GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

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Vol.120

特色作りのための「改革」と「徹底」 中学における英語4技能指導改善の取り組み

大阪桐蔭中学校・高等学校

大阪桐蔭中学校・高等学校

1983(昭和58)年、大阪産業大学高校大東校舎(普通コース・体育コース)として開校、1988年に大阪桐蔭高校として独立した。1995(平成7)年に大阪桐蔭中学校を併設。「偉大なる平凡人たれ」を建学の精神、「鼎立成りて碩量を育む」を教育理念とする。東京大・京都大、国公立大医学部合格を目指すⅠ類、難関国公立大を目指すⅡ類、体育・芸術分野で全国レベルのスキルを身につけるⅢ類の3コースがを設けている。2018年に野球部が選抜高校野球大会で史上初となる春夏2連覇の全国優勝を果たしたのをはじめ、ラグビー部やサッカー部、吹奏楽部などが全国で活躍している。

基本情報
私立、共学、普通科
規模
1学年753名
主な進路実績
国公立大は北海道大8名、東京大1名、東京工業大2名、横浜国立大1名、名古屋大2名、京都大51名、大阪大36名、神戸大42名、名古屋大2名、九州大3名、大阪府立大27名など313名(既卒生含む)

取り組みのポイント

  • 中高6ヵ年のうち、全技能の土台となる音声指導の重点を中学に置き、指導改革に着手。
  • Online Speaking Training(OST)を導入し、スピーキング活動の時間を確保。
  • 英語4技能指導の実践・意識付けのために、「GTEC」対策と銘打ち、普段の授業とは異なる角度からアプローチ。

取り組みの背景

 大阪桐蔭中学校・高等学校では、入試改革を見据えて英語の指導改善を推進している。中学校においては、7-8年前から先行して、多様なアウトプット活動を取り入れた指導に力を入れてきた。英語科主任である竹田佳代先生は、こう語る。
 「以前はインプット中心の授業をしていましたが、生徒が英語を楽しんで学んでいるという実感は少なかったように思います。そこで、もっと英語を好きになってほしいという思いから、少しずつでも授業の中にスピーキングを中心としたアウトプット活動を取り入れ始めました。成績上位層の生徒ほどスピーキングへの意欲が高いことも、指導改善に着手するきっかけとなりました」英語4技能がより重視される「大学入学共通テスト」への対応として、2017年度から更に指導改革を実行してきた。大阪桐蔭の強みである「文法・読解・英作・語彙指導」などは維持しながら、不足していたスピーキングやエッセイ・ライティングなどの実践的な指導の充実化を図った。具体的には、ベネッセのOnline Speaking Training(以下OST)を導入するとともに、「GTEC」を4技能で受検させることにした。
 「大学入学共通テストでは、大半の国公立大学が、同テストの英語と資格・検定試験の両方を受験するようになります。そこで、OSTを活用してスピーキング指導を強化し、4技能の伸びを「GTEC」によって客観的に把握できるよう、体制の整備を図りました」(竹田先生)

