Vol.123
授業と家庭学習の意識的な役割分担を徹底し、生徒の英語4技能をバランスよく育成
山梨県立市川高等学校
1914(大正3)年、旧制・市川大門町立女子実業補習学校として開校。校訓「敬愛自尊」のもと、社会人として必要な資質を涵養し、地域社会に貢献できる人材育成を目指している。生徒一人ひとりの進路希望に応じた手厚い学習指導・進路指導に力を入れ、近年は、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた「生徒に考えさせる授業」を全教科・科目で推進中だ。部活動も盛んであり、男子バスケットボール部や野球部、音楽部、弓道部などが県内外の大会で実績を残している。
2020年度には、同県立峡南高校、同県立増穂商業高校と統合し、普通科・工業科・商業科の3学科からなる単位制・総合制高校として生まれ変わる予定だ。
- 基本情報
- 公立、共学、普通科・英語科
- 規模
- 1学年約140名
- 主な進路状況
- 国公立大は、山梨大、静岡大、新潟大、都留文科大などに21名が合格。私立大は、明治大、法政大、同志社大などに延べ101名が合格。(2018年度卒業生)
取り組みのポイント
- ●生徒が英語で考え、英語で表現する活動を主軸に据えた、コミュニカティブな授業を展開。
- ●英語4技能の向上という目標を明確にし、その達成に向け、「コミュニケーション英語」「英語表現」の関連づけを強化。
- ●英語を活用する「Learn」の場を授業、知識の定着を図る「Study」の場を家庭学習と位置づけ、LearnとStudyを両輪とする指導を推進。
取り組みの背景
山梨県立市川高校では、生徒の英語4技能を総合的に高めるとともに、英語による思考力や表現力を育成すべく、2015年度から英語の指導改善に力を入れてきた。現在では、授業をオールイングリッシュで行うのはもちろん、主体的・対話的で深い学びの視点を重視したコミュニカティブな活動を授業の中軸に据えている。取り組みを推進してきた英語科の遠藤修史先生は、指導改善の目的を次のように語る。
「私自身、以前は訳読や文法の解説を中心とする授業を行っていましたが、そうした授業では、生徒が英語を使いこなせるようにはならないと感じていました。そこで、文部科学省委託事業である英語教育推進リーダー中央研修に参加したり、先進校の取り組みを視察したりして、『英語で生徒の考えを深めさせる授業』を目指しました。グローバル化社会を生きるためには、英語によるコミュニケーション能力が不可欠であり、今後の大学入試や次期学習指導要領でも、英語4技能向上がより重視されます。生徒の自己実現を支援するためには、指導改善が必要だという思いがありました」
取り組みの詳細
コミュニカティブな活動を充実させ、生徒に英語4技能の重要性を自覚させる授業
同校では、「コミュニケーション英語」「英語表現」ともに、教師が単語の意味や文法事項の基礎的な解説などを行う時間を極力少なくし、その分、生徒同士のコミュニカティブな活動や生徒同士が学び合う場面を増やせるよう、工夫をしている。
また、両科目に有機的関連を持たせることも重視。その1つが、英語4技能の重要性についての生徒への意識づけだ。具体的には、口頭でのやり取りが中心となる「コミュニケーション英語」でもライティングやリーディング、文章表現を扱うことが多い「英語表現」でもリスニングやスピーキングの活動を積極的に行っている。そして、4技能の伸びを客観的な指標で測るべく、「GTEC」を1年次から年2回実施。その結果を両科目の指導に反映させている。
英語のみのインプット・アウトプットに力を入れ、生徒の英語による思考力・表現力を育成
1年次における両科目の授業を見ていく。
「コミュニケーション英語Ⅰ」では、教科書の1つのセクションに2時間を充てる。
1時間目は、生徒が新出単語の意味を英語で理解し、それを使いこなせるようになることを目指す。授業の前半の10〜15分間はインプットとして、CDを用いたリスニングやリピーティングで発音を確認したり、教師が絵や写真を示しながら、新出単語のニュアンスを視覚的に把握させたりする。また、表現力を高められるよう、新出単語の同意語や反意語などを書き出すワークを行うこともある。授業の後半はアウトプットとして、2つの活動に力を入れる。1つ目は、新出単語のマインドマップを活用したペアワークだ。まず、生徒一人ひとりが任意の新出単語を選び、ワークシートにそのマインドマップを作成。その際、マインドマップの中心となる新出単語は、敢えて未記入のままにしておく。そして、生徒同士が互いに自分のワークシートを示しながら、それが何の単語のマインドマップなのかを答え合う。2つ目は、新出単語を用いた自由英作文だ。英作文を書き終えたらペアになり、新出単語を伏せながら自分の英作文を互いに音読し、伏せられた新出単語を答え合う。英語科の飯室雄大先生は、こう述べる。
「ミッシングワードがあっても、内容や前後の文脈によってそれを推測できる文章こそ、分かりやすい文章『Specific Sentence』だと言えます。そうした文章を書くための意識づけとして、1時間目の最後に英作文を行っています」
