GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.132

「世界と繋がる人財」を育成するために、
発信技能を重視した指導と評価の一体化を推進

宮城県石巻高等学校

宮城県石巻高等学校

 1923(大正12)年、旧制・宮城県石巻中学校として開校。まもなく創立100周年を迎える地域の伝統校。校訓は「真実」「自律」「友愛」で、「光輝ある伝統を踏まえ、個性の尊重を図りつつ情操豊かな知性の高い自主自立の精神に富む、健康・明朗な生徒の育成」を教育目標としている。大学進学においては、難関大学から県内の大学までそれぞれの希望進路の実現を達成し、高い進路実績を上げている。部活動では、陸上競技部やボート部など数多くの部がインターハイに出場するなど、全国的な活躍をしている。

基本情報
基本情報:公立、共学、普通科
規模
1学年約240名
主な進路状況
国公立大は、岩手大11名、東北大10名、宮城教育大10名、山形大7名、福島大3名、埼玉大3名、千葉大3名、筑波大1名など93名が合格、私立大は、東北学院大102名、東北福祉大57名、慶應義塾大1名、法政大4名、明治大4名、立教大3名など416名が合格。(2020年度入試結果、過卒生を含む)

取り組みのポイント

  • 指導との連動を重視したCAN-DOリストをもとに、各学年の授業・評価をデザイン。
  • ルーブリックとスコアレポートにより生徒を動機づけるパフォーマンステストで発信力を育成。
  • 英語科教師間で互いの授業内容を共有し、指導力を高める。

取り組みの背景

 宮城県石巻高校は、長年、宮城県の英語教育の拠点校として、英語教育改革に取り組んできた。育てたい生徒像について先生方はこう語る。
「本校が育てたいのは、使える英語を身につけ、人とつながることを楽しめる生徒です。英語でアウトプットする力を伸ばし、世界の人と繋がることを楽しんでほしいと考えました。また英語が理解できた・伝わったという実体験から、卒業してからも学び続ける生徒を育成したいと考えています」(磯部礼奈先生、初澤晋先生、根岸潤先生)
 加えて、2019年度からは宮城県教育委員会の「発信型英語教育拠点校事業」の指定を受けたことをきっかけに、4技能5領域におけるバランスの良い授業内容と評価の在り方を研究してきた。
 同校独自のサブテーマとして、4技能のなかでも、発信(話すこと・書くこと)の内発的動機づけを促す指導の研究、CAN-DOリストを軸にしてルーブリックを明示した指導と評価の一体化を行い、発信力を高める取り組みを行った。生徒の動機づけをいかに行いながら授業と評価を一体化させるか、その実践が積みあがってきている。

取り組みの詳細

CAN-DOリストを軸に、各学年の指導を構築

 同校では、CAN-DOリストを作成し、それを軸にした指導を行っている。CAN-DOリスト作成にあたりまず最初に取り組んだのは、前項にあるように「育てたい生徒像」を共有したことだ。そこが一致していないとCAN-DOリストの内容の議論においても目線が合わなくなってしまうからだ。育てたい生徒像が明確になれば、そのような英語力を持った生徒を育てるために、どのような指導を行うべきか、議論が円滑に進む。育てたい生徒像を踏まえながら、新学習指導要領の内容も読み込み、石巻高校の生徒の実情と照らし合わせながら議論を重ね、各学年、学期ごとの学習到達目標(CAN-DOリスト)を作成した(資料1)。
  CAN-DOリスト作成にあたり重視したことを2年生担任の初澤先生は次のように語る。
 「大切にしたのは、縦のつながりです。ステップアップしていることを意識できるように、各学年の違いにはこだわりました。例えば、スピーキングでは、1年生前期の目標は『身近な出来事や家庭生活などの日常的な話題について』、2年生では『学校外のことや地域でのこと』などテーマも視点を広げていくように設定しています。3年生後期の目標は『社会的な話題について、複数の資料を活用して、ディベートやディスカッションを即興ですることができる』とし、話す内容や話し方についてもステップアップできるようにしました」

4技能統合型の授業展開の工夫

 同校では、宮城県教育委員会の「発信型英語教育拠点校事業」の指定を受けたことをきっかけに4技能をバランスよく育成するため、学年で共通した授業用ワークシートを作成している(資料2)。ワークシートの特徴は、教科書の内容を学習しながら、4技能すべてを鍛える課題が設定されていることだ。ワークシート作成の狙いについては、短い授業のなかでも4技能すべての活動をどの先生にも取り入れてほしいと考え、授業案の土台となるワークシートを作成し、授業進行の目安とできるようにしている。ただ、あくまでも目安なので、細かい指導内容は各教師に任されている。
 単元のテーマに基づき4技能を統合して学び、最終的には生徒が自分の考えを書いたり、話したりしてアウトプットできるような授業展開となるようなワークシートにしている。例えば、2年生のコミュニケーション英語のレッスン9(資料2)では、リスニングからスタートし、リーディング、スピーキングを行い、最終的にはライティングさせるようなワークシートの流れにしている。
 また、授業設計する際は、あえて生徒にとってよりチャレンジングなものから取り組ませていると初澤先生は語る。
 「4技能の中でも、聞くことや話すことは生徒にとって難易度の高い活動ですが、あえてそれらを優先して取り組むことにしています。例えば、話す前に書かせる活動をしてしまうと、書いたものを読み上げるだけの活動になってしまうからです。まず、ペアで何度か会話をし、その活動を踏まえ、自分なりに話したことを修正して、書く行動につなげられればと考えています。そうした力を鍛えることで、最終的には表現力を高めてほしいです」

