Vol.116
4技能をフル活用する日々の指導と
アウトプット活動で、総合力を伸ばす
新潟県立燕中等教育学校
2005(平成17)年、「地域に立脚しつつ地球的規模で活躍できる人材」の育成を目指す中高一貫教育校として開校。「Be Glocal!」を校是に、目指す生徒像として「目的意識・学習意欲を持った生徒」「自己理解できる生徒」「グローバルな視点を持った生徒」を掲げる。平成24年「英語力を強化する指導改善の取り組み」拠点校、平成25年「英語によるコミュニケーション能力・論理的思考力を強化する指導改善の取り組み」拠点校。平成26年、SGHアソシエイト指定校となり、グローバルリーダー育成に資する教育の開発・実施に取り組んでいる。
- 基本情報
- 公立、共学、国際科学科
- 規模
- 1学年80名
- 主な合格実績
- 国公立大は、東北大1名、千葉大1名、新潟大9名、静岡大1名、都留文科大1名をはじめ28名(2018年度入試、現役のみ)
取り組みのポイント
- ●普段の授業から4技能をバランスよく伸ばす指導を行い、定期考査でもスピーキング力を問うパフォーマンステストを実施 。
- ●各学年で、レシテーションやスピーチコンテスト、ディベートなどのアウトプット活動を実施 。
- ●「GTEC」に向けたライティング講座でエッセイの基本型を身につける 。
取り組みの背景
同校では開校当初より英語の4技能指導に力を入れてきたが、平成24年、25年に文科省事業の拠点校となったことをきっかけとして、さらなる強化を意識し始めることになる。英語科の西巻裕樹先生は、取り組み開始の経緯を次のように語る。「英語科では以前から、『英語が使える人材の育成』を目標としてきましたが、文科省事業の拠点校となったことを契機に、改めて英語4技能をバランスよく高めていく重要性を意識するようになりました。そこで、CAN-DOリスト(資料1)を作成し、それまで行ってきた学年目標アウトプット活動もそれに盛り込むことで、6年間における技能ごとの学習到達目標を設定しました。段階的に英語コミュニケーション能力や論理的思考力を高めていく指導体制を整えていったのです」
周知のように、2020年度入試から、従来のセンター試験に代わって「大学入学共通テスト」が導入される。同テストでは、大半の国公立大学が、同テストの英語と資格・検定試験の両方を受験するよう指定すると推測されるが、これまで英語4技能指導強化に取り組んできた同校にとっては追い風とも言えそうだ。
同校英語科の西巻先生は次のように語る。「各学年で行っているアウトプット活動は、大学入学共通テストや英語外部検定試験で問われる力を育むことができるものだと思います」
【資料1】CAN-DOリスト
取り組みの詳細
日々の授業と定期考査により、4技能を統合的に強化
普段の授業では、4技能をバランスよく伸ばす指導を実践している。たとえば教科書を用いた授業の流れはこうだ。①語彙や文法の確認→②本文の音声をリスニングしたうえで内容理解ができているか確認→③音読しながら文法や内容上のポイントを確認→④ペアで音読したりシャドーイング・オーバーラッピングを行う→⑤教科書を閉じ、ペアで本文内容について1分程度でリテリング(内容の要約を簡単な英語で話す)。中学3年まではレシテーション(暗唱)も教科書の各ユニットで行っているという。
教科書に沿った授業では「英文和訳や文法の確認に時間がとられてスピーキングまで手が回らない」という課題が生じることもあるが、同校では、本文の和訳や文法・構文のポイントは授業前にプリントとして配布してあるため、授業中は生徒が集まる場だからこそできる活動などに時間を割くことができるという。「同じ英文を音読したり、聴いたり、話したりして異なる技能を使うなかで、正確な文法や本文の内容が生徒の中に自然とインプットされるのを期待しています」(西巻先生)
各レッスンの終わりや定期考査の前後の授業では、スピーキング力を問うパフォーマンステストを行い、成績にも反映させている(資料2)。特に定期考査前後のパフォーマンステストは、各学年で内容を決めて独自の方法で取り組んでおり、例えば、ある学年では、校内一斉放送で課題を流し、答えをICレコーダーに一斉に吹き込んで提出させた。また、別の学年では、面接室に1人ずつ生徒を呼び、その場で課題を与えて話させた。「これまでのパフォーマンステストでは、ICレコーダーを生徒が忘れてきたり、テストのための放送音声を制作するのに負荷がかかったりするなど、運用面での課題も見られました。しかし、新入試への対応力を高める意味でも、問題点を解決するために今後も実施のやり方を検討していく予定です」
【資料2】インタビューテスト
学年ごとのアウトプット活動で表現力を段階的に育成
各学年では、授業で培った4技能の統合力を磨きながら、段階的に表現力を高められるよう、次のような学年の力量に応じたアウトプット活動を行っている。
●1年次……レシテーション
教科書巻末に掲載されているスピーチのレシテーション(ジェスチャーをつけながら感情を込めて英語の一節を暗唱すること)に全員が取り組む。「一文一文を自分のものにし、自然な発話のように表現することを目標としています」(西巻先生)
●2年次……スキット発表(資料3)
