Vol.131
Online Speaking Trainingの中で単元をつくり、タスクを通して実践力とモチベーションを高める
愛媛県立今治西高等学校
1901(明治34)年、旧制・愛媛県立西条中学校今治分校として開校。個性の豊かな人間の育成を教育目標として、徳・知・体の調和のとれた健全な心身の発達を目指す。マニフェストとして、
「自己実現・進路実現100%」「国公立大学合格率70%」「西高に入学して良かったと思う生徒100%」を掲げる。今治市国際交流協会主催の姉妹都市レイクランド親善訪問団、愛媛県のハワイ派遣事業、YFUのドイツ長期留学、愛媛大学との高大連携事業グローバルサイエンスキャンパスなどのプログラムを利用して海外研修にも積極的に取り組んでいる。運動部・文化部とも活発で、野球部は甲子園に27回出場を誇る。
- 基本情報
- 基本情報:公立、共学、普通科
- 規模
- 1学年約320名
- 主な進路状況
- 国公立大は、東京大1名、京都大2名、大阪大8名、名古屋大1名、神戸大4名、愛媛大34名、九州大7名など181名が合格(2020年度入試結果、過卒生を含む)
取り組みのポイント
- ●英語表現Ⅰの中でOnline Speaking Trainingを単元化し、文法指導と表現活動を融合。
- ●2年次に年間10回程度、ルーブリックを使ったWriting課題に取り組む。
- ●2年次12月を境に4技能の指導から国公立大の2次試験を意識した受験指導にシフト。
取り組みの背景
愛媛県立今治西高等学校では2017年度から3年間、県教委に、えひめ英語力向上特別対策事業の英語教育推進校として指定され、4技能を総合的に伸ばす指導に取り組んできた。特にSpeaking力向上のため、1年生を対象に、オンライン上でフィリピン人インストラクターと英会話レッスンを行うベネッセのOnline Speaking Training(以下、OST)を導入し、中級レベルであるIntermediateコースに取り組んできた。事業の初年度は、ルーブリックによるアウトプット活動の評価手法の開発とともに、レッスン内容を産出するWriting活動も取り入れ、自己評価・相互評価の確立を進めた。2・3年目は、全12回のOSTのレッスンを英語表現Ⅰの単元として組み込み、より体系的・有機的に英語指導の中に位置づけて取り組んできた。
取り組みの詳細
OSTを単元化し、表現活動として位置付ける
同校ではOSTを1年次で取り入れている。年間10レッスン(1レッスン25分)と2回の評価テストを、県教委の英語教育推進校事業で支給されたタブレットを用いて実施している。事業1年目に、L1→評価テスト1→L3→L6→L7→L8→L9→L10→L11→評価テスト2→L14の順で受講させ、生徒の英語を話すことに対する意識の高揚に努めた。2年目以降は、生徒の達成感やモチベーションをさらに高めるため、10のレッスンを4つの単元に整理した。
その4単元の学習を通して、会話の「構成力・展開力」を身に付けさせることを目標に置き、「慣れる」→「尋ねる」→「説明する」→「構成する」という流れを作った。具体的には、「慣れる」L2→「尋ねる」L4・Free Talk→「説明する」L5・L7・L8・Free Talk→「構成する」L12・L14・Free Talkを行うものであり、各単元のレッスン後、にFree Talkを行うことが特徴である。その中で、フィリピン人インストラクターに英語で指示を伝え、テーマに沿った課題を解決することで実践力を身につけるという流れである。
1レッスンの活動は、予習から宿題まで「OSTセルフ・レポート」という同校独自のプリントに記録される。毎回のレッスンを確実にスキルの向上につなげるためのA4両面のプリントで、1レッスンにつき1枚使用する。セルフ・レポートはレッスンの要点など予習の内容をメモしておく「Preparation」と、レッスン中または直後に会話内容のメモや伝えたくても言えなかったことなどを記入する「Training Memo」(資料1)、裏はルーブリックと100語サマリー(資料2)という構成になっている。
