GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.129

アウトプット活動と評価を繰り返す指導で、
4技能を総合的に育成

宮城県白石高等学校

宮城県白石高等学校

 1899(明治32)年創立の刈田中学講習会を前身とする旧・白石高校と、1911(明治44)年創立の白石町立白石実家高等女学校を前身とする旧・白石女子高校が、2010(平成22)年に統合して誕生。「21世紀の社会を担う人材の育成」を学校教育目標に据え、将来、社会の課題改善に貢献できる人材の育成を目指している。
2018年度1年次から、ICTを活用した学習支援ツールを導入。生徒のスマートフォンやタブレットを利用して弱点強化のための動画教材の視聴、学習記録やポートフォリオなど自学自習を支援する体制を整えた。

基本情報
基本情報:公立、共学、普通科・看護科・専攻科看護科
規模
1学年約280名(専攻科看護科を除く)
主な進路状況
国公立大は、東北大、岩手大、山形大、福島大、宮城大をはじめ63名が合格(2019年度入試、現浪計)

取り組みのポイント

  • 2018年度1年次から「TANABU Model」をベースにした4技能中心の授業に転換。
  • パートごとにパフォーマンス評価を行いスピーキングとライティングを強化。
  • リーディング力向上のためのインプットの強化など細かくPDCAを回し指導を改善。

取り組みの背景

 宮城県白石高等学校の英語科では2018年度1年次より、従来の読解中心の授業から4技能を総合的に伸ばす授業に切り替えた。背景には、20年度入試から活用が予定されていた英語の民間の外部検定試験への対応がある。従来の文法の説明や読解などインプット中心の授業では、スピーキングやライティングに対応できないという危機感があった。
 ただし、きっかけは20年度入試への対応にあるものの、根底にはどんな入試になっても対応できる英語力、大学卒業後の社会で生かせるスキルを育成したいという思いがあると、英語科の西村吉史先生は語る。
 「大学受験のために英語の授業があるわけではありません。『将来、誰かをハッピーにするために使える英語を身につける』というコンセプトを、生徒と教師が共有して取り組んできました」
 4技能向上のための指導法を探していた時に出あったのが「TANABU Model」であった。青森県立田名部高等学校で開発されたメソッドで、すべてのレッスンをパターン化し、アウトプットとインプットを繰り返し4技能を総合的に伸ばす指導法である。
 「同モデルに着目したのは、教師皆で実践できるところです。突出した指導力のある先生がいても、伸びるのはそのクラスだけ。どのクラスも同じワークシートを使って、同じレベルの授業ができるところにひかれました」(西村先生)
 また、アウトプット活動については、「教えない授業」で知られる新渡戸文化学園の山本崇雄先生の手法に学んだ。
 実は、この年次には、20年度入試への対応以外に、もう1つ課題があった。同校は10年度に旧・宮城県白石高校と旧・同県白石女子高校の2校が統合して生まれたが、18年度1年次では、現在の白石高校になって以来初の定員割れとなったのだ。今野真佐先生は、次のように述べる。
 「本校は、恒常的に英語力の低さが課題です。この年次は特に学力幅が広く、例年以上の危機感をもって新年度を迎えました」
 以下、「コミュニケーション英語Ⅰ」の授業を例に、18年度1年次の「TANABU Model」の実践を見ていく。

取り組みの詳細

素早く習慣をつけるため、活動の制限時間を区切る

 同校の授業は1コマ45分間で「コミュニケーション英語」は週4時間。同年次では時数に合わせてレッスンの各パートを4時間で展開した。
 導入は単語のインプットである。1パート分の単語を抜き出したプリントを配って読ませ、単語の意味を日本語で理解させる。導入で英語によるオーラル・イントロダクションは行わない。生徒が英語を読む楽しみを奪うというのがその理由である。
 次に、「Paragraph Chart」(資料1)を用い、教科書を見ながら3~5分間で空欄に適切な語句を記入し、内容を大まかに把握させる。
 「このモデルの肝は時間を区切って取り組ませること。試験では自分のペースでゆっくり読めないので、素早く情報を探す意識を高めるため、すべての活動で時間を決めて取り組ませます」(西村先生)
 記入後、生徒はペアになり、1人が話し1人が聞いて答え合わせを行う。間違いがあれば教科書を見て2人で解決する。
 次に、「Summary Sheet」(資料2)で本文の要約に取り組む。実際の入試を想定して、辞書は使わず、前後の語句から推測しながら文意を把握する。時間は5分間。書き上げたシートをグループで回し読みをして、「よくまとまっている」「ここが間違っている」などコメントを書かせる。
 続いて「Vocabulary Scanning Sheet」(資料3)で、日本語に対応する英語を本文から探す。できない生徒もいるが、自信を失うことがないよう常に「Do your best」と声をかけて励ましながら取り組ませた。書き上げたものはペアで読み合い、教科書で正誤を確認する。その後、ペアワークで日本語から英語に、英語から日本語に直す練習を繰り返し行う。

