田尻先生
Q.4
中学1年生の家庭学習用に、田尻先生の自学帳を導入しています。昨年度までは、全ての生徒に自学帳を出してもらう目的から、定期的に点検する日を決め、クラスごとに全員点検する日を決めていました。そうすると提出する生徒としない生徒の差ができてしまいます。私も、どんな学習をすればよいか、他の生徒の頑張りも紹介しながら声掛けをしていますが、田尻先生はどのように生徒に提出を促していましたか。  
 3年生の後半になると、いよいよ部活動も生徒会活動も主役の座を降り、勉強に集中するようになります。様々な体験を経て自分の進路を真剣に考え始めたとき に、生徒は脱皮の時期を迎え、さらに受験に向けて精一杯努力することで自立していくのです。ですから、この時期は自己表現活動をすると内容に深まりが出て きます。

 自学は、あくまでも自らが決定して自主的に行った学習を指すのであり、クラスごとに全員点検するものではありません。それは、宿題です。自学は、提出する生徒としない生徒とでは学力差が出ますが、それは当然のことです。

 週に3〜4回の授業で、英語力がつくことなどありえません。ですから、授業は一言で言うと、「その3割をこれからすべき家庭学習を体験することに費やし、残りの7割は家庭学習の成果を一人ずつ点検することに費やす」ものであると考えています。

 いつも言うように、語学は「理解」→「習熟」→「応用・発展」と進んでいきますが、英文の意味や構造を理解するのは家庭でもできます。習熟のための音読や筆写も家庭でできます。応用問題も家で取り組むことができます。調べ学習をしたり文を書き加えたりする発展的な学習も家でできます。授業は、学校でしかできないことをする場ですから、正しく理解しているかを確かめたり、正しい音読ができているかを点検したり、正しく応用できているかを確認し、間違っていたら修正し、次にやるべきことを生徒と一緒に確認したりするのが教員の仕事です。何をやるかが見えたら、あとは生徒の意欲と行動力の問題です。

 私の生徒にも、自学帳をほとんど提出してこない生徒がいました。卒業時のアンケートで自学のことを質問すると、「本当は2冊やっていたけど、出しそびれてたまってしまったので、先生に悪いと思って出せなかった」、「やらないといけないことはわかっていたけど、できなかった。自学は絶対やった方がいいと思った」などと書きます。私の26年の中学校教員生活のなかで、自学を否定した生徒はいません。

 英語は技能教科です。練習なくして上達はありません。上達しなければ点数はもらえません。ですから、家庭学習をして力を伸ばすのは必然です。授業の7割を占める「家庭学習の成果を一人ずつ点検する」部分では、生徒はCan-do listから項目を選び、できるようになったことを私に証明して点数を取ろうと必死で挑戦してきます。その間、家で練習をしてこなかった生徒は、机に座って練習をしています。すると、Can-do listの項目に挑戦して合格し、点数を稼いできた友だちが帰ってきて、「おまえも/あんたも家でやってきたら、すぐに先生にチャレンジできるのに。家でやってきたら?」と勧めるor説教するのです。それを見て私は、いつもにやっとしていました。

 また、定期テスト前に自学帳を出し、訂正で真っ赤になったノートが返ってくるたび、生徒は「うわ!こんなに間違っていたんだ。自学帳を提出しなかったら、テストの答案用紙が真っ赤になって返ってきていただろうな」と言いました。そして、友だちに「おまえも自学帳出した方がいいぞ」と言ってくれるのです。

 それでも私は強制しませんでした。生徒は出すかどうかを自分で決めるわけであり、だからこそ「自学」です。よし、やろうと自分で決めて行動してこそ、「自学」です。自学とは、大人になるための訓練でもあります。そこで大人が手を差し伸べたら、子どもは成長しません。

 やろうと思ってもできなかったことを後悔するというのも、大切な人生経験です。強制的に自学帳を出させて、やらされる勉強で英語が嫌いになってしまうより、やればよかったなと後悔する方が、後に英語を勉強し直す可能性が高いと思います。

 どうしても全員に勉強させたければ、宿題にすればよいと思います。ただ、私の生徒は自学帳に1冊目から継続して通し番号を打っていましたので、ページ数が増えるのが嬉しくて、宿題を出しても、「先生、その宿題、自学帳にやってもいいですか」と聞いてきました。そのような際は、「もちろんいいよ。やろうって自分で決めたんだから、それも自学だ」と言うようにしていました。この場合は、宿題が自学になります。

 いずれにしても、自学は自立した学習者を育てることを目的としていますので、自学を通して自ら学ぼうとする生徒を増やしてください。

 
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