Vol.98
確かな学力の向上に向けて
学校生活すべてを学びの場として洗練する
新潟県立国際情報高等学校 様
1992(平成4)年に開校。国際化・情報化が進展する社会の中心となって活躍できる人間の育成を目指し、国際文化科、情報科学科を設置する。両科ともに2学級80人という小規模な学校の特性を生かし、2人担任制や習熟度別少人数授業などによる丁寧な指導で、生徒の人間的成長や希望進路の実現を図っている。また、2013(平成25)年度に「海外大進学コース」を開設し、海外の大学に直接進学する生徒を支援、さらに、2015(平成27)年度にスーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定され、「【雪国*米どころ*魚沼】 の世界発信を通じた人材育成 ~ 浦佐から世界へ ~」というテーマで、地域が抱える課題、更には関連する世界の地域課題について、グローバルな視点から考察・提案できる人材の育成を目指している。
- 基本情報
- 公立、共学、国際文化科・情報科学科
- 規模
- 1学年約160名
- 主な進路
- 東京大1名、大阪大1名、名古屋大1名、北海道大2名、東北大3名、新潟大22名など国公立大101名(2015年度入試)
取り組みのポイント
- ●指導要領の変化を踏まえ、生徒の意欲を引き出しつつ英語4技能をバランス良く育成する指導改革を実践。
- ●CAN-DOリストをもとに3年間の育成プランを明確化し、各学年のスモールステップを教師と生徒で共有。
- ●活用力の育成に向けて、学校教育全体のマネジメント改革を推進。
取り組みの背景
同校は、開校以来「授業第一主義」をモットーに、教師が一丸となって生徒の学力を高め、希望進路の実現を果たしてきた。一方で、国主導での大学入試、高校教育改革の議論の中では、知識・技能に加え、思考力・判断力・表現力、主体性・協働性など、育むべき力が変化しつつある。進路指導主事の山﨑健太先生は、「求められる力が変化する中で、地方部の公立高校としては、学校が持つ人的・財政的・資源的な要素を考慮しつつ、20年先の学校、卒業生、地域をデザインできるような教育改革を意識しています」と問題意識を語る。
また、英語科の及川智弘先生は、「英語については、2013年度からの新課程で4技能の育成が重視され、求められる力が変わりました。既に大学入試問題でも運用力を重視する方向に徐々に変化しており、こうした求められる力の変化にどう対応するかを英語科で議論しました」と説明する。新課程移行と時を同じくして、「海外大進学コース」が同校に新設されることもあり、その1期生が入学する2013年度から英語科を中心に指導改革に踏み切った。
取り組みの詳細
トピックの内容に興味・関心を持たせて英語を使いたくなる状況を作る
同校が英語の授業に取り入れたのは、CLIL(クリル:Content and Language Integrated Learning、内容言語統合型学習)という教育法だ。言語学習を「内容」と深く結び付けるのが特徴で、授業ではトピックの表面的な理解に留まらず、じっくりと背景知識を学んだり、日本国内や身の回りの事象と結び付けて考えたりして、トピックへの興味・関心を高めることで、実践的・応用的に英語を運用させることを狙う。英語のために英語を学習するのではなく、トピックについて、知りたい・伝えたいといった気持ちを起こさせ、英語を読んだり話したりしたくなる状況をつくるのである。例えば、「世界の水不足問題」をテーマとしたトピックがあるとする。授業では、冒頭から教科書を読み進めるのではなく、イントロダクションとして水不足問題の原因を考え、遠い世界のできごとではなく、自分たちにも関連のある問題と意識させた上で、トピックの内容に入る。
1テーマにつき1か月ほどかけてじっくりと学び、その中に4技能のトレーニングをバランスよく組み込んでいることも特徴だ(資料1)。授業では、関連動画を視聴したり、テーマについてディスカッションやプレゼンテーション、ライティングをしたり、各テーマのゴールイメージに沿って活動を定めている。従来の授業に比べて進度は遅いが、教科書本文の原典を読み込むなど、生徒が読む英文の量は増えるという。
