GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.118

難関大個別試験への対応力の育成と4技能統合型の授業の両立

大阪府立北野高等学校

大阪府立北野高等学校

1873(明治6)年に創立、145年目を迎える伝統校。文武両道を重んじ、逞しい精神として校歌に謳われる「六稜魂」を培う。2年次進級時に進路希望に合わせて、「文科」と「理科」の各小学科に分かれる。「文科」及び「理科」では、それぞれ3年間で25単位以上の専門科目を学習。
文部科学省から「スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)」、 大阪府から「グローバル・リーダーズ・ハイスクール(GLHS)」の指定を受け、全校を挙げて、グローバル時代のリーダーにふさわしい資質・能力・態度の育成に力を注いでいる。

基本情報
公立、共学校、文理学科
生徒数
25クラス 1,000名
主な進路実績
国公立大は東京大7名、京都大84名、大阪大79名、神戸大26名をはじめ295名(2018年度入試、現浪込)

取り組みのポイント

  • 難解な長文読解、英作文指導から、教科書を中心としたアウトプット型授業へと転換
  • 生徒の学力・学習観の変容に応じた、3年間を通した技能統合型の授業を実践
  • 2020年の大学入試改革を見据え、進路指導・英語指導の両面から「GTEC」を活用

    取り組みの背景

    全国屈指の進学校である大阪府立北野高等学校は、京都大学をはじめとして最難関大の個別試験に対応する力の育成が求められるため、難読な英文の訳文、講義形式での文法解説など、いわゆる受験突破のための指導を中心に行ってきた。しかし、2014年から大阪府教育委員会の取り組みであるSET(スーパーイングリッシュティーチャー※1)の派遣やTOEFL iBT®対策指導の導入などをきっかけの1つとして、アウトプット活動を重視した英語の授業に切り替えることを決めた。その頃の思いを、英語科の松山知紘先生は次のように語る。「授業の中で音読は行っていましたが、自由に発話したり課題意識を育てたりするアクティブ・ラーニングは行えていませんでした。学習指導要領が変わり、新科目『コミュニケーション英語』が設けられたタイミングでもあったので、アウトプット活動を盛り込めないかと考えていた頃、林裕子先生と学年を組むことになったのです」
     また、前任校の高校が「イングリッシュ・フロンティア・ハイスクール」に指定され、3年間アウトプット活動に取り組んできた英語科の林先生は、「松山先生に声をかけられたことはうれしかったですが、まさか北野高校でアウトプット重視の英語指導ができるとは思いもよりませんでした」と、赴任当初の驚きを振り返る。
    (※1)スーパーイングリッシュティーチャー(SET)
    大阪府立高等学校教員として、TOEFL iBT® を活用した英語の授業を担当し、英語教育の指導方法・教材の開発、カリキュラムの改善及び、他の英語教諭の能力を高め同教育を担う人材の育成にあたる教員を指す(2014~2017年の取り組み)。

    取り組みの詳細

    教科書を最大限活用した技能統合型の授業を実践(ディクトグロス+サマリーリテリング)

     同校の指導をみていく。
    教科書の各レッスンのサマリーを使ってアウトプットを行う「ディクトグロス(dictogloss)+サマリーリテリング」という指導法を導入した(資料1,2,3)。ディクトグロスは、まとまりのある文章を聞いて短いメモを取り、そのメモをもとに文章を復元するという一連の活動だ。ステップとしては、教科書のレッスンの要約を3回読みあげる。生徒がそれを聞き取り、聞き取れた単語をメモする。その後、まずは個人でメモをもとに要約を復元。それから4人グループになり、それぞれの要約をつなぎ合わせて、よりよい要約を完成させる。この文章の復元活動の際に、推察したり、辞書を使ったりしながら主体的に英文を作成していくので、文法力・語彙力が非常に伸びるという。
    また、文章を復元させた後、模範解答を色々な方法で何度も音読させる。これにより、キーワードをもとに自分の力でサマリーリテリングができるようになる。アウトプットをしながら、教科書で習った文法表現を定着させられるのだ。
    ディクトグロスの活動を続けることにより、教科書を使う時間は必然的に増加した。以前は、1レッスンに4時間ほどを充てていたが、今では6〜7時間をかける。それまでは、2年次の秋頃には長文読解演習にシフトする授業を始めることが多かったが、指導を転換してからは2年次12月まで教科書をフルに活用する授業が続いた。
    「ディクトグロスを導入した1年目は、活動を丁寧に行いすぎて教科書が終わらないという課題に直面しました。そこで、青森県立田名部高等学校のメソッドを参考にしながら、アウトプット活動に向いている題材かどうかで軽重をつけ授業進度を調整しながら進めることにしたのです」(林先生)

