GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.122

ゲームをスピーキング活動のツールとして活用し、生徒に英語によるコミュニケーションの魅力を伝える

福岡県立八女工業高等学校

福岡県立八女工業高等学校

1920(大正9)年設立の、歴史と伝統に培われた工業高校。電子機械科・自動車科・電気科・情報技術科・土木科・工業化学科の6学科を備え、「誠実・勤勉・協調」を校訓に、産業界や地域社会の期待に応える人材を育成する。ものづくり教育に重点を置き、ロボット競技やエコデンレースなどの分野では、全国大会出場常連校として知られる。資格取得にも力を入れており、ジュニアマイスター称号取得者の人数は全国有数を誇っている。

基本情報
公立、共学、電子機械科・自動車科・電気科・情報技術科・土木科・工業化学科
規模
1学年240名
主な進路実績
毎年8割以上の生徒が一般企業への就職や公務員として社会に出ている。進学実績として、国公立大は、佐賀大、山口東京理科大の2名が合格。私立大は、福岡工業大、久留米工業大などに延べ9名が合格(2018年度入試)

取り組みのポイント

  • カードゲームに取り組みながらの英会話で、スピーキングに対する自信を育む。
  • パフォーマンステストを取り入れ、スピーキング活動の成果を測る。
  • 長期休みのライティング課題を通じて、発信力や創造性を伸ばす。

取り組みの背景

 福岡県立八女工業高等学校では、生徒の英語によるアウトプット力の育成に力を入れている。英語科の堤健太郎先生は、そうした取り組みの中心を担う教師の1人だ。
 堤先生も、同校に赴任した当初は、文法事項の習得や長文読解を重視した、インプット中心の指導を行っていたが、学習内容の定着に課題がある生徒も少なくなかった。そこで、社会人大学院で教授法を学んだり、企業が求める人材を探ったりして、同校の生徒の実態に応じた指導を模索した。そうした中で、スピーキングを中心とした発信力伸長のための指導を大幅に増やすという、現在の指導を形づくっていったという。「卒業生へのヒアリングなどから、企業が求めているのは、海外研修などの際、つたなくても英語で自己発信できる人材だということが見えてきました。そこで、生徒の興味を引きつけられるよう、楽しく手軽に取り組めるスピーキング活動を中心に、アウトプット活動を充実させていくことにしました。また、『大学入学共通テスト』や次期学習指導要領でも、英語による発信力がより重視されています。スピーキングを重視した指導改善の推進は、進学を志望する生徒への支援にもなると考えました」

取り組みの詳細

ゲームを活用したスピーキング活動を取り入れ、生徒が「話す」を楽しむことができる場を設定

  同校の英語の指導を見ていく。
 毎回の授業には、生徒がグループに分かれ、互いの心理を探り合うカードゲームを英語で行う時間を、10分間ほど設けている(資料1)。
 「話す目的や場面に必然性がないと、生徒を前向きにするのは難しいと思います。心理的なゲームであれば、スピーキングの場面設定として無理がないと考えました。また、生徒が取り組みやすくなるよう、ゲームに出てくる語彙や定型フレーズなどをまとめたプリントを作成・配布しました。ルールを覚えて何回も繰り返すうちに、生徒は定型のフレーズを抵抗なく口にできるようになり、リスニング力にも自信をつけていくと感じています」(堤先生)
 ゲームを続けている中で、授業中に学んだ文法事項をゲーム中の会話に取り入れようとする生徒が目立つ。例えば、助動詞を学んだ後には、「must」を用いた“You must be a liar”というフレーズをゲームで話す生徒が少なくないという。
 「授業でインプットした知識を、ゲーム中のコミュニケーションでアウトプットできていると思います。今後は、取り入れるゲームを増やし、語彙やフレーズをさらに多くしていきたいと考えています」(堤先生)

