GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.130

授業に適切なアウトプット活動を取り入れることで、
英語4技能をバランスよく効率的に高める

浜 みか氏

浜 みか氏

米ジョージタウン大学大学院で応用言語学の博士号を取得。同大学でティーチング・アシスタントとして第二言語習得、英語指導法や英語ライティングクラスの指導に携わる。現在アメリカに在住し、言語テスト開発を専門とする会社で、言語指導・言語習得部署のディレクターを務める。

言語学の研究では、授業に適切なアウトプット活動を取り入れることが、英語力を伸ばすカギであると言われている。授業にアウトプット活動を取り入れる意義やより効果的な活動を行うための留意点について、言語学者の浜みか氏に聞いた。

指導のポイント

  • アウトプット活動を行うことで、生徒がインプットへより注目を注ぐため、インプットから得られる知識が格段に高まる。
  • アウトプット後のフィードバックにより、既習知識の強化や修正が起こり、言語習得が効率的に進む。
  • スピーキングの意味のある反復練習で、頭にある知識を瞬間的に使える力(自動化)を養うことができる。

英語4技能を伸ばすために、アウトプット活動はなぜ重要か

アウトプット活動を設定すると、インプットの質が格段に高まる

 日本の英語の先生方は、アウトプット活動の必要性を感じながらも、インプット活動に重点を置くあまり、スピーキングなどに十分な時間を割けないケースが多いようです。そもそも大量のインプットを行えば、自然とアウトプットもできるようになるから、授業にスピーキング活動を取り入れる必要はないと考える先生もいます。しかし、アウトプット活動を十分に行うことは、スピーキングやライティングのみならず、英語4技能のすべてのスキルを高めるために欠かせません。その理由を言語学の観点から解説します。
 先生方はインプット活動を行うと、生徒の頭の中に知識がどんどん蓄積されていくイメージをお持ちでしょう。ところが実際には、漠然と聞いたり読んだりするだけでは、頭に知識として残らないのです。逆に、読んだり聞いたりしたことを使うアウトプット活動があると、生徒自身がインプットする内容に対して十分な注意を働かせ、理解しようとするので、「あ、英語ではそういう風に表現するんだ。その単語ってこういう時に使えるんだ。」などと知識の構築には重要な「気づき」の経験が起き、その内容は学習者の脳内に入り(インテイク)、既習事項と統合されます(統合化)。(図1参照)
 その知識をもとにアウトプットすることで、インプットから習得した内容は知識として強く残っていくのです。こうした良質なインプットとアウトプットが、英語4技能の向上には欠かせません。
 どうすれば生徒がインプットに対して注意を払うかというと、最も効果的なのはアウトプット活動を設定することです。インプットした後、その内容をもとに自分が話したり書いたりする活動があると、「この表現を使おう」などと注意しながら学び、知識の統合が起こりやすくなるのです。

document02

大量のインプットだけではアウトプットの力は高まらない

 1980年代大量の良質なインプットだけで英語能力は伸びるという仮説が提唱されました。カナダの学者メリル・スウェインはそれを受けて、何年にもわたり大量のインプットを続けた学習者を対象に言語能力の変化を研究しました。結果は仮説をサポートするものではなく、文法の正確性や社会言語能力(ポライトネス表現など)が欠けていることを発見しました。この研究結果を通じ、第二言語習得にはインプットが必要だが、それだけでは不十分で、アウトプットなしに英語力は伸びないと結論づけています。
 アウトプットを通して、なぜ文法力などが高まるのかというと、自分で表現を組み立てる必要があるからです。リスニングやリーディングでは、文法の理解が不正確でも単語の意味さえ分かれば、おおよそ理解できます。ところが、話したり書いたりする場合は、あいまいな理解のままでは正確に表現できません。
 「この文法の使い方で合っているだろうか」「もっと適切な表現があるかもしれない」などと考える経験を通して表現や文法の不足に気づくと、文法書を確認するなどして学び直し、知識は深まっていきます。それ以降のインプット活動でも、アウトプットをより意識して学習するようになるでしょう。
 実際に英語でコミュニケーションをする場面では、相手に理解してもらうために知識を総動員して伝えようとします。そうした努力を重ねることも、言語能力の発達につながると、スウェインは指摘しています。

コミュニケーション力の向上には良質なフィードバックが不可欠

 さらにインプットだけの学習では、自分の誤りや思い込みに気づけないことがよくあります。文法的には正しくても、実際のコミュニケーションでは不適切というケースもあるものです。アウトプットの場面があると、相手に通じなかったり、「この表現のほうが適切だよ」などと指摘されたりして既存の知識を修正する機会が生まれます。一例を挙げると、日本人の理解と英語ネイティブの間にズレが多いのが、受動態の表現です。ネイティブの間では、「行為した人が明確ではない、または明確にする必要がない場合(“The building was built in 1960.”など)」「主語が長い場合」などに受動態を使いますが、それ以外は能動態で表現するほうが自然です。ところが、日本人は“The window was opened by him.”といった表現を多用しがちで、これは、文法的に間違いではありませんが、“He opened the window.”の方が自然な表現です。こうしたズレは実際に英語を使い、フィードバックを受けないと、なかなか気づきません。ポライトネス表現が適切かどうかも相手との関係性によりますから、実際にアウトプットして修正していく必要があるのです。