こうした授業は、教師の緻密な準備を要することは言うまでもない。年度当初に教科書の中で扱うレッスンや順番を定め、各テーマの狙いを共有する。1年生の初めは、「グローバルに考えるためには、まず日本について知る必要がある」という考えから、日本文化をテーマとし、その後、世界に目を向けて環境や国際紛争といった問題を扱う。各テーマの展開案は、英語科教師がアイデアを出し合って作り上げる。「生徒の興味・関心を高める展開を検討したり、テーマに関するリサーチをしたりする必要があるので、1か月ほど前から準備を進めます」(及川先生)。
各教師は授業の大きな流れやゴールイメージ、また授業で用いるプリントを共有している。文法学習についても、内容によりトピックの中で取り上げるか、また別途ドリル的に学習するかを共有して指導している。
【資料1】英語授業プリント(一部抜粋)
CAN-DOリストをもとに3年間の育成プランを共有
CAN-DOリストを作成し、3年間の育成プランを明確化していることにも注目したい(資料2)。3年生の目標は、3年間で学習したトピックの中から1つを選んでリサーチし、自分の考えをまとめる「卒論」を書けるようになることだ。その前提として、2年生で自立的学習者(independent learner)になることを目標に掲げている。そのために、例えば2年生の英語日記指導では、教師は誤りを細かく指摘するが、正答は教えず、自分で辞書や文法書で調べ直して再提出するように求める。「自立的学習者には、自分が足りない点に気づいて学び直す姿勢が不可欠であり、そのためのトレーニングの1つと位置づけています」(及川先生)。
また、2年生では論理的思考力や批判的思考力の育成に向け、英語ディベートの指導にも力を入れる。
一方、1年生は前段階として、「Fluency」をキーワードとして、自分の考えを臆せずに英語で発信する力の育成に重点を置く。例えば、毎週のエッセイライティングでは文法や単語のつづりなどの誤りは指摘せず、とにかくアウトプットすることが大切というメッセージを伝える。
こうした各学年の重点ポイントをCAN-DOリストに落とし込んでおり、そこから逆算する形で、各学年、各時期に求められる力が明らかにされ、教師はもちろん、生徒とも共有して目標意識を高めている。
【資料2】CAN-DOリスト
4技能のバランスを意識し定期考査は技能ごとに実施
4技能のバランス良い伸長を目指し、定期考査は技能別に実施するのも特徴だ。例えば1年生は、「コミュニケーション英語Ⅰ」でリーディングとリスニング、「英語表現Ⅰ」でライティングとスピーキングの試験を実施する。また英語表現Ⅰでは、英語の運用に不可欠な「Vocabulary(語彙)」「Grammar(文法)」の2分野の試験も行う。なお、スピーキングテストでは1人1台支給されているICレコーダーに録音する形式で評価する。
その他、授業への興味・関心、英語学習への意欲などはアンケートを通して把握し、実践的な英語力のレベルはGTEC for STUDENTSを用いて確認している。
特別プログラムで海外大学進学希望者を支援
同校は、2013年度に「海外大進学コース」を開設し、海外大学進学希望者を支援している。希望者10名ほどが対象で、2年生進学時に英語テストや成績などを総合して選抜する。
1年生の時点でコース選択希望者は、10月にボストンへの海外研修を行い、現地の雰囲気を体感して将来へのイメージをふくらませる。そして2年生では、「グローバルスタディーズ」という学校設定科目の中で、英語によるディベートやディスカッション、プレゼンテーションなどの指導を通じ、問題発見から解決までのプロセスを論理的に考え、発信するトレーニングを重ねる。
コースを選択しない生徒も、1年生3月にアメリカもしくはオーストラリアへの海外研修を実施する。希望者が対象で、例年100名ほどが参加する。「保護者から大事に育てられてきて、学校でも手厚くフォローされている生徒たちが、外の世界に出ることは受身の姿勢から脱し、自立するための大きなきっかけとなります」(山﨑先生)。
教科の活用力の育成を学校教育全体で捉える
上述したように、同校は2013年度より英語の授業を大きく変化させた。また英語以外の教科についても、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(以下新テスト)を始めとした入試改革や教育改革への対応に向けて、対応を模索している。「最初の新テストを受験することになる学年の生徒が中学3年生となる2年後までに、学校として対応ができるように組織づくりも含めて準備を進めています」(山﨑先生)。
