私にも子どもが3人います。彼らが小さかったとき、私はよくおんぶして川縁を歩き、たくさんお話をしました。休日になるとあちこちに連れて行きましたが、今は成人してそれぞれの道を歩んでいますので、もう滅多に遊んでもらえません。「親が子どもを遊んでやっている」と思っていたのは大間違いで、実は「親が子どもにつきあってもらっていた」のです。今思い返すと、人生最良の時間でした。たまにその当時のビデオを見て、一人泣いています。ビデオは撮っておくことをお勧めいたします。言語習得の研究にも役立ちますよ!
言語と言えば、「生む」という言葉は興味深いですね。語尾が「む」である動詞は「まれる」をつけると受け身になります。「生む」の受け身も「生まれる」となりますが、英語も日本語も直後には「によって」ではなく、「に」(英語の「in」や「to」)がきます。”He was born to a poor family.” のように、英語も日本語も「生まれる」の直後には、動作主ではなく、どこに預けられたのかを示す「to」や「に」がくるというのは、子どもは神様によって親のもと「に」預けられたという発想があったのかもしれません。
今は、預けられた子どもの面倒を見る時期です。神様に選ばれし人ですから、誇りと責任を持って子育てをしてください。親子は他人であり、いずれ別れてそれぞれの人生を歩みますので、だからこそ子どもといることができる時間を大切にしてください。親の仕事は親しかできませんが、教師の仕事は代わりがたくさんいますから、安心して休職してくださいね。
次に、長い間現場を離れることへの不安ですが、育児休暇は教師として成長するチャンスです。子育てをすると、保護者の気持ちを感じるようになったり、生徒と自分の子を重ねて考えたりするようになります。また、赤ちゃんは親の言うことを聞いてくれるわけではないので、親が赤ちゃんの気持ちを察しようとします。それは、子どもから学ぶことであり、教師として必要な資質でもあります。つまり、育児休暇を取っているときは、子どもを観察し、子どもを知ろうとし、子どもからいろいろなことを教わる、言わば人を育てることの本質を経験する時期なのですから、単に休んでいるわけではありません。
よい教師は、生徒から学びます。授業中につまらなそうにしている生徒に気づき、話しかけたり問いかけたりして、その原因を知ろうとします。姿勢が悪い生徒や居眠りをしている生徒には、一方的に叱るのではなく、いろいろ思いを巡らせたり話しかけたりして理由を知ろうとします。教師は生徒のアウトプットから到達度を測ったり、自らの指導法を振り返ったりしますが、生徒のアウトプットはスピーキングやライティングだけではありません。姿勢や表情、声のトーンやつぶやきなどもアウトプットです。全国を回って授業を見てみると、それを見逃したり、聞き逃したり、あるいはそれが脳に届いていない先生が驚くほど多いことを知り、心を痛めています。
教職に就いて5年ほど経過したということですが、緊張感がなくなり、少し仕事がわかってきたと勘違いし始める時期ですので、ちょうどよいリセットの時期ではないでしょうか。教育には「こうすればいいんだ」などという明快な答えはありません。刻々と変化していく世の中で育つ子どもたちも、刻々と変化しています。つまり、私たちは世の中から、そして生徒から、学び続けないといけないのです。
教師はよく自分から生徒の方に向かってベクトルを出しますが、生徒からのベクトルを受け取ったり、引き出したりすることは多くありません。育児休暇は、その習慣を身につけるための訓練の時期であり、生徒の気持ちがわかる、よりよい教師になるための研修期間だととらえてください。
時間があれば、教科の指導法も勉強してください。さらに、新聞に毎日目を通したり、テレビでニュースドキュメンタリー番組を見たりして、視野を広げてください。授業で使える映像を集めることもできるかもしれませんね。育児休暇中に学んだことを、ぜひ先生が担当する生徒たちに還元してください。元気に職場復帰される日をお待ちしております。