ICTを使った音読活動で、音読好きの生徒が増加

 続いて、1時間ほどかけて音読に取り組む。まず、右に日本語、左に英語が書かれた「Reading Practice Sheet」(資料4)を用い、ペアを中心にコーラスリーディングやリピーティングなど多様な音読を行い、英語の構造を理解させる。
 音読ではICTを多用した。生徒のスマートフォンを活用し、音声を聞き本文を見ながら音読を行うOverlapping、慣れてきたら音声だけを聞きながら読むShadowingを個人で行う。
 「文章を見て読むことができても、聞き取れなければネイティブとのコミュニケーションは難しいでしょう。スピーキングとリスニングを鍛えるためにはよい方法だと思います。進研模試のリスニングの成績が、2年次7月から11月にかけて大きく上がったのも、その成果だと考えています」(西村先生)
 プロジェクターに教科書の本文を映画のエンドロールのように流し、画面から消える前に読ませる場合もある。慣れてきたら虫食いを作り、穴埋めをしながら読ませる。Shadowingや文字ロールによる音読は、スピードが問われるため、できない生徒は悔しがって一生懸命取り組むという。

「お絵かきプレゼン」によるパフォーマンステストを実施

 以上を行った上で「お絵かきプレゼン」(資料5)を使ったパフォーマンステストを行う。「教えない授業」の山本崇雄先生のメソッドで、英文の内容をイラストで表現し、相手に英語で伝えるものである。まず、ノートの左側に本文の内容を表すイラストを描き、上に本文を読んで疑問に思ったことを英文で書き出す。ノートの右側にはプレゼンの内容をメモし、右下に最初に立てた問いの答えを書く。これをパフォーマンステストまでに用意させて、スピーキング・テストを行う。各自が3人の生徒に同じ内容でPresentaitionを行い、それぞれ「Speaking Grading Rubric」(資料6)による評価を受け、スコアを「Classi」で教科担当に送る。
 最後がライティングのパフォーマンステストである。Presentaitionで話した内容を「コミュ英_英作文Sheet」(資料7)に記入し提出。評価は長さ(語数)、内容、文法・単語の3観点で行う。シートは教師が語数をカウントしやすいよう、細かく区切った下線に1つ単語を入れる形式としている。当初は教師がすべて内容を添削して返却していたが、労力がかかる割にきちんと見ない生徒も多かった。そこで、生徒自身がチェックしてほしいところにラインを引いて提出するように改めた。以上のパフォーマンステストはパートごとに行い、それぞれ教師が集計し平常点に加算する。
 定期考査も「TANABU Model」に準じて、ライティングとリスニングを中心とした構成に変えた。文法を問う問題はなく、音声を2回流して内容を文章で再現させるリスニング問題や、キーワードを使って本文の内容について書く英作文、生徒自身の考えを述べるエッセイ問題などである。
 宿題は「お絵かきプレゼン」の準備以外は原則課していない。生徒ごとに課題や弱点が異なるのに、一律に同じ課題を与えることには意味がないというのがその理由である。例年行ってきた週末課題も廃止したが、模試の結果が例年と比べて下がることはなかったという。

4技能の習得が入試学力にもつながる

 この年次では上記のほか、アウトプットの意欲を高めるため、前後期に各1回、大規模なアウトプット活動を取り入れた。前期の「イヌ×ネコ・トークバトル」は、生徒がイヌ派とネコ派に分かれてDebateを行った。後期は「マイ・トゥルー・スーパーヒーロー」と銘打ってのスピーチコンテストである。『アンパンマン』の作者をテーマにした英文を読んだ後、「自分のスーパーヒーロー」をテーマにスピーチを行う。画像も生徒がスマホで用意し、プロジェクターに映してプレゼンした。最後にクラス代表を決めて学年大会を開催し外部審査員を招いて講評を受けた。
 1年次の夏季休業期間には、東京都立両国高校の布村奈緒子先生の取り組みを参考に、オックスフォード出版局の教材を宿題に課した。生徒が自分のレベルに合い、かつ興味のある教材を2冊選んで購入。そのうち1冊を夏季休業期間に読ませ、休み明けの課題テストで本の感想とあらすじを英語で書かせた。
 パフォーマンス重視にすることによって、文法事項の定着などのいわゆる「入試学力」の低下を懸念する学校も多い。同校では「TANABU Model」を導入するにあたって特に不安はなかったという。
 「明示的に文法を教えなくても、『Reading Practice Sheet』(前出、資料4)でその都度、文の構造や使い方について説明するので、改めて体系的に文法を説明する必要はないと思っています。関係代名詞の定義が分からなくても、関係代名詞を使って正しく表現できれば、コミュニケーションはもちろん入試にも対応できると考えました」(西村先生)
 同校のモデルでも、最初の単語練習や「Vocabulary Scanning Sheet」「Reading Practice Sheet」など、随所にインプット活動を挿入しており、インプットとアウトプットを繰り返すことで4技能の向上を図っている。

