Vol.125
新入試を見据えた3年間の英語指導計画を軸に、外部検定試験と国公立大学個別試験に対応した英語力を育成
富山県立富山中部高等学校
1920(大正9)年、旧制・富山県立神通中学校として開校。例年、東京大学や京都大学といった最難関国立大学を始め、200人程度の国公立大学合格者を出す地域屈指の進学校。教育目標に「学力の充実」「品性の陶冶」「心身の鍛錬」を掲げ、生徒は学習だけではなく、部活動や学校行事、生徒会活動などに自主的、積極的に参加する伝統が受け継がれている。2011年度に理数科を廃止し、探究科学科(理数科学科・人文社会科学科)を新設。2014年度より文部科学省「スーパーサイエンスハイスクール」に指定され、次代に求められる資質・能力の育成に努めている。
- 基本情報
- 公立、共学、普通科・探究科学科
- 規模
- 1学年約280名
- 主な進路状況
- 国公立大は、北海道大16名、東北大18名、東京大16名、京都大4名、金沢大33名、富山大42名をはじめ230名が合格(2019年度入試)
取り組みのポイント
- ●3年間の英語指導計画を策定し、1年生から一貫性のある指導を行う。
- ●外部検定試験利用入試を見据え、全学年の生徒が半年サイクルで「GTEC」を受検し、指導改善や個別の振り返りに活用。
- ●難関国立大学の個別学力検査への対応力をしっかり培う従来の指導にプラスし、4技能を伸ばす言語活動の充実を図る。
取り組みの背景
富山県立富山中部高等学校では、1年次から英語学習に重点を置き、「自学自習」を大切にする学習習慣を定着させる指導により、これまでハイレベルな進学実績を実現してきた。その伝統的な指導法をベースとし、大学入試改革の動きにもいち早く対応して、新たな指導プランを作り上げている。
2019年度2学年の学年主任を務める菅田純一先生(英語科)は、17年度より情報収集と検討を重ね、新入試の初年度生に該当する同学年が入学した18年4月から「GTEC」を軸とした3年間の英語指導ストーリーを始動した。
「外部検定試験の導入がもたらす心理的な影響が大きいと考え、富山中部高校にとってこれまで大切にしてきた指導は残しながらも、新しい入試に対応して変えるべきところは大胆に変えることに着手しました。それを形にしたのが、「GTEC」を軸に据えた3年間の英語指導計画(資料1)です。この指導計画を基に授業内容も、スピーキング、ライティングの発信技能を中心にこれまで以上に強化すべく、新たな取り組みにも挑戦しました」(菅田先生)
新たな指導計画の策定と授業変革は、新入試に関する様々な不確定情報で不安を抱える同学年の生徒・保護者に安心感を与えることにも寄与している、と菅田先生は言う。
取り組みの詳細
3年間の英語指導計画を策定
半年サイクルで「GTEC」Advancedタイプを受検
新入試を見据えた3年間の英語指導計画は、主に新入試の初年度となる18年度入学生の学年団で検討し、学力向上委員会が取りまとめをして策定した。検討過程においては、まずは3年後に学校を挙げて受検していく英語外部検定試験を「GTEC」と位置付け、それに対応していくために、1・2年次にどのような取り組みをするべきか、ということを逆算型で検討した。英語外部検定試験を「GTEC」に選定したのは、以前より本校の全学年で採用しておりデータの蓄積があったことと、日々の英語指導においてこれまでも生かしてきたことが大きい。
「GTEC」は、1年次は年1回(12月)、2・3年次は年2回(2年次は7・12月、3年次は7月・10月)実施する。同校の生徒の多くは国立大学を志望しているため、個別学力検査対策を考慮すると、3年次はできるだけ早い時期に実施したいと考え、学校行事や進路イベントなどの兼ね合いも踏まえて日程を検討した。
この受検スケジュールにより、1年次の12月を基点に、概ね半年サイクルでスコアの推移を確認し、指導改善に生かすとともに、生徒の個別の振り返りや対策に「GTEC」を活用する方針だ。そのため、それまでは1年次のみBasicタイプを受検していたが、3年間でより一貫性のある指導を行うため、同学年から3学年通してAdvancedタイプを活用することにした。さらに、1年次から複数回「GTEC」を受検することには、外部検定試験の受検に慣れさせ、精神的な重圧を軽減するねらいも持たせている。
「外部検定試験の比重は必ずしも大きくないケースも考えられますが、受検を重ねてしっかりと点数を取っておくことで、個別学力検査に自信を持って臨めると考えています。これまでは主に模試とは異なる観点から英語力がどれだけ伸びたかをチェックするのに用いていましたが、今後は少しでも上の得点を目指し、進路の可能性を広げるという観点も大切にした指導を行いたいと思っています」(菅田先生)
模試とは異なった観点で英語力を測定する目的だけでなく、大学入試対策や卒業後に生かせるように英語運用能力を伸ばすという目的でも「GTEC」を大いに活用していく考えだ。
英語4技能の育成に向けて日々の授業改善を推進
授業では4技能の育成に向け、次のように各技能の指導内容を見直した。
■スピーキング
4技能のうち最も改善ポイントが多かったのが、スピーキングの指導だ。
ALTとのTT(チーム・ティーチング)で進行する1年次の「英語表現」の授業では、以前は学習テーマごとに個別にエッセイを作成させていたが、生徒同士が自分の考えを伝え合う「Sharing My Ideas」という言語活動に切り替えたほか、「Role Play」なども新たに導入した。(資料2)