レッスン前に生徒は、OSTのテキストで予習を行い、レッスンで使用する単語の意味や表現のキー・ポイントなどをOSTセルフ・レポートの「Preparation」の欄に書き出しておく(資料1)。授業ではレッスン前の冒頭10分間でポイントや流れなどを再確認し、25分間レッスンを受けた後、残り15分間で復習を行う。ルーブリック(資料2)で活動の振り返りを行った後、ペアになり、それぞれ1分間でレッスンの会話の内容を相手に伝える活動を各2回行う。1回目はワードカウンターを使ってWPM(Word Per Minute)を測る。WPMの数字を記録し、積み重ねていくことで自身のfluencyの伸びを確認するねらいがある。ただし、WPMに気を取られると、相手に伝えることの意識がおろそかになる。そこで、2回目はコミュニケーション力向上の観点から、語数のカウントをせず、相手の表情や反応を見ながら伝える。これらに取り組んだうえで、文法や表現への意識づけを図るため、宿題としてレッスン内容のサマリー(100語)と感想を書いて(資料2)、ルーブリックとともに提出する。
Free Talkのタスクでモチベーション向上を図る
OSTのレッスンを踏まえて、さらなる実践力の向上を図るのが、単元のまとめとして行われるFree Talk である。たとえば、L12・14→Free Talkの流れは次の手順で行われた。まず、L12(テーマはGiving Details about Events)でナンバリングのスキルを学ぶ。いくつかの選択肢に優先順位をつけ、自分の意見を表明した後、理由と根拠を述べて、自分の意見を分かりやすく伝える(資料3)。次時のL14(テーマはTraveling to a Deserted Island)では、L12で学んだスキルを使い、無人島に持っていく優先順位が高いものは何かをテーマにインストラクターと話し合った。
以上のまとめとして、L14の後のFree Talkでは、落ちていく気球から何を捨てるかについてインストラクターと情報交換する活動を行った(資料4)。自分が捨てるものにファースト、セカンドと順番をつけて理由を述べ、相手からも意見を聞き出し、両者の違いについて話し合う(資料5)。インストラクターに伝える指示内容は、構成的エンカウンターなどで行われるテーマを参考に教師が自作したものだ。レッスン内容と近いタスクを課すことで、スキルの確実な定着を促すのがねらいである。英語科の竹﨑仁思先生は、こう語る。
「OSTではインストラクターの質問に返すだけということが多く、生徒は受け身になりがちです。学んだスキルを使ってFree Talkを行うことで、こちらから伝える、相手の考えを引き出すという双方向なコミュニケーションを促したいと考えました」
18年度1学年では、2・3学期にタブレットを使ったSpeakingのパフォーマンステストを行った。生徒はQ&Aやプレゼンテーションなどレッスンの一部を動画で撮影し、ルーブリックで自己評価を行った。教師は全生徒の動画を見てパフォーマンスを評価した。生徒はその評価を見て、どのようにパフォーマンスを向上させていくのかを考えた。英語科主任の岡田道哉先生は、こう語る。
「一番のメリットは、自分のパフォーマンスを振り返られること。3年間でどのように自分のパフォーマンスが向上しているかを追いかけることができます」
岡田先生(左)と竹﨑先生(右)
2年次からWriting課題を生徒同士で相互評価
1年次の「英語表現Ⅰ」の4分の1はOSTの単元にあてられるため、文法指導がやや手薄になった。そこで2年次では、1学期から教科書の単元を基にしたWriting課題を年間10回程度実施している。
課題のテーマは単元の内容や学んだ文法に関するものである。完了形を使って自分の経験について80語以上で書くなど、指定された文法事項と最低語数を使ってエッセイを作成する(資料6)。ルーブリックで自己評価を行った後、4人グループで回し読みして相互評価を行う。与えられた設問に対して的を射た答えになっているか、意見と具体例やディスコースマーカーを効果的に使っているか、指定された表現を2つ以上使っているかなど、気づいた点をシェアする。そこで寄せられたコメントを基に、各自がリライトの方針を練って、ポイントを4〜5点挙げ、文章を書き直す。教師はリライトした文章をチェックし、良い例と悪い例を印刷してクラス全体で共有する(資料7)。悪い例のほうが、内容の矛盾や論題とのずれなどさまざまなパターンがあり、生徒の参考になる場合が多いという。
「Writing指導は構成展開力をつけることにもつながるので、大学入試に向けて読解力を高める際に生きてくると思います。具体的な成果は、おそらく共通テストに向けたマーク演習を始めた頃から見え始めるのではないでしょうか」(竹﨑先生)
Readingでは、大学入学共通テストの対策として「GTEC」の活用を推奨しているという。
「共通テストの前半の大問1~3は、概要をつかんだり要点を拾ったりする情報検索力を問う問題です。「GTEC」とも似ているため、付属教材の「スキルUPワーク」を、2年次2月共通テスト模試の前に課題として活用しています」(竹﨑先生)