短期間でPDCAサイクルを回し、指導改善を繰り返す

 技能ごとにスキルの伸びを精査するなど、短期間でPDCAサイクルを回し、指導の方向性を微修正している点もこの年次の強みである。たとえば、1年次の11月模試が7月よりも伸びず、リーディングの力が不足していることが課題となった時は、年次途中からコーパスシリーズの単語帳に取り組ませたところ、生徒のボキャブラリーが増えリーディング力も高まったという。
 文法事項の定着についても、2年次にテコ入れを行った。前期中間考査の後、成績上位層の生徒の伸び悩みが感じられたため、パートごとに実施していた「お絵かきプレゼン」を一時中断し、知識を問う小テストに変えて文法の定着を図った。
 評価の方法も見直した。同校では4技能を導入するにあたり、従来「定期考査8割・平常点2割」だった配点を、「定期考査6割・パフォーマンステスト4割」にした。パフォーマンス重視にした結果、赤点はなくなったが、生徒の中には、パフォーマンステストさえ頑張れば、定期考査で多少点数が下がっても赤点はまぬかれると考え、試験対策をおろそかにする生徒が増えたという。そこで2年次からは、配点比率通り60点満点としていた定期考査を100点満点とし、40点以下は赤点にすると通告した。6:4の配点比率はそのままだが、100点満点のテストにすることで、定期考査も落とせないという意識が生徒の間に定着したという。

document02

左から、今野先生、西村先生、千葉先生

取り組みの成果と今後に向けて

 1年次の取り組みの成果は、2年次の「GTEC」の結果に顕著に表れている。4技能のトータルスコアで100以上伸びており(「GTEC」トータルスコア推移参照)、特にスピーキングとライティングで顕著に表れた。
 「1年次に初めての「GTEC」で自分のスコアを見た時、予想以上の高スコアに『自分の成績とは思えない』と喜んでいた生徒がいました。しっかり授業に取り組めば、確実に英語力は上がるということを、生徒たちが信じてついてきてくれたのが大きかったと思います」(西村先生)
 4技能の向上は英語に向かう生徒の意欲にも表れている。英語嫌いの生徒がほとんどおらず、アウトプットへの抵抗感もない。中学時代は英語への苦手意識が大きかった生徒も多いが、今はそうした生徒たちが熱心に活動に参加し、活気ある授業を支えている。
 「どの生徒も学力を問わず間違いを恐れませんし、書くこと、話すことに抵抗を感じなくなったことが最大の成果だと思います。いきなりスピーチをさせても難なくこなせるし、ペアでSkitをやらせても、事前に生徒同士で練習して教師が驚くくらいのレベルに仕上げてきます」(今野先生)
 「TANABU Model」の導入により、教師の負担も減った。活動中心の授業になったことで授業そのものにかける労力が減ったうえ、ワークシートも共有できるので、教材準備にかかる時間も減った。シートの作成はローテーションで担当を決めて行うが、ひな型を利用するだけなのでそれほど時間はかからない。
 負担軽減もさることながら、何よりも教師自身が授業を楽しいと感じるようになったと千葉麻希子先生は指摘する。
 「職員室に戻ると、教師同士で今日の発表はすごかった、楽しかったという会話がよくありました。音読1つをとっても、やらされ感ではなく、自分のものにしようと努力している意識が、生徒の態度から伝わってきます。以前は、一生懸命講義をすればするほど、生徒が離れていくような感覚もありました。今は授業中に寝る生徒もなく、積極的に活動に参加してくれるので、授業が格段に楽しくなりました」
 こうした成功の根底には、教師たちのチームワークがある。日常的に情報交換を行い、目線を合わせ、指導改善を繰り返してきたことが授業の質の向上につながっている。
 「生徒の学力を高めたいという思いはどの教師も同じです。その上で、互いのよいところや足りない部分を理解し、意見が分かれても我を通すことなく、折り合いをつけながら取り組んできました。このチームワークのよさが今回の結果につながったのだと思います」(西村先生)

document02
document02

【資料1】 Paragraph Chart

document02

【資料2】 Summary Sheet

document02

【資料3】 Vocabulary Scanning Sheet

document02

【資料4】 Reading Practice Sheet

document02

【資料5】 お絵かきプレゼン

document02

【資料6】 Speaking Grading Rubric

document02

【資料7】 英作文Sheet