「Sharing My Ideasでは、キーワードだけをメモして自分の考えを述べることで即興的に話す力を伸ばし、2年次でのディベート活動につなげる流れをつくりました」(菅田先生)
従来は、英語科の学年イベントとして、2年次の7月にプレゼンテーション大会を実施していたが、19年度よりディベート活動に変更した。(資料3)
「原稿を準備するプレゼンテーションに比べ、ディベートは即興性が高く、スピーキング力が高まりやすいと考えました。英語力のみならず、その場で考えて話すディベートを積み重ねることで、新入試で求められる思考力や判断力などの育成につなげるねらいもあります」(菅田先生)
また、1年次では、言語活動を充実させた授業で培うスピーキング力の成果を試す機会として定期的にアウトプットの機会を設けた。5月には「Show & Tell」、7月には校内独自の「スピーキングテスト」(資料4)、また11月には「Skit Making」(資料5)を行い意識を高め、入学後最初となる12月の「GTEC」受検につなげる。「GTEC」のスピーキングのスコアは、7月の「スピーキングテスト」との変化を見るとともに、英語表現の評価にも組み込んでいる。
■ライティング
「コミュニケーション英語」の授業では、レッスンごとのワークシートの最後に必ずライティングパートを設けて添削指導を行う。1年次の最初は写真などのdescriptionが中心で、しだいに難易度の高いテーマを設定する。(資料6)
「これまでもライティングは一定量を書かせることを大切にしており、この学年から特別に増やしたわけではありませんが、1年次の12月の「「GTEC」では期待していた以上の結果が表れました。これはスピーキング指導を充実させた効果の一環として、同じプロダクティブスキルであるライティング力も伸びたからだと捉えています」(菅田先生)
■リスニング
リスニングは聞く量を担保することを重視し、入学当初から指導の充実を図ってきた。特に新入試では、これまでのセンター試験で課されてきた「筆記:リスニング=4:1」の比重が、共通テストでは「リーディング:リスニング=1:1」へと変更となり、リスニングに重きが置かれることもあり、一層の指導の充実が必要となっている。
従来、授業では冒頭の帯活動としてリスニング課題に取り組むほか、ディクテーションやシャドーイングを重視していたが、さらに新たな副教材として物語のCDブックを3冊導入し、最初に音声を聞いてから内容理解問題に取り組む自宅課題を取り入れた。
「ある程度長い英文を聞くこと、さらにできるだけ毎日学習を継続することを意識しています」(髙橋先生)
■リーディング
授業では教科書やサイドリーダーの多読・精読を通してリーディング力の育成に努める。さらに1年次から、サイドリーダーを基に内容理解を問うオリジナルのプリントを作成し、週末課題として取り組ませる。(資料7)
「本校は比較的理系の学生が多く、エッセイ・小説読解のような問題をやや苦手とする生徒が見られるため、心情・内容理解を練習できる課題を出しています」(髙橋先生)
■国公立大学個別学力検査対策
上記のように新たに多くの言語活動を取り入れたが、従来通り、難関国公立大学の個別学力検査への対応力を育成するため、教科書の精読や文法・語彙の指導なども大切にしている。特に基礎を培う1年次の「コミュニケーション英語Ⅰ」の授業では、4単位のうち2単位は文法学習に充てている。
「基本的な学習をしっかりと積み重ねて獲得したスキルを活用して言語活動を行い、「GTEC」対応につながる英語運用能力につなげる流れを意識しています」(菅田先生)
取り組みの成果と今後に向けて
英語指導の改善を通し、スピーキングやライティングなどを中心に各技能の伸長が見られる。特に生徒が話す量が大きく増え、それに伴ってライティング力も高まっている。
「話したり書いたりする学習を通し、自ら文法や語彙の不足に気づき、『もっと勉強しなくては』という意識を持って自主的にインプット学習に取り組む生徒が多く見られるようになりました」(髙橋先生)
ディベート学習では、生徒自身が結果をジャッジする経験を積み重ねるなどすることで、「事実」と「意見」を明確に分けて英文を読み進める力も付いたと感じている。
大学入試改革に向けて、情報収集や指導改善に素早く動いたことで、生徒が戸惑う姿はほとんど見られない。今後もあくまでも国公立大学個別学力検査への対応力を培う伝統の指導を大切にしつつ、大学入試改革の動向を注視しながら4技能を高める指導を充実させていく考えだ。進路指導部長の五十里勘司先生は次のように述べる。
「本校は、伝統的に英語科への信頼感が厚い学校と言われてきましたが、この学年は例年以上に英語指導を重視した学習の流れをつくり上げました。その成果が大学進学実績という結果としてはどう表れるのか、大きな期待を込めて注目しています。他の学年にも言えますが、学年主任を中心に教員全員が、一つひとつの学習活動や課題設定が、東京大学前期日程の合格発表日である3月10日につながるというイメージを持って指導に取り組んでいます。この学年から指導ストーリーがより明確になったので、各学年の実態に合わせて調整しながらさらなる改善を図っていきます」
(左から、髙橋祐実先生、菅田純一先生、五十里勘司先生)
【資料1】 英語指導3カ年計画
【資料2】 英語表現で活用するワークシート
【資料3】 ディベート活動
△準備シート(左・中央) △Judge Sheet(右)
【資料4】 校内独自のスピーキングテスト
【資料5】 Skit Making
【資料6】 コミュニケーション英語で用いるワークシート
【資料7】 サイドリーダーのワークシート(自宅学習用)