取り組みの詳細

中学を英語の全技能の土台を作る時期と定め音声指導を重点化

 中学校の授業で重視しているのが音声指導だ。シャドーイングはMP3 playerを使い、ネイティブの発音を片耳で聞きながら真似して話すと共に、もう片方の耳で自分の発音を聞き、ネイティブの発音と比べるスタイルで行っている。竹田先生は、発音の重要性を次のように強調する。
「英語力が伸び悩む生徒のほとんどが正しく英語が読めない・発音できない生徒です。正しい発音を身につけることは、英語の4技能を引き上げる土台づくりと考えています。実際、中学校で音声指導に力を入れるようになってから、中学においても、高校進学後においても模擬試験の成績が伸びる生徒が増えました」(竹田先生)
また「学んだ内容を楽しみながら定着させること」を目的とした表現活動にも力を入れている。竹田先生が中学2年生の授業で行っているのは、英語劇だ。クラスを5~6人ずつのグループに分け、教科書で扱われている物語をシーン別に異なるグループが演じる。この英語劇をはじめとして、竹田先生が授業で表現活動に取り組ませる際には、ペアワークよりグループワークで行うことが多いという。「ペアワークだと、クラスに数十ペアができるため教師の目が届かないうえ、すべてのペアが発表を行うことは時間的に不可能です。その点、グループワークの英語劇であれば、1時間で全グループが発表を行うので、取り組みの成果が確認しやすく効率的だと考えています」(竹田先生)
さらに、生徒主導のハロウィンパーティーの実施や、校内スピーチコンテストの実施、校外のスピーチコンテストへの参加なども積極的に行っている。英語学習の動機付けやアウトプット活動のきっかけづくりを大切にしている。
一方、文法や語彙の定着がおろそかにならないよう、インプット活動も重視している。文法については、中学校全学年の各学年末に「卒業検定」を行い、1年間の学習内容が身についたかどうかを測定する。語彙については、毎朝、単語テストを行っている。また、「週テスト」では、1週間分の単語をまとめて出題し、語彙の知識をストックさせている。

生徒の学習意欲を引き出すために定期考査の評価方法を工夫

 中学校では、定期考査の一環として年5回のスピーキングテストを行っている。10文程度の英文を暗唱し、教師の前で1人ずつ発表する。ただ、暗唱するのではなく、本文に載っていない英文を生徒自身が考えて加え、本文をアレンジして発表するのもこのテストの特徴だ。
「『スピーキングは大切です』と言いながら、学校の定期考査では筆記試験とリスニング試験しか行われていないことに違和感がありました。そこで、2014年より、スピーキングテストを中学1~3年生を対象に始めました。毎回のテスト結果に生徒たちは興味津々で、思わずガッツポーズの出る生徒も。スピーキング力も点数化された方がモチベーションが高まるものなのだと思いました」(竹田先生)
 また、テストの評価は、教師だけでなく保護者も行う。生徒が自宅で発表を行い、保護者は学校から渡された評価表に点数をつける。
「保護者の評価は成績には反映されませんが、子どもの成長を見てほしいという思いから、協力をお願いしています。保護者からも、『子どもの英語力が伸びているのが分かってうれしい』という喜びの声をいただいています」(竹田先生)

OSTを導入し、生徒一人ひとりがスピーキングに取り組む時間を確保

 同校では2017年9月から、大学入学共通テストを受験する先頭学年である中学3年生(現高校1年生)を対象にOSTを導入した。2018年度からは、中学3年生と高校1年生を対象に、週1回、年間30回のスケジュールで実施している。
「中学でOSTを導入したのは、一人ひとりが英語を話す時間を確保するためです。ALTが担当する英会話の授業では、生徒一人あたりのスピーキング時間は限られます。また、ALTからの質問に対して、日本語を用いたり、クラスメートに聞いたりして答える生徒も見られます。『自力で英語を話そう』という意識を、低学年次から育成したいと考えました。この意識付けは、早ければ早い方が良いと考えているため、今後は、中学1・2年生に対しても導入を検討していきます」(竹田先生)
高校1年生を対象に実施したのも、新入試を見据え、スピーキング力の強化を目指すためだ。高校では読解や英作文の指導などの比重を高めざるを得ないため、OSTの英会話練習によって、生徒のスピーキング力の向上と維持を期待している。
OSTの授業は、英語科以外の教員も担当している。「英語科だけで新入試に対応するのは正直、辛く、他教科の先生方にもご協力いただくことがあります。OSTの現場を見た先生方はいずれも、新入試に向けた4技能指導の大変さについて理解を深め、共感してくださいます。日々指導法を模索している私たちとしては、有難い限りです」と竹田先生は顔をほころばせる。