Listening力の不足は同校の最大の課題で、模試でも最も苦戦する技能であるという。Listeningについても、必ず「GTEC」の前に「スキルUPワーク」に取り組ませている。定期テストでは、生徒がどこでつまずいているのかを分かりやすいように作問を工夫している。一例として、単語を覚える時の音でつまずいているのか、音を聞いた時の音変化でつまずいているのか、まとまった文章を聞いた時に概要をとらえる力が弱いのかの3点に絞って作問し、どの力が足りないのかを生徒が把握できるようにした。
2年次12月からは個別試験対策指導にシフト
同校では、1年次から2年次2学期までは、アウトプットとインプットの比重を同程度に重視している。「コミュニケーション英語」では、1年次から2年次2学期まで英文和訳はほとんど行わず、TFやQ&A、サマリーなど4技能を総合的に伸ばす指導を行う。「英語表現」でも、OSTやWritingなどアウトプットを重視してきたことは、前述の通りだ。
それを2年次12月からはガラリと変えて、問題集は3行で1文になっている難易度の高いものを選び、授業内容も英文和訳や要約、文構造など、国公立大学の個別学力検査を意識した指導にシフトするという。指示語の内容や文の構造、接続詞の使い方など大雑把に理解させていた細部にもこだわり、正しい和訳を行うための文法知識を注入していくのである。「英語表現Ⅱ」についても、文法や語法の小テストを毎時間実施して受験学力の定着を図る。
2年次12月という時期は、事業開始当初から予定していたリミットだったという。
「和文英訳で徹底的に教え込まなければ、3年次1学期にある個別大学模試やハイレベル模試で点数が取れません。3年次1学期に受検予定だった英語認定試験に対応できる力を2年次2学期までにつけておき、2年次3学期からは入試本番を見据えて個別学力検査に対応できる力をつける指導に切り替える必要があると考えました」(竹﨑先生)
進研模試の設問などを例に、取りこぼしをなくすための指導を始めるのもこの時期である。5点問題について、5点、4点、3点、2点、1点のサンプルをそれぞれ挙げ、「5点と4点の違いは、この不定詞が目的を表すものとして訳されていないから」など入試のための問題の解き方を教え込む。
こうした指導が生きてくるのも、1年次からアウトプットにしっかりと時間をかけていたからだという。
「アウトプットを重視すると文法の定着が遅れるのは事実ですが、最後は追いついてくるというのが多くの先生の感覚だと思います。私自身も前任校でアウトプット重視の指導を行っていましたが、生徒は最後にしっかりと追いついてくれました。4技能が土台として備わっていれば、入試に対応できる力もついてくると信じています」(竹﨑先生)
取り組みの成果と今後に向けて
19年度、3年間におよぶ英語教育推進校の指定が終わった。最大の成果は、OSTやタブレットを使った指導法を確立できたことである。OSTを単元化したことで、レッスンの一つひとつをさらなる実践力の向上につなげられる体制ができた。また、タブレットを使ったパフォーマンステストの実施手法も確立された。
OSTを始めてから、英語を使うことに対する生徒の意識が大きく向上した。入学当初はインストラクターとのコミュニケーションを恐れていた生徒も、回を重ねるにつれて「話すのが楽しい」というようになる。語彙の不足を実感し、もっと勉強したいと考える生徒も多い。そうした意識の変化は「GTEC」の成績にも表れており、特に単元化してからはSpeakingの向上が顕著になった。WritingについてもCEFRのB1層が増えるなど一定の成績向上が見られるという。「ルーブリックを使ったWriting指導が効いているのではないか」と岡田先生は語る。
一方、課題はOral InteractionにおけるListening力の向上である。生徒のアンケートを見ても、「聞き取れないので返せない」といった声が多く、ディクテーションが苦手な生徒も多い。「OSTのレッスンでも、話の内容をしっかり把握できないまま表面的なコミュニケーションに終始している可能性があります。定期考査で課題を認識させ、生徒自らが弱点を克服していけるような意識づけを行っていきたいと思います」(竹﨑先生)
【資料1】 OSTセルフ・レポート (表)
【資料2】 OSTセルフ・レポート (裏)
【資料3】 Free Talkのワークシート①(本時の展開)
【資料4】 Free Talkのワークシート②(インストラクターに伝える指示内容)
【資料5】 Free Talkのワークシート③(記録用紙)
【資料6】 Writing課題
【資料7】 Writing課題のフィードバック