GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.128

インプットとアウトプットを両立させた指導で、
大学入試に対応し、実用性も高い英語力を育成

長崎県立長崎西高等学校

長崎県立長崎西高等学校

 1948(昭和23)年に開校。校訓として「自律」を掲げる。旧帝大を始めとする最難関国立大学に毎年多くの合格者を出している県内屈指の進学校。グローバル社会で活躍できる人材育成を重視し、その一環として2005年度からSSHの指定を受けている。生徒間で数学をテーマにした議論を行う「発展数学ゼミ」、実験や観察から得られたデータ処理を行う「理科と情報」など、文系の生徒が参加するSSHのミッションも積極的に設定し、全生徒の論理的思考力に力を入れている。
また、文武両道を尊ぶ伝統があり、生徒の部活動加入率は9割以上に及ぶ。

基本情報
公立、共学、普通科
規模
1学年約280名
主な進路状況
国公立大は、東京大10名、京都大4名、大阪大7名、九州大37名、熊本大25名、長崎大77名をはじめ250名が合格(2019年度入試、現浪計)

取り組みのポイント

  • 生徒が表現や文法事項などを適切に理解できるよう、インプット・インテイクを徹底。
  • その上で、MatchingやDictoglossなどのアウトプット活動に力を入れ、インプットした知識の定着を図る。
  • 1年次は意見交換等、2年次の中盤まではPresentation、2年次後半からは相手の主張に応じて自分の考えを述べる必要があるDiscussion・Debate、3年次にはパラフレーズのスキルが欠かせないRetellingと、生徒の習熟度に応じて段階的にアウトプット活動を設計。

取り組みの背景

 長崎県立長崎西高等学校では、生徒の英語4技能を総合的に向上させるべく、インプットとアウトプットを有機的に関連づけた授業づくりを推進している。指導改善を推進してきた英語科の石橋周一郞先生は、そのねらいを次のように語る。
 「近年の国公立大学の個別学力検査などでは自由英作文が重視され、文法や語彙などを身につけるだけではなく、それらを適切に組み合わせ、自然な英文を書く力が求められています。本校の生徒は、自然な英文というよりは、自分の知っている表現をコロケーションを気にせず書く傾向があることに気づきました。
自然な英語がアウトプットできるようになるには、教科書の英文を読むことで得た表現を活用する練習が鍵となりますが、表現のインプットがないと不正確な表現が多くなりすぎるアウトプット活動になってしまう可能性があります。そこで、本校の授業においては、読む・聞く活動を通して正確な知識を習得させた上で、話す・書く活動を繰り返すことを大切にしています」
 同校の指導は着実に実を結んでおり、「GTEC」に加え進研模試においても、着実に英語力の伸びを示している。

取り組みの詳細

授業の前半ではインプット・インテイクに重点を置き、生徒の論理的な認知を深める

 「コミュニケーション英語」、「英語表現」ともに予習を必須とし、授業で活用するワークシートの問題を解いてくるよう伝えている。
 「コミュニケーション英語」の指導を見ていく。ワークシートは教科書の英文のセクションごとに作成され、セクションの内容についてのQ&Aやセクションのサマリーの空所補充といった予習用問題、授業で実施するタスクなどから成る(資料1)。
 授業の前半で力を入れるのは、英文の内容理解だ。教師が生徒を指名して予習問題(英問英答中心)の答えを発表させ、表現や文法事項のポイントなどを解説するとともに、適宜、生徒同士が英文の内容について意見交換なども取り入れている。さらに、そうしてインプットした知識をインテイクの段階に発展させるため、OverlappingやShadowing、Read and Look up、Memorize Sentenceなども行う。
 「英文に関する写真が教科書に取り上げられていれば、Describing a pictureのペアワークをさせるなど、レッスンの内容に応じた複数のタスクを設定しています。言語学の研究では、10歳以降、明示的な知識を理解し、運用するのに必要な『認知能力』を身につけるようになり、意味や内容を理解した言語材料をインプットしたのちアウトプット活動を行う方が、言語を習得しやすいと考えられています。そこで、まずは知識のインプットやインテイクに重点を置きますが、そうした中でも、生徒が受け身にならないよう、ペアやグループによる英語での話し合いなどを通して英語を話す活動を必ず織り交ぜています」(石橋先生)