コミュニケーション力の向上には知識を瞬時に使える力も不可欠

 スピーキング活動を通して養われる力として、既習の知識が瞬時に使えるようになることも重要です。英語の学習中は、単語や文法の知識を十分に持っていても、即座に正しい表現が出てこないことがよくあります。これは、その知識が頭に「宣言的知識」つまりある程度説明できる知識(知っている知識)として納められている状態で、まだ「手続き的知識」つまり考えずとも使える知識、となっていないからです。
 宣言的知識を自動的、瞬間的に引き出すためには、スピーキングのトレーニングを繰り返し、手続き的知識に変える(自動化する)必要があります。トレーニングを積むほど、自動化は進んでいきます。(図2参照)

document02

英語4技能を伸ばす学習活動をいかに授業に取り入れるか

アウトプット活動では、言語化して表現するプロセスが重要

次に、スピーキング活動を中心に、効果的なアウトプット活動の取り入れ方を説明します。
 現状、スピーキング活動として、音読やシャドーイング、穴埋めを取り入れる学校が多いようです。これらの学習活動にはそれぞれ意味がありますが、ここまで述べてきたインプットとアウトプットをつなぐ学習効果はあまり期待できません。
 アウトプット活動で特に大切なのは、文章を読み上げたりリピートしたりすることではなく、自分が言いたいことを言語化して表現するプロセスです。アウトプット(スピーキング)のプロセスは次の3つに分解できます。(図3参照)

document02

学習活動でも、インプット内容をもとに、伝えたいことを考え、単語や文法を使って言語化し、それを発話するというプロセスを意識してください。その過程でスピーキング力が高まるほか、インプット内容がより吸収されたり、既存の知識が修正されたりして4技能の向上につながっていきます。
そのため、リテリングやリプロダクションは効果的と言えるでしょう。
 こうしたスピーキング活動を行う上では、一定のインプットがあることが望ましいのですが、知識の完全な定着を待たないと活動が成り立たないわけではありません。最も大切なのは、習った知識を使って正しく表現させることではなく、自分の考えを表現する過程で熟考したり悩んだりさせることだからです。その過程でインプット内容を再確認したり、既習事項を使って何とか伝えようとしたりすることで様々な技能に結び付いていきます。
 生徒の英語力が低い場合、スピーキング活動が難しいと考えるケースもあるようですが、それもあまり関係ありません。「昨日は何をしたか」など簡単な投げかけから始まるやり取りも、効果的なアウトプット活動になり得るからです。生徒の英語力のレベルに合わせて、あえて「答えに詰まる質問」を設定して思考を促してください。 そこに知識構築に必要な「気づき」が生まれてきます。

document02

あいまいさへの許容力を養う「森から木へ」の学習法

 4技能向上につなげる学習活動としては、あいまいさへの許容力を養う活動も大切です(和泉 2016参照)。従来の日本の英語学習は、細部から全体を理解していく、いわば「木から森へ(ボトムアップ)」の学習が主流でした。最初に単語を学習して一つずつセンテンスを理解しながら全体像を把握するという順序です。しかし、実際のコミュニケーションでは、分からない単語や表現は必ず出てきます。そのたびにストップしていてはコミュニケーションが成立しませんし、細かい内容にばかり目が向いて全体像がつかめないことにもなりかねません。そこで、最初に全体をイメージすることを優先する「森から木へ(ボトムダウン)」の学習を意識して取り入れてほしいと思います。
 「森から木へ」のリスニング学習を以下に例示します。

document02

 最初は、あいまいな理解のまま進めるのは、すっきりしない気持ちがつきまといます。先生は活動を通して、「全体として何を伝えているかを考えて」「分からない単語があってもいいよ」など、生徒が「森から木へ」の意識を持てるような言葉をかけて学習を支えてください。
 難関大学の入試問題などでは、精読力も必要だという意見もあるかもしれません。それも大切な英語力の1つですが、そうした学習を行う際もゴールとしてアウトプット活動を設定すると、インプットの質が高まることを意識してほしいと思います。

アウトプット活動の充実化に、「GTEC」をいかに活用するか

生徒の言語能力の変化を捉えて適切なレベルの活動を設定する

 良質なインプットやアウトプットの活動を設定するためには、生徒集団の英語力のレベルを正確に把握しなくてはなりません。生徒のレベルに合わない活動を設定すると、いつまでも英語力は高まりません。「GTEC」では、スピーキングを含めた4技能のスキルが連続的なスコアで測定でき、CEFRともリンクしていますから、次に必要な活動や教材を検討する材料となるでしょう。
 例えば、CEFRがA2レベルまでの生徒には、日常や個人に関わる事柄など生徒と直接的にかかわるテーマが適切でしょう。そこからBレベルに引き上げるためには、社会的なテーマやより分量の多い教材を扱うなど難度を高めていきます。
 スピーキング力を測定しない場合、スピーキング教材のレベルを適切に設定できず、アウトプット活動の効果が十分に高まらないため、結果的に4技能が高まりづらくなる状況も考えられます。これまで述べてきたように4技能はそれぞれリンクしながら伸びていきますから、4技能の全てのスキルを測定すると、より効果的な学習につなげやすいでしょう。定期的な英語力の測定により、生徒の言語能力の変化を連続的に捉え、つねに適切なレベルの活動を設定して、学習効果を最大限に高めていただきたいと思います。

document02