パフォーマンステストのポイント

 県の指定と並行して、同校独自の取り組みとして、発信(話すこと・書くこと)の内発的動機づけを促す課題設定の研究を行っている。 2019年度は、「話すこと」に焦点を当てた。
 中心となる取り組みは、CAN-DOリストに基づきルーブリックを作成し、スピーキングのパフォーマンステストを実施したことだ。評価方法については、大学の先生にも助言をもらった。
 「スピーキングのパフォーマンステストを実施するにあたり、事前に生徒にルーブリック(資料3)を提示し、事後はルーブリックに基づき評価したスコアレポート(資料4)を返却するとよいとアドバイスをいただき、実践しました」(初澤先生)
 ルーブリックを作成する際は、評価内容の妥当性、採点の信頼性、持続可能な実用性の3点を意識したという。
 「例えば、信頼性を高めるために、パフォーマンステストは2人の教師が採点して、その平均点を採用するようにしました。実用性に関しては、それまで10項目程度を評価していましたが、全項目を正確に評価するためには、動画を何度も見直して評価しなければなりませんでした。それでは、教師の負担が大きく、持続可能ではないと考え、各回3、4観点に絞って評価することにしました」(初澤先生)
 また、事前にルーブリックを明示し、事後にスコアレポートを返却することにより、生徒の意識も変わってきたと話す。
 「重みづけを明確にしたルーブリックを生徒に明確に示すようになって、生徒たちもわかりやすい、ということで学習しやすくなったようだ」(磯部先生)
 「テスト後に、『自分はもっとよい点数がとれているのではないか』と質問にきた生徒がいました。一緒に動画を見直し、観点ごとの採点について話したところ、採点に納得し、次はどのような点に注意したらよいか確認してくれました。そのように、ルーブリックやスコアレポートを生徒と共有しておけば、より効果的なテストの実施が可能です」(初澤先生)

ルーブリックに基づきパフォーマンステストを実施

 次に、各学年のパフォーマンステストの内容を紹介する。各学年における評価の重みづけを明確に意識することがポイントである。

◎1年生
 「1年生のスピーキングの目標は、『身近な出来事や家庭生活などの日常的な話題について、使用する語句や文、やり取りの具体的な進め方が十分に示される状況で、情報や考え、気持ちなどを即興で話して伝え合うことができる』です。そのため2回目の『コミュニケーション英語』のスピーキングテスト(資料5)では、メモを見ながらの発表に加えて、発表が終わったら、他の生徒が質問するといったことも取り入れました。伝える力を鍛えつつも、1年生の段階から即興で対応する力を育成したいと考えました」(磯部先生)

◎2年生
 「『コミュニケーション英語』の授業では、教科書で様々な職業のやりがいや苦労について学びました。そこで学んだことをふまえ、パフォーマンステスト(資料6)を作成しました。ある留学生が、3つの職業の中でどの仕事を目指すべきか迷っているため、職業選択のアドバイスをするという場面を設定。私が留学生役となり3つの職業を生徒に提示し、生徒が即興でどの職業に就いたらよいかアドバイスをするという形式で行いました。CAN-DOリストを踏まえ、学習した表現を使いながら、自分の考えを発表できるかを評価しました。様々な職業のよいところを具体的に述べ、アドバイスを行う必要があるため、1年次よりも論理的に発表する力が求められます。そうした力を見ることができればと考えました」(初澤先生)

◎3年生
 「3年生のスピーキングのCAN-DOリストには、『社会的な話題について、複数の資料を活用して、聞き手を説得することができるよう、意見や主張などを効果的な理由や根拠とともに詳しく伝えるまとまりのある長さのプレゼンテーションをすることができる』と設定されているので、そうした力を鍛えるテストにしたいと考えました。
 本校では、教科書に加えて、全学年でオックスフォード大学出版の副教材を使用しています。この教材のよい点は、生徒たちが多様な価値観をぶつけあうようなテーマを取り扱っていることです。今回のテストでは、『成功するには何が必要か』について考えました(資料7) 。こうしたテーマ設定だと生徒によって様々な考えがあるため、より多様な視点に触れながら表現を学ぶことができると考えています」(根岸先生)

