緊急事態宣言が発出され、学校は3ヶ月の長きにわたってお休みとなり、予定した教育課程をどう遂行するかは、現場の先生方にとって現在最も大きな課題だと推察いたします。そこで、限られた時間の中でどうするかを考えると、おっしゃるとおり、何かを削らないといけないと思います。しかし、教える内容を削ることは難しいので、1年かけて教える予定だったことをその4分の3の期間で教えなければならないと思います。つまり、内容は削らず、時間的な無駄を廃するという発想です。
私が自分の授業を見直し、無駄な時間を減らすために行ったこととして、次の2点があります。
1.板書をやめる
2.反転授業にする
1に関しては、拙著『(英語)授業改革論』でも述べていますが、私は中学校の教員時代に週4コマの英語の授業が週3コマになった時、板書をしながら説明する時間を削り、可能なものはプリントで済ますようにしました。説明を聞きながら板書を写すというのはマルチタスキングであり、生徒はその内容をあまり理解していなかったことがヒアリングの結果から分かったからです。
現在中学校は年間140回英語の授業がありますので、50分の授業の中で10分ほど生徒が板書を写しながら文法説明を聞くとすると、10分×140回=1400分、これを50分で割ると28コマ分の授業時間に相当することが分かります。ですから、口頭説明と板書をやめることで7週間分の授業時間を捻出できるのです。
当時は口頭説明と板書をやめてプリントを配布していましたが、最近はそれに加えて「説明&モデリング」の映像ファイルや音声ファイルを作成しています。
大学の教養英語の授業では、リーディングクラスでは語順表指さし音読を、リスニングのクラスではネイティブ真似音読を徹底して行っていますが、各単元でのwhat to doとhow to do themは録画や録音をしてLMS(Learning Management System)にアップロードし、繰り返し見られる・聞けるようにしています。そして、何ができるようになるべきかをやって見せ、それを各自が練習し、授業中に私に確認してもらったり質問したりして理解を深め、再度練習して提出したら点数化するという反転学習の手法を採っています。
何かを定着させるには、(1)何をどのように練習し、その結果どのような力がつくかを説明する、(2)練習させる、(3)一人ずつ観察し、形成的評価を与えて伸ばす、(4)総合評価をする、という4つの段階があります。このうち(1)と(4)ではICTが活用できると思います。
私は中学校英語教員時代の晩年は、授業の前半は新しい文法事項や教科書本文を使って何をどうすべきかを体験させ、生徒がコツをつかんだら「あとは家でやってきなさい。習熟してできるようになったら、明日以降の授業内の後半部分でそれを証明しなさい。できたら平常点を与えます」と伝えていました。つまり、授業の前半は何をすべきかを体験させるパート、後半はできるようになったことを確認して平常点を取らせるパート、としていました。後半はなるべく時間を取ってやらないといけないので、前半をいかに短く効果的にするかです。説明を録画したり録音したりすると、時間が表示されますので、短時間で効率のよい説明を心がけるようになります。また、録画・録音だと、生徒は分かるようになるまで繰り返し見たり聞いたりできますし、複数の同学年クラスを担当している場合、全クラスに平等な教え方ができます。小中高の先生方も政府がマスクではなくタブレットを早く児童生徒に渡してくれたら、この手法が使えます。
教員というのは、頑張ろうとすればするほど説明してしまいます。私は恩師である築道和明先生に、「結局、英語の学力を上げるには、いかに教員がしゃべらないかがですよね」と言われたことが授業改善の大きな転機になりました。
社会は「新しい生活様式」を模索しています。我々教員も「新しい授業スタイル」を模索していきましょう。