「GTEC」対策を新たな英語指導の機会だと捉えリーディングとライティングを中心に実践

 同校では以前から、学習への意識づけや学力伸長の検証のため、「GTEC」を活用してきた。現在は、中学2・3年生と高校1・2年生を対象に行っており、中学生、高校生ともに年2回受検している。2018年度からは「GTEC」 SPEAKING TEST(以下、SP)を加えた4技能での受検とした。
期末考査後から長期休業期間までの約1週間、英語の授業で「GTEC」対策を行う。中心となるのは、「GTEC」の付属学習教材「STEP UPノート」を活用した指導と同校独自のエッセイ・ライティング指導だ。リーディングではスキャニングのスキルを教えるほか、「GTEC」で頻出の単語をリスト化して暗記させている。ライティング指導には特に力を入れ、エッセイ・ライティングの書き方の基本やディスコースマーカーに注意した論理展開、各段落の構成を繰り返し指導する。「GTEC」受検までに、約4題のエッセイ・ライティングに取り組ませる。1・2題目は、同校オリジナルのエッセイ・ライティングマニュアルを見ながら書くことが許されるが、3・4題目になると徐々に何も参照せずに取り組ませていくという。もちろん、添削指導も一人一人に丁寧に行う。
「「GTEC」対策と銘打っていますが、本当の目的は、単なる検定対策ではなく、普段の授業とは違う角度で英語指導を行うことです。普段の授業では教科書を用いた学習になりますから、速読やスキャニングの練習はあまりできません。ライティングについても、短い英作文の練習はできても、エッセイ・ライティングの練習の機会はありません。本校は「GTEC」を導入したことで、それまで教員が後回しにしてきた英語指導と向き合うことが出来るようになったと思います。また、この「GTEC」対策期間は、教員も生徒も新たなモチベーションで授業を行えますから、教員にとっても生徒にとっても新たな成長が期待できるチャンスとも捉えています」(竹田先生)
「GTEC」の受検後は、成績優秀者一覧を校内に貼り出して発表する。校内の定期考査の成績優秀者とは違う顔ぶれが並ぶことも多く、生徒が自信を取り戻し、意欲的に英語学習に取り組むきっかけにもなっているという。
また、教員間では結果分析会を行い、学年を超えて指導法の情報交換を行っている。
「特にリーディングとライティングは学年によって差が出やすいので、平均スコアが低い学年があれば、改善に向けて指導法について話し合います」(竹田先生)

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お話を伺った英語科主任 竹田 佳代 先生

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取り組みの成果と今後に向けて

 アウトプット活動の成果は目に見えにくいものだが、生徒の英語学習に対する姿勢には明らかに変化が起きている。例えば校外のスピーチコンテストは任意参加だが、近年は生徒の応募数が増え、受賞者も年々増加している。「授業での活動や定期考査でのスピーキングテスト、OSTなどを通じて、スピーキングに対する抵抗感がなくなり、自信を得たせいではないか」と竹田先生は推測する。
 また「OSTで楽しくコミュニケーションをしたい」という理由から、授業や単語テストに力を入れる生徒が目立つ。実際に、授業で覚えたフレーズをOSTで使おうとする生徒も多い。
 「OSTは2017年度からの導入なので、取り組みの成果を示すデータはまだ出そろっていません。しかし、英語に対する生徒の意欲が高まっていることはもちろん、英語の学び方も変わってきていると実感できます」(竹田先生)
今後の課題として竹田先生が挙げるのが、高校における指導改善だ。中学校で取り組んでいるスピーキングなどのアウトプット活動を、高校でどれだけ取り入れていくかが悩みどころだという。
「生徒の志望大に応じて高校2・3年生にもOSTを導入することも検討しています」 (竹田先生)

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【中学2~高校1年生を対象にしたアンケート結果】

「GTEC」とOSTを体験した生徒たち(高校1年生)の声

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2017年度中学3年次から2年にわたりOSTを受講している生徒たち(現高校1年)に、OSTを通して英語学習への意識にどのような変化があったか、英語力の伸長実感についてなどを伺った。

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