ペアワークでオリジナルスキットの作成と発表を行う。「教科書の英文を少しアレンジするだけでもよいと生徒には伝えていますが、オリジナルの設定を積極的に考えてスキットを書いてくる生徒が多いです」(髙澤先生)
【資料3】校内スキット(2年次)
●3年次……プレゼンテーション
日本文化に関するプレゼンテーションを行う。パワーポイントのプレゼン資料を作成するところから生徒自身が行う。「4年次には全員参加によるオーストラリアでの海外研修があり、現地では生徒の代表者が日本文化について紹介するプレゼンテーションを行います。この準備には、3年生で作成したプレゼンテーションの原稿や資料を使いますが、各学年の取り組みが次の学年にもつながっていくように指導イメージを描いています」(西巻先生)
●4年次……スピーチ
海外研修での経験を踏まえて「海外経験を通じてどのような成長があったか」というテーマで一人ひとりがスピーチ原稿を書く。クラス予選を突破した生徒は、海外研修成果発表会における校内英語スピーチ大会で発表を行う。
●5年次……ディベート(資料4)
4年次の終わりからALTによるディベートの授業を受け、ディベートの型を段階的に身につけていく。
【資料4】ディベート(5年次)
●6年次……自由なアウトプット活動
「Capstone Project」と題して生徒自身でアウトプット活動の内容を決めてチームごとに準備し、発表する。スピーチやプレゼンテーション、英語劇など内容は自由で、生徒たちはこれまでのアウトプット活動の総括としてこの機会をとらえ、創造性をフルに発揮して、英語を使って発表することを楽しみながら取り組んでいる。
1〜5年生では定期的に各学年ともアウトプット活動・発表や評価の機会を設け、学年末には校内大会を行っている。流れはこうだ。事前にクラスごとに発表会を行い、代表者を選抜。代表者が校内大会に出場し、学年全員の前で発表する。「『クラス選抜を突破したい』という意欲を喚起できるよう、校内大会を設けています。1つ下の学年も観客として大会に参加しますが、自在に英語を操る上級生の姿を見て下級生は刺激を受け、学習意欲の向上にもつながっているようです」(西巻先生)
大学入学共通テストに向け、即興的な課題を指導に盛り込む
大学入学共通テストを意識した4技能強化の取り組みも開始している。同テストを最初に受験することになる現4年生に対しては、その場で課題を与えて取り組ませる指導を2年ほど前から取り入れているという。「「GTEC」の出題スタイルなどを意識して、データやグラフを見て考えを述べる課題は、夏期講習などの機会に取り組ませています。また現4年生が3年生のときには、その場でペアを組ませて1人が修学旅行の思い出を英語で話し、もう1人はインタビューするという流れでスピーキングの練習を行いました。即興性を意識することで、新入試への対応力を高めようと考えています」(西巻先生)
学年ごとのアウトプット活動で表現力を段階的に育成
同校では年1回、英語の運用能力を測るために「GTEC」を活用している。西巻先生は「2年前からは新たにスピーキングテストを導入し、新入試に向けてこれまでの指導の成果を検証するための材料に役立てています」と、4技能指導における「GTEC」の役割について話す。
受検に向けては、「GTEC」の対策講座を行ったり、「STEP UP ノート」の一部を宿題として課したりと、各先生の裁量によってさまざまな取り組みを行っている。なかでも西巻先生が有用性を感じているのはライティング対策だという。
「「GTEC」のエッセーライティング対策では、『主張→理由→具体例や想定反論→主張』というエッセイの基本型を繰り返し指導します。ライティングの型を一度身につけると、ディベートやスピーチなどスピーキング活動においても、構成を頭の中ですばやく組み立てられるようになります。「GTEC」の対策を行うことが4技能の育成につながっていると感じます」
(5年生のディベートの様子)
取り組みの成果と今後に向けて
平成24年度より4技能の強化を進めてきた同校では、さまざまな場面で取り組みの成果を実感しているという。西巻先生は、「校内のコンテストで上位入賞した生徒は新潟県主催のコンテストに出場するのですが、他校と比較すると本校の生徒は、本番であまり緊張する様子を見せません。またオーストラリア研修でも、提携校に通う現地の高校生と気軽に会話を楽しんでいます。人前で抵抗なく英語を話せるのは、アウトプット活動を行ってきた成果といえるでしょう」
もちろん成果はスピーキング力の向上だけにとどまらない。「GTEC」の成績は、ほぼ毎年最高スコアを更新中だ。授業やアウトプット活動の積み重ねによって、4技能の力が総合的に伸びているということだろう。
ただし西巻先生は、「例えば授業中に下線部和訳をさせると詰まってしまうなど、従来型の入試で問われてきたような文法力が弱い生徒がみられます。こうした力も英語理解には必要なので、強化していきたいと考えています」と今後の課題を挙げる。また、TOEFL®などで問われるリーディングとリスニング、スピーキングなど複数の技能を同時に使って答える問題にも対応できるよう、統合力を伸ばす取り組みを行っていくことも考えている。
(【上】左から西巻先生、河内先生、川上先生、吉川先生、【下】左から髙井先生、田辺先生、小野里先生、髙澤先生)