田尻先生
Q.64 「自学ノート」で「自ら学習する生徒を育てる」方法について、また、「自学ノート」を課題として取り組ませる際の注意点等詳しく教えて頂けませんでしょうか?
現在1学年が140人ほどの公立中学校で英語を教えております。
先生のワークショップに何度か参加させていただき、先生の著書を読ませて頂きながら、『英語自学』について常に考えております。先生のワークショップの主題でもあったとおり、『アウトプットなくして学力向上なし』という言葉に深く感銘を受けております。

「自分の言いたいことが英語で表現できる」「自分が話す英語が外国人に通じる」という喜びを感じさせること以外に、生徒の英語授業に対するモチベーションを高めることはできないと最近よく感じております。

昨年より、先生の実践をもとに「自学ノート」を生徒たちにやらせてみました。先生が執筆された「英語自学のシステムマニュアル」にあるように「自学メニュー」を配付し、生徒にどの題材に取り組むかの選択を与えながら取り組んだのですが、自学ノートを提出する生徒数が伸びることなく、結局、定期テストや入試対策と称した空所補充の問題や実力テストの過去問を印刷し、週に一度全員提出を強制した年度となってしまいました。

かなり強い語気で提出を強制しながら、英語教師として、「英語を学ぶことの楽しさ」や「英語で表現することの楽しさ」を感じさせることなく日々の授業を続けている自分を情けなく反省するばかりです。

そこで、先生に質問なのですが「自学ノート」で「自ら学習する生徒を育てる」方法について、また、「自学ノート」を課題として取り組ませる際の注意点等詳しく教えて頂けませんでしょうか? 質問が漠然として大変申し訳ありません。ちなみに、先生の「Write and Talk & Talk」を副教材として、自学ノートに再挑戦したいと思っております。

お忙しい中、長々とした文章を読んでいただきありがとうございます。よろしくお願い致します。
 

 私は中学校教員時代、授業を前半と後半に分けていました。前半ではwhat to doとhow to do itを提示し、体験させます。そして、軌道に乗ったらあとは家で繰り返し練習させます。家でたっぷり書いたり読んだりしてマスターしたと思ったら、それを教師の前でデモンストレーションし、うまくできたら平常点を与えます。それが授業の後半です。つまり、授業の前半はどのような家庭学習をすれば力がつくのかを体験させ、授業の後半では家庭学習を行った結果ついた力を証明するというのが私の授業の流れでした。ですから、そのスタイルになって以来、自学メニューは提示していません。授業の前半でやったことそのものが自学メニューになるからです。
 what to do & how to do itはWrite and Talk and Talkを使ったものと、教科書本文を使ったものの2種類があり、それぞれ学期始めに提示し、ラジオ体操出席カードのような表を作って各自に持たせていました。これがあると、今までにどれぐらい平常点を取っているかが分かり、友だちと競い合いながら平常点を積み上げていくようになります。
 大学の語学の授業でも、何をすれば何点もらえるかを提示し、現時点で何点取っており、あと何点取ればどのような成績がつくかを常に確認させています。what to doとhow to do itは大学のLMS(Leaning Management System)にアップロードしていますので、学生は授業の90分全てを点数を取るために使っています。これがICTのメリットだと思います。
 しかし、語学は1クラス30人以上の学生が在籍していますので、1人あたり2〜3分個別に見てもらえるのが関の山であり、準備不足で点が取れないとまた最後尾に並ばないといけないことを体験すると、大学生も予習してくるようになります。そして授業が始まったらすかさず点を取り、あとはのんびりしたり、他科目の準備をしたりしていますが、人間関係ができてくると、友だちを手伝うようになります。そうなるとあちこちで教え合いが始まり、私との1対1のテストで合格して平常点を取るために、共闘が始まります。
 中学校教員時代も同様で、生徒は授業前に黒板に名前を書き込んで「予約表」を作り、授業の後半でやるべきことを終えてしまった生徒は、CDを聞いたり、DVDを見たり、他教科の勉強をしたりしていました。しかし、そのうち友だちに「教えてほしい」と頼まれ(私がそうするようにけしかけたのですが)、結局はほとんどの生徒が友だちを手伝っていました。その教え合いのシステム作りをご紹介したのが、2006年に放送されたNHK総合テレビ『プロフェッショナル 仕事の流儀』でした。

 生徒が家庭学習をするのは、「やったら力がついた/点が取れた」、「やったら授業中に成功体験をした」と生徒が思うことが条件となります。
 自学の利点は、教員に個人対応してもらえ、生徒が自分では気がつかないうちに犯してしまったミスを指摘され、それを修正することで英語力が向上し、テストで点が取れるようになったり、ALTと会話ができるようになったりすることと、教員と1対1で対話ができて、コメントを書いてもらえたり、褒めてもらったり、相談やメッセージに対する返答をもらえたりすることであり、それらを体験したらたとえ断続的であっても自学は続きます。

 先生はご質問の中に『「自分の言いたいことが英語で表現できる」「自分が話す英語が外国人に通じる」という喜びを感じさせること以外に、生徒の英語授業に対するモチベーションを高めることはできないと最近よく感じております。』とお書きになっていましたが、教員の褒め言葉やコメントも英語学習に対するモチベーションを上げますし、「発音がよくなった」、「英文が聞き取れるようになってきた」、「英文構造が分かるようになり、暗記が容易になった」ことなども、英語学習に対する動機を高めます。また、拙著『おたちょこ』を使って自分や友だちの犯した英語のミスに気がついたり、友だちと話し合ったり、ミスを修正して正解を得たりすることが楽しいと感じたり、『おたちょこ』の動画を見て納得したことを友だちに教えることが楽しい、動画を見て英文法やフォニックスを自学自習することが楽しいなどの声も聞こえています。生徒さんに、様々な「学ぶ喜び」を感じさせてあげてください。

 最後に、自学を強制すると自学に対して否定的になりますので、おやめになった方がいいと思います。あくまでも自主的な学習であり、自学をしてよかったという体験をさせてあげてください。私の生徒も全員が自学帳を出してくるわけではありませんでしたが、卒業時のアンケートには、「自学はやった方がいいと思っていたけど、ついついサボってしまった」とか、「自学帳を何十ページもやっていたが、先生がためて出すなと言っていたので、結局出さなかった。友だちが「見てもらえるから出せ」と言ってくれたけど、何か悪い気がして出せなかった」と書いた生徒もいます。「そうか、この子も自学をしていたのか。申し訳なかったな」と感じると同時に、自学を否定する生徒が全くいなかったことは強制しなかったことがその要因になっているのではと思いました。

 
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