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    【資料1】ディクトグロス

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    【資料2】 ディクトグロス

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    【資料3】 ディクトグロス

    大学受験指導と技能統合型の授業の両立を図るベーストークの取り組み

     3年次からは、福岡女学院中学校・高等学校の坂本先生が始められた活動であるベーストーク(BACE Talk)を取り入れた(資料4、5)。北野高校が従来行ってきたような長文の読解問題に取り組ませた後に、今度はその長文と似たようなテーマでベーストークを行った。例えば、教科書でDNA鑑定のテーマを取り上げているタイミングであれば、「DNA鑑定の是非」について話し合いをさせる。この活動の目標は、英語長文読解を通じて、自分の意見を育み、それを英語でアウトプットできるようにすることだ。
    ベーストークは、アスカー(相づちを打つ人)・スピーカー(話す人)・カウンター(発話語数を数える人)の3人1組でグループになって行う。スピーキングをする際には「ミスを気にせず、どんどん発話しなさい」と伝える。グループの中で役割を変えていくため、他の生徒が話すのを聞きながら、「この理由は説得力がある」あるいは「この表現はまねよう」など学ぶことができる。3回繰り返す中で、完成度のかなり高いスピーキングができるようになるという。50秒間×3回スピーキング活動をさせた後に、80~100字のエッセイ・ライティングを10分間で完成させる。こうした技能統合的な活動により、生徒に確実な力を育んでいくのだ。
    「生徒は入試への意識が強いので、スピーキング活動だけだと、取り組みに意味を見い出せない可能性がありました。ただ、この活動はライティングがあることが大きな利点です。『自由英作文を出題する大学が増えているから良いトレーニングになる』『限られた時間で、きちんとした構成ができるようになることも自由英作文に取り組む時に必要になる』と伝えたことで生徒は積極的にこの活動に取り組んでくれました」(松山先生)

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    【資料4】 BACE Talk

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    【資料5】 BACE Talk(Phrase hunt)

    多面的・論理的な思考を養うディベートの取り組み

     ベーストークを重ねていると、複数の生徒から「ディベートをしてみたい」という声が上がり始めた。そこで、大阪府立鳳高等学校の溝畑先生からアイデアをいただいて、松山先生と林先生は、3年次の9月と11月、30分弱の即興型のミニディベートを行うことにした(資料6)。
     このディベートは、肯定側・否定側各2人の計4人で行い、MC役を1人、ジャッジ役を3人置く。ディベートのお題はその場で発表し、15分間で自分たちの論を作成する。まず、肯定側・否定側がそれぞれ1分ずつ主張をする。その後、相手の主張や理由、具体例などに突っ込んでいくためのQ&Aと最終準備を3分で行う。その後肯定側・否定側が1分半ずつ相手チームへ反論し自分たちの主張をまとめる。ジャッジ役は「ポイント:主張がわかりやすいか」「理由・具体例:例やデータを用いて、説得力のある説明をしているか」「時間:与えられた時間内でしゃべり続けられたか」といった観点から評価を行う。
    9月に開催した1回目のディベートのテーマは、「受験生に彼氏・彼女は必要か」、2回目は、「コンビニの24時間営業は賛成か反対か」とした。
     「彼氏・彼女のテーマは盛り上がりましたが、自分の話や想いを主張するばかりになってしまい、ディベートの形にまでなりきっていないように感じました。そこで、2回目はディベートの協会が公開していた比較的説得力ある論理構成をつくりやすいテーマに設定しました」(松山先生)
     「一番課題となったのは、Q&Aでした。自分たちの主張もあやふやで揺れ動いている中、即興で相手の主張のポイントをつかんで弱点をついていくのは、高校生にとっては高等技術です。初回は、Q&Aの時間があまり盛り上がらず、反省しました」(林先生)
     ディベートが終わると、ベーストーク同様ディベートのテーマに関して80~100字のエッセイ・ライティングを行った。「自分たちが考えなかったような主張を相手が出してくるのが面白かった」「ジャッジから、予想外の意見が出てきた」といった感想が聞かれたため、多様な人の意見を踏まえていくことで、より論理構成力がつくのではないかと考えたので、賛成・反対どちらの側で書いても良いことにした。
     3年次の後半は、例年通り大学入試に向けた問題演習を続けた。しかし、その中でも、問題を解きながらペアになって話し合うなど、対話的に学び合う雰囲気は継続していった。そうしたアウトプット活動の積み重ねにより、英語への苦手意識を抱く生徒が、例年よりも少なくなったという。

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    【資料6】 ディベート

    取り組みの成果と今後に向けて

    この学年は、1〜3年次まで連続してアウトプット活動に力を入れたことで、例年の3年生と比べ、自由英作文への抵抗感が少なく、評価を得られるような文章を書ける生徒が増えたという。さらにスタディーサポートの結果では、上位層だけでなく中位層以下の生徒が3年間を通して順調に学力を伸ばせるようになってきた。
     「2年次の『スタディーサポート』の結果が戻ってきた時に、ベネッセの担当者から『御校は、圧倒的に英作文が強いですね』とコメントをもらいました。英作文対策の時間を特別に設けたわけではなかったのですが、アウトプット活動を続けた結果、自由英作文の力がついていったのだと思い至り、指導への手応えを感じました」(林先生)「継続的なアクティブ・ラーニングの中で、入試を突破できる学力は確実に身につけられるのだということを実感することができました」(松山先生)アウトプット活動を取り入れるにあたって、難読な英文の訳文や入試問題演習を減らしたことで懸念された“アウトプット重視の指導で読解力が下がる”ことはなく、むしろ外部模試やセンター試験等では前年を上回る結果になった。

     同校では、新たな取り組みとして1年次に「GTEC」の全員受検を決めた。2020年度からセンター試験に代わって導入される「大学入学共通テスト」では、同テストの英語と資格・検定試験の成績の両方の受験を求める国公立大学が多くなると推測される。そこで、進路指導部からの発案を受け、「GTEC」の導入を決めた。
    「学校での全員受検が可能なためデータを把握し、定点観測をしやすいのではないかと考えています。また、他の資格検定試験と比較して、受検料が手頃であることに加え、難易度や出題内容が学習指導要領に即しており、学校として取り入れやすいと感じました」(松山先生)
     その活用については今後さらに検討を進めていきたいと考えているという。
     「今後、「GTEC」をどのように英語科で活用していくか、有効な方法を考えていきます。授業内のアウトプット活動と「GTEC」の活用で、生徒の力をどう伸ばしていくことができるか試行錯誤を続けていきます」(林先生)

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    左から林裕子先生、松山知紘先生