動では「Phrase Hunt」で身につけた表現を用い、間を自分の表現でつなぎながら、本文の内容を表す英文をペアに1分間で話す。最初は教科書そのままの形で言おうとするため、時間内に内容を全部網羅することは困難だが、3~4回練習を繰り返し、聞き手のアドバイスを参考にすることで自ら表現を工夫するようになる。最後に英文を書くときには、ほぼ全員が教科書の半分~3割の量で英文で要約ができるようになっている。「1時間に1セクションずつ進むやり方では、生徒が全体を捉える読み方になかなかならず、前時の内容を復習する機会も十分持てませんでした。アウトプットを前提とすることで、要約に必要な箇所を意識しながらインプットを行うなど学習の質も改善され、2時間目に行う内容が復習になり定着の効果が期待できます。また生徒にとっては、自分の言葉で英語を話しているという実感が持てており、即興でのスピーキング活動にも積極的に取り組んでいます」(田野先生)

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    【資料1】コミュニケーション英語Ⅰ指導方針

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    【資料2】 授業プリント(Phrase Hunt)

    論理的なライティングスキルの育成に向け、実力テストで自由英作文を出題

     コミュニケーション英語Ⅰの各レッスンの終わりには、英語による話し合い、プレゼンテーション、ライティングなどを行う時間を設けている。たとえばエネルギー資源について学んだレッスンでは、協働学習に取り組んだ。まず、グループごとに、太陽光、風力、水力、天然ガスの中からテーマとするエネルギー資源をグループに1つずつ割り当て、その長所と短所をグループ全員が英語で発表できるように練習をした。その後異なるエネルギー資源を担当したメンバー4人で班を再編成し、互いの発表をメモを取りながら聞き、グループの意見をまとめた(資料3)。振り返りの活動として、ルーブリックによる自己評価を行い、アドバイスや自分の発表内容を書き留め、次回に生かすこととした。
     「以前の本校では、ライティングの指導は、国公立大学の個別学力検査の対策として位置づけられており、センター試験後に本格化していました。しかし、文章を論理的に構成し書くスキルは、一朝一夕には身につきません。低学年次からライティングの指導に力を入れる必要があると考えました」(田野先生)
     そこで、年3回の実力テストでも、200点満点中40点の配点で自由英作文を出題することにした。6月の第1回実力テストでは、「今まで訪れた中で印象に残っている場所」というテーマを設定し、20分間の制限時間で取り組ませた(資料4)。
     「生徒は自由英作文に取り組む中で、『どう書いたらよいか分からない』『うまく書けない』と悔しさを感じることもあると思いますが、本校では生徒のそうした気持ちを大切にしています。実力不足を実感すれば、生徒はライティングの課題の解消に意欲的になるでしょう。「Phrase Hunt」や単語集で覚えた表現を使ったり、ペアワークでのアドバイスを生かして質の高い英語を書く経験を積み重ねれば、インプットに対する意識がさらに向上すると思います」(田野先生) 
     「書く」に重点を置いた指導は、国語などの他教科・科目でも行われている。今後は、他教科・科目との連携も強めていく考えだ。「次期学習指導要領では、知識をただ身につけるだけではなく、それを活用することがより重視されています。そのため、数学や理科、地理歴史・公民等の学習内容を英語で扱うなど、教科を横断した取り組みも充実させていければと考えています」(田野先生)

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    【資料3】 授業プリント(プレゼンテーション、ライティング)

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    【資料4】 授業プリント(Phrase hunt)

    実用性の高い重要な文法事項を精選し、徹底した問題演習で定着を図る

     「英語表現Ⅰ」では、重要な文法事項の定着を図る。以前は、教科書の内容を網羅的に授業で取り上げていたこともあり、学習内容を身につけさせるための問題演習を行う時間が確保できていなかった。そこで、指導改善に着手するにあたり、教師は、授業で中心的に取り上げる内容として、スピーキングやライティングに欠かせない文法事項を教科書から精選して授業時間に余裕を設け、問題演習を充実させることにした。
     「文法の学習は重要ですが、その目的は、あくまでも実用に生かすことにあります。助動詞やto+動詞の原形の副詞用法、It goes without saying~などの慣用表現は慣習的に教えているが、実際の場面、少なくとも生徒のアウトプットの水準では使用頻度の低いものが含まれており、それよりは習慣的行為の現在形を始めとする、高い頻度で使われる内容を重視すべきだと考えました」(田野先生)
     定期考査の内容も改めた。教科書の内容をそのまま出題しては、教科書または日本語訳の暗記で対応できてしまう問題があるため、生徒にとって初見の英文や文脈を意識して出題することにした。
    「授業では初見の英文を読むための力をつけることを目標にしています。定期考査でもその力が評価できるよう、話題や構造が教科書と近い初見の英文を出題しています」(平松先生)

    指導で伸ばしたい英語力の推移を正確に把握できるよう、4技能「GTEC」に変更

     指導改善に着手するにあたり、アセスメントについても検討した。
     同校が受験してきた模擬試験では、1つの問題にテスティングポイントが複数あったり、1つの大問に複数の種類の力を問う問題があるため、授業改善の資料とすることは難しく、指導の成果を測定するためには、標準化されたテストを受験することが必要と考えており、「GTEC」を3技能で受検していたが、授業中に即興的に話す機会を多く設けたことから、スピーキングテストも新たに導入した。

    取り組みの成果と今後に向けて

    「アセスメントは生徒の学力推移を把握するとともに、指導の成果を測る指標です。力を入れている指導が実を結んでいるかどうか、課題があるとすれば何か見極める必要があります。特にスピーキングのデータは本校に蓄積がなく、状況を正確に把握する必要があると考え、全学年で4技能検定へ移行しました」(田野先生)
     一連の指導改善の成果は、生徒の姿に表れている。授業中、生き生きと英語を話し、積極的にクラスメートとコミュニケーションを図る生徒が目立つようになった。
     「スピーキングの流暢さは着実に定着していると感じます。4技能全体の定量的な成果は、9月に受検する「GTEC」の結果から判断したいと考えています」(田野先生)
     現在、生徒のライティングには文法的な正確さや語彙の質に課題も見られるため、今後はアウトプットの質を高める指導を取り入れていく。
     「今後英文が高度化するに従って、従来型の予習を課す必要が生じたり、場合によっては精読的アプローチも必要になってくると思います。実際に授業では辞書指導など、自立した学習者になるための活動も同時に行っています。基本としてはfluencyに重きを置きながら、足りない部分を補って、従来の資産を活用しながら新テスト1年生のカリキュラムを調整していきたいと考えています」(田野先生)

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    (左から田野先生、平松先生)