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【資料1】 心理ゲーム、評価基準

パフォーマンステストを導入し、生徒の「話す」への意識づけに力を入れる

 英語科では、1年次の各学期でスピーキングのパフォーマンステストを行っている(資料2,3)。
 「本校における1年次の英語の授業時間数は週3時間と少なく、授業中には、スピーキング活動にまとまった時間を充てるのが難しいのが現状です。そこで、定期的にパフォーマンステストを取り入れました。また、生徒の負担が大きくなり過ぎないよう、パフォーマンステストの導入に伴い、1・2学期の中間考査は行わないことにしました」
 生徒のスピーキングへの意識づけを図るため、成績評価におけるパフォーマンステストの割合はほぼ5割と、高く設定されている。テストの内容は学期によって、スピーチやインタビューなど異なるものが設定されている。ここでは、1学期と3学期のテスト内容について紹介する。
 1学期は、教科書のレッスンで学んだ「日本の象徴・富士山」という英文にちなみ、「富士山以外で、日本の象徴として外国人に紹介したいもの」というテーマで一人ひとりが30秒以上のスピーチをする。教師は全員分のスピーチを撮影し、その動画・音声とスピーチ原稿を見て成績評価を行う。1学科約40人を習熟度別に2クラスに分けており、1クラスの人数は約20人となるが、1回の授業(50分間)で全員がスピーチを終えることができたという。採点の評価基準としては、『主張とその理由づけがはっきりしていること』『着眼点』『声の大きさ』などを設定し、授業で学んだ文法や慣用表現、語彙などを盛り込んだスピーチを高く評価することにしている。
 「2018年度の1年生からは、アニメや東京スカイツリー、うどんといった幅広いテーマが挙がりました。また、私は指導していないにもかかわらず、スピーチの中に発問を入れて、聞き手を意識した表現が見られました。また、聞き手も積極的に反応しており、とても驚きました」(堤先生)
 3学期は、サッカーの長友佑都選手に関する英文を教科書で学ぶため、「長友選手になりきってALTのインタビューに答える」という体裁にしている。教師が事前に10問の質問とモデルアンサーをプリントとして配布し、生徒は質問に対応するモデルアンサーを暗唱できるようにしておく。本番では、10問中3問をALTが質問し、生徒は覚えてきたアンサーを答える。
 「暗唱できれば合格としていますが、自分の言葉で言い換えるフレーズを入れ込んだり、インタビューというスタイルに則ってなめらかに受け答えできたりしたら、さらに加点しています」(堤先生)

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【資料2】 パフォーマンステスト(インタビューテスト)

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【資料3】 パフォーマンステスト(プレゼンテーション)

長期休業期間にはライティング課題を出し、生徒の英語力をバランスよく伸ばす

 授業時数が少ないこともあり、ライティングには、長期休業期間の課題を中心に取り組ませている(資料4)。英文日記や条件英作文を出したり、「GTEC」付属の学習教材「STEP UP ノート」に取り組むよう伝えたりすることが多い。例えば、2018年度の1年生における夏季休業期間の課題には、ストーリーの起承転結のうち、「起」「結」だけを示し、「承」「転」を自分で想像して書くという英作文を出した。すると、創造的なストーリーを書く生徒が目立ったという。
 「スピーキング活動に力を入れるようになってからは、長文をきちんと書ける生徒が増えていると感じます。生徒が興味を持てる題材を工夫すれば、スピーキングとの相乗効果でライティング力も伸ばせるという手応えがあります」

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【資料4】 夏休みのライティング課題

取り組みの成果と今後に向けて

 指導改善の成果は、学習意欲の向上として結実した。特にゲームを取り入れてからは、「ゲームでこんな発言をしたいけれど、英語でどう表現すればいいですか?」といった質問をする生徒が目立つようになった。
 そうした意欲的な姿勢は、英語力の向上にもつながっている。その1つが、「GTEC」のスコアだ。2017年度の1年生では、ライティングのスコアが非常に高かった。
 「まずはスピーキングに力を入れることで、ライティングも伸びてきた感触があります。発信力育成に踏み切ってよかった、と報われた思いです」(堤先生)
 大きく実を結びつつある同校の指導改善だが、今後はさらなる発展を目指す。現在は、ペーパーテストではよくできるものの、人前でのスピーキングに課題がある生徒への指導を充実させていきたいと考えている。
 「同じフレーズを反復させるペアワークや少人数のグループワークなどを通じて、生徒の『話す』への抵抗感は、着実に少なくなっています。今後もそうした取り組みを積み重ね、生徒の発信力を伸ばしていきたいと考えています」(堤先生)

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(堤先生)