授業の後半には話す・書くアウトプット活動を位置づけ教科書の表現や文法事項の定着を促進

 毎回の授業の後半には、インプット・インテイクした表現や文法事項を活用させ、定着させるべく、2つの活動を中心としたアウトプットのペアワークに力を入れる。
 1つめは、Matchingだ。具体的には、授業で学習した新出の文法事項を含む様々な英文とそれらの日本語訳を書いたプリントを配布した上で(資料2)、①一方の生徒が日本語訳を言い、②もう一方の生徒がプリントを見ずにそれを英訳。ペアの中で役割を換えて①②を繰り返し行う。
 「Matchingでは、『have to do』と『need to do』のニュアンスの違いなどを説明したうえで、教科書で扱われていて、コミュニケーションでも使えるような表現や文法事項に関連した英文を中心にアウトプットをさせています。繰り返し取り組む中で、日本語から英語への変換が促進され、意識していなくてもとっさに口から出るようになります」(石橋先生)
 2つめは、セクションのサマリーのCDを聞きながら内容語だけをメモし、自分の表現でサマリーを書き直すDictoglossだ(資料3)。書き直した英文はペアで見せ合った後、教師が回収し、チェックをして生徒に返却する。
 「Matching、Dictoglossともに、生徒同士で誤りを指摘し合う姿が見られます。またDictoglossで生徒が書いた英文に、定冠詞・不定冠詞の使い分けなど、多くの生徒に参考にしてほしい誤りがあれば、教師が必ず授業で取り上げ、解説しています。自分の誤りに気づき、それを修正する中で、生徒は表現や文法事項への理解をより深めていきます」(石橋先生)
 さらに、生徒の英文法や構文への気づきを促すために、Grammaringという機能語が省略され内容語のみが並べられたものをペアワークで一つの英文にしていく活動を行う(資料4) 。
 「ペアで協力して英文を作っていくことで、生徒は教師の話を聞くだけよりも、より思考し、『気づき』を形成していくので、会話で使われるような構文事項も自然に定着していきます」(石橋先生)

アウトプット活動を充実させられるような表現を扱った副教材を作成

 「英語表現」の授業でも、インプット→インテイク→アウトプットという流れを重視し、Read and Look upやMemorize Sentence、Matching、Dictogloss、Grammaringなどの活動を毎回行う。教材としては、教科書に加えて、教科書に対応した例文集やワークシート、教科書の英文の詳細な解説などから成る学校独自のテキストを用いる。そのねらいを、石橋先生は次のように述べる。
 「『英語表現』の教科書や学校採用の例文集の副教材には解説がないものが多く、それだけでは十分なインテイクが行われない可能性あります。そこで、正確な知識をインプット・インテイクした上で、それを定着させるアウトプット活動に取り組めるよう、副教材を作成しました。本校が大切にしているのは、あくまでもインプットとアウトプットの両方なのです」

生徒の習熟度に応じ、段階的にアウトプット活動を構成

 「コミュニケーション英語」、「英語表現」ともに、毎回の授業で実施するアウトプット活動に加え、より大規模なアウトプット活動も定期的に設定している。例えば、1年次における「英語表現」の最後の授業では、生徒一人ひとりが英語で台本を作成し、Skitを行った(資料5)。生徒が楽しんで取り組めるよう内容は自由としたが、例文集に載っている英文を1つ以上用いて台本を書くよう伝えた。また、2年次の「コミュニケーション英語」のレッスン9では、電柱や電線、看板などから都市の景観について考察する英文を授業で扱った。そこで、そのレッスンの最後の授業では、長崎市の景観をよりよくするための方策をテーマに生徒同士がDiscussionに取り組んだ。そうした取り組みのねらいを、石橋先生はこう述べる。
 「1年次には、作成した原稿や台本を参照できるPresentationやSkitを中心とし、2年次には、相手の主張に応じて自分の考えを述べる必要があるDiscussionやDebateを取り入れています。そして、3年次には、高いパラフレーズのスキルが欠かせないRetellingを実施します。既習の表現や文法事項、語彙などを総合的に活用し、振り返りを行う機会にできるよう、生徒の習熟度に応じて段階的により規模の大きいアウトプット活動を構成しています」

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石橋 周一郎先生

取り組みの成果と今後に向けて

 一連の授業づくりの成果は、生徒の姿に表れている。英語の学習にさらに前向きに取り組むようになり、学校外のスピーチコンテストやディベート大会などに挑戦する生徒も増えた。そうした意欲は英語力の向上に結実し、指導の成果検証として全学年で実施している「GTEC」でも、4技能のスコアが伸びている。加えて、進研模試でも偏差値が伸びる結果となった。
 「2019年度の2年次では、Matchingを実施していない時期がありましたが、その時期に受検した「GTEC」ではスピーキングのスコアが低下しました。授業で行っているアウトプット活動とスコアの相関があることが客観的に把握でき、Matchingを再開するよい契機になりました」(石橋先生)
 同校では、今後も英語の指導改善を継続し、さらに発展させていく考えだ。
 「国際社会で活躍するためには、何も準備をしていなくても、適切な英語で自分の考えを述べられる資質・能力が求められます。インプットとアウトプットを両立させた本校の指導は、そうした実用性の高い英語力とともに、大学入試に対応した英語力も育めると考えています。今後も、指導をブラッシュアップさせていきたいと考えています」(石橋先生)

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【資料1】 「コミュニケーション英語Ⅱ」のワークシート

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【資料2】 Matching Sheet

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【資料3】 Dictogloss Sheet

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【資料4】 Grammaring Sheet

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【資料5】 Skit Sheet