一方で、山﨑先生は「活用力育成の中で謳われているアクティブ・ラーニング(以下AL)は、授業という枠内で完結させるものではなく、学校教育全体で捉えるべきだと思います。学校が関わる活動すべてをカリキュラムと捉え、これをいかにマネジメントするかという視点が大切だと考えています」と語る(図1)。
例えば、ALを通した教科の活用力育成については、土曜補習の中で担当者が独自に工夫してALの要素を取り入れているという。「生徒の利益を考えると、授業は失敗が許されません。そこで、土曜補習という正課以外の時間を使って、講義に加えて生徒主体の活動を授業の中に取り入れています」(山﨑先生)。また、学習環境の整備として、自習室はこれまで黙々と学習を進める場所とし、生徒間で話すことは禁止していたが、協働して課題を解決する場の必要性を踏まえ、今年度から生徒同士が自由に話し合いながら学習できる別の自習室を設置した。
毎年各教科で行っている入試問題分析にも新たな観点を取り入れた。「1つの大問に複数分野を融合させているような問題をピックアップして分析し、少しずつ生徒に解かせていきます。こうした研究を重ねておけば、合教科型・総合型問題の行方の予想に役立つとともに、方向性が明らかになった時の対応がスピーディになるはずです」(山﨑先生)。
2015年度にモニター受験する「高校総合学力調査」の問題分析も、新テストに向けた研究の一環と位置付けている。「生徒に新しいタイプの問題に触れさせることで、現行の指導が新テストで求められる『活用力』にどれくらい対応できるかという現状を把握したいと考えています。受験する生徒にとっても学習への意識を見直すきっかけになればと期待しています」(山﨑先生)。
こうした教科の活用力の育成に向けた準備に加え、探究学習で求められる「課題設定」のためには生徒が社会的な課題に関心を持つ必要があると考えている。「これからの学びを考えると、自ら課題を設定する力が欠かせませんが、そのためには社会の課題に目を向ける必要があります。生徒はインターネットなどさまざまな情報収集ツールを手にしていますが、社会の課題を捉える上で十分に活用できているとは言えないでしょう。SGHに指定されたことを機に、今まで以上に生徒の視野を広げていきたいと考えています。また、視野を広げることで、子どもの内向き志向を突破するきっかけにもなればと考えています」(山﨑先生)。その一環として、新聞や社会問題のキーワードに関するエッセイを国語科教師が選び、要約などの週末課題を課している。さらに、入試改革でより重要視される志望理由書や小論文への対応も見据え、国語科教師と協働し、3年間を通した小論文指導の体系化を検討している。「小論文指導は、これまで2年冬に志望理由書を書かせますが、それ以降は入試直前期の該当する生徒に対する個別指導が中心で、体系だった指導ができていませんでした。まだ道半ばですが、あと2年間で体系化したいと思います」(山﨑先生)。
【図1】カリキュラムマネジメントの改革イメージ
取り組みの成果と今後に向けて
同校のGTECスコアを見ると、授業改革を始めた学年の2年次終了時点でのスコアは、過去の学年を大幅に上回る結果となった。特にリスニングは平均グレードが6(最高は7)となり、改革の成果が確認された(資料3)。
一方で、活用力育成に向けた学校全体の指導改革は2年後を見据えてさらに広げていく。特に人間力を高める意味で、同校が注目しているのが部活動と学校行事の改革だ。
まず、部活動については、同校ではこれまで土曜・日曜は部活動を禁止していたが、進路指導部の発案により、今年度より土曜・日曜のどちらかは半日を部活動に充て、残りの時間を学校で学習するという形にした。「思い切り体を動かしたり、文化的な活動に取り組んだりすることで視野は広がりますし、仲間と協力して頑張る経験もグローバル社会を生きていく上で大切です。勉強だけでも、部活動だけでもなく、2つのことができる生徒を育てていきたいと考えています」(山﨑先生)。さらに、学校行事についても意義の再定義を始める。「行事を通じた人間力向上のために、各行事を形式的なものにせず、行事の目的、行事を通じて伸ばしたい力、伸ばした力をどう次につなげるかを整理し、教師間で意義を再確認するとともに、意義の薄い行事は見直すことを進路指導部から発案しています」(山﨑先生)。
授業改善と並行し、学校生活全体を通して人間力を高めることが、結果的に入試改革で求められる力の育成につながると考えている。同校は、今後も学校生活全体を通して、生徒の人間的な成長を促していく。
【資料3】GTECスコア過年度比較(高2年次12月時点)
左:国際情報高校英語科先生/右:山﨑健太先生