ライティング指導のポイント

 2020年度は、ライティングの指導に力を入れている。ライティングに関してもスピーキング同様、各テスト実施前にルーブリック評価を生徒にも明示し、それをふまえ採点。スコアカードとともに返却しているという。また、ライティングの課題設定にもこだわりたいと磯部先生は語る。
 「ただ英語で文章を書かせるだけでは、表現力は高まりません。生徒にとって目的が明確なライティングをさせたいと考えています。例えば、隣に座っている生徒に自分のことを知ってもらうために自分の情報をまとめさせるなど、意味のある活動にすると生徒たちの集中力も高まり、熱心に取り組みます。どのような課題を設定すれば生徒の意欲が高まるのか、教師のタスク設定力についても本年度は研究しました」
 授業のなかで表現する力をより鍛えていきたいと考えている。例えば、1年生の英語表現の授業では、より語彙力を高め、相手にとって理解しやすいパラグラフ構成にするための表現力を豊かにしてほしいと考え、Linking words(資料8)のプリントを作成した。これは、つなぎ言葉を使うことで、パラグラフライティングの型を身につけさせるプロセスを整理したものである。このようにスモールステップでハンドアウトをデザインしておくと、英語が苦手な生徒にとってもタスクが取り組みやすくなり、教師側も生徒がどの段階で止まっているのか把握しやすくなる。
 また、例を示す、ということは今年重視して行っている。(資料9)模範例を示すことで、生徒の書き出しが早く、明らかに書く質が高まっていると感じる。最初は良い文章を真似てでも書きながら上達していくという側面もあり、例示を積極的に使いながらどんどん書かせるようにすると平均レベルが明らかに上がってきたことを感じた。
 ライティングにおいても、ルーブリックは測りたい力によって重みづけを行い、3観点に絞って評価を行っている。(資料9)

外部試験の活用

 5月と12月に年間2回「GTEC」を受検している。校内のパフォーマンステストで評価してきた生徒たちが実際にどれくらい英語力が伸びているかを見ている。結果的に校内の成績で良い評価の生徒が「GTEC」でも好成績を収めている。生徒たちは結果には非常に興味を持ってみている。加えて、普段とは違い、海外の英語話者による評価でどれくらい伝わっているのか、ということがわかることも注目しているところである。
 学校の指導としては、技能別に変化を見ることで、その時期に重点をおいてきた取り組みが成果が出ているかどうかも振り返りを行っている。

英語科の連携と今後に向けて

 各先生の授業実践を共有する場となっているのが、英語科教師全員が参加する週1回の英語科会だ。
 「英語科の指導が積みあがってきている背景として、チームワークが良いことも影響していると思います」(磯部先生)
 「英語科会はとても風通しがよく、フランクに意見交換ができる場です。先日、私は3年生の英語表現の授業で、新しい形式でパフォーマンステストを実施したことを報告しました」(根岸先生)
 根岸先生のクラスでは、これまで個人で行っていたプレゼンテーションのパフォーマンステストをグループでの実施に変更した。発表の様子は生徒にスマートフォンで撮影させ、授業後Googleクラスルームで提出させた(資料10)。そうした変更の結果、以前より大幅にテスト実施時間を短縮できた。加えて、発表の様子を動画で見直すことができるため、評価する際にも役立ったという。
 「そうした実践を英語科会で報告したところ、『それはいいね、自分たちもやってみよう』という声をいただくことができました。自分も他の先生のよい指導を吸収していきたいです」(根岸先生)
 また、同校では、年1回、英語科教師が互いの授業の見学しあう取り組みを実施している。気付いたことはアンケートに記入し、その内容を英語科会で共有している。フィードバックされる側が学ぶことは当然だが、見ている先生方にも多くの学びがあり、貴重な機会となっている。このように担当学年・年齢関係なく議論を行い、学年のつながりを意識した指導を行っていることが、生徒の英語力の強化につながっている。
 「目標やCAN-DOリストといった大きな目標は全体で共有しながら、細かい指導のノウハウについては個々の先生の個性を生かした指導をしています。今後も、英語科教師の連携を強め、生徒の発信力を伸ばしていきたいと思います」(磯部先生)

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取材させていただいた先生方左から、根岸潤先生、磯部礼奈先生、初澤晋先生

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【資料1】2020年度CAN-DOリスト

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【資料2】4技能統合型授業用ワークシート

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【資料3】パフォーマンステスト

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【資料4】スコアシート

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【資料5】1年生パフォーマンステスト(コミュニケーション英語Ⅰ)

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【資料6】2年生パフォーマンステスト(英語表現Ⅱ)

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【資料7】3年生スピーキングテスト(コミュニケーション英語Ⅲ)

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【資料8】つなぎ言葉(1年生)

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【資料9】2年生構成展開力

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【資料10】3年生パフォーマンステスト(英語表現Ⅱ)