2時間目は、セクション全体の理解を深めることを目的に活動を工夫している。まず、英文を読む際のリズムを体得させられるよう、CDに合わせたウィスパーリングやオーバー・ラッピングをしたり、一方の生徒が教科書を音読し、もう一方の生徒が何も見ずにそれを復唱するペアによるシャドーイングを行ったりする。次に、教科書の英文を適宜空所にしたワークシートを配布し、ブランクリーディングをペアで行う。空所は、新出単語や前置詞、動詞など、レベル別に数種類用意している。最後に、生徒一人ひとりが教科書の英文の内容について、T-F問題や5W1Hを尋ねる問題を作成。それらを用いたQ&Aをペアで行う。
そして、レッスンによって宿題として、教科書の英文のリプロダクションを課す。
「『コミュニケーション英語Ⅰ』の授業内活動における最重要課題は、口頭でのコミュニケーションを円滑に行えるようになることです。そのため、授業では、文法の多少のミスは許容しています。しかし、正確さへの意識づけも疎かにはできないため、教科書の英文のリプロダクションを宿題とし、文法的に正しく書けるよう指導しています」(遠藤先生)
クラスメートと話し合いを重ねる中で、正確さや流暢さへの学びを深める生徒たち
「英語表現Ⅰ」では、1年間に教科書の全セクションを2回学ぶ。
1ラウンド目は、4〜12月、1つのセクションに2時間を充てて行う。1時間目の到達目標は、新出の文法事項を用いて英文が言えたり、書けたりするようになることだ。2時間目の到達目標は、書いたパラグラフを、ペアワークを通して自ら修正、改善できることだ。まず制限時間を設定し、パラグラフライティングを行う。その後、ペアワークで相手に読み聞かせてシェアし、そこで得た気づきにより自分のパラグラフを修正する活動「Revise and Write」を行う。シェアする中で自分の間違いに気づいたり、ペアの使っている表現や語彙を使って自分の文の質を向上できることが狙いだ。
「文法事項を教師が教えるのではなく、生徒一人ひとりに気づかせたいと考えました。生徒はペアワークの中で、段階的に流暢さと正確さを高めていきます。例えば、定冠詞theと不定冠詞aのどちらがふさわしいか、時制はどうすべきかといった文法事項について、クラスメートと納得のいくまで話し合い、考えを深めています」(遠藤先生)
2ラウンド目は、1〜3月、1つのセクションを1時間で実施。1ラウンド目と同じテーマでパラグラフライティングを行い、表現のさらなるブラッシュアップを目指す。中心となる活動は1ラウンド目と同じように「Revise and Write」だが、2ラウンド目では活動を発展させ、①正確さ、②流暢さ、③④Q&Aと、ポイントと相手を変えながら4回のペアワークを行う。そうして、生徒一人ひとりが英文を練り上げていく。授業の最後には、教師が生徒を指名し、その生徒が教室の前で自分の英作文を発表。クラスメートと質疑応答を行う。
「Q&Aでは、生徒は相手の質問に対してとっさに自分の考えをまとめ、答える必要があります。用意した英文を読むだけではなく、臨機応変に受け答えができる英語力も伸ばそうというねらいがあります。また、Q&Aは『コミュニケーション英語Ⅰ』の授業でも取り組んでおり、同じ活動を『英語表現Ⅰ』でも行うことで、両科目の関連性の強化にもつながると考えました」(飯室先生)
自分の成長を実感することが、主体的に学びに向かう原動力となる
生徒に成長実感を抱かせ、学習意欲をさらに高められるよう、授業では振り返りを重視する。例えば、「コミュニケーション英語Ⅰ」では、「GTEC」のスピーキングテストの練習として各自のスマートフォンに録音したスピーキングを定期的に聞き返す機会を設けている。また、「英語表現Ⅰ」の2ラウンド目の授業では、1ラウンド目の授業で自分が書いた英作文を読み返す(資料1)。
「同じセクションの同じトピックについて、1ラウンド目には50語ほどしか書けなかった生徒が、2ラウンド目では150語以上の英文を書きます。また、2ラウンド目では、『コミュニケーション英語Ⅰ』で学んだ表現を英作文に生かす生徒も少なくありません。ライティングスキルに加え、表現力の向上も実感し、生徒は『やればできる』と自信を深めています。そうした自信は、『もっと頑張ろう』という意欲に直結します」(飯室先生)
【資料1】 「英語表現Ⅰ」における生徒の英作文の例(上が1ラウンド目、下が2ラウンド目)
生徒の英語4技能を総合的に育めるよう、授業と家庭学習を両輪とする指導を推進
指導改善に取り組む中、「Learn English」と「Study English」を意識的に区別することにした。前者は「英語4技能を高め、実際に英語を言語として使いこなせるようになることを目的とする学習」であり、授業にその中核を担わせる。一方、後者は「定期考査や模擬試験などで高得点を取るための学習」であり、家庭で取り組むよう指導する。例えば、総合問題集や文法のドリル、模擬試験の過去問題などを週末課題としている。授業の予習も、「Study English」の一環だ。
「知識・技能の活用を重視する『Learn English』を充実させるためには、例えば、語彙や文法などの正確な知識・技能の定着を目指す『Study English』が欠かせません。本校では、生徒の英語4技能の総合的な育成に向け、両方を大切にしています」(飯室先生)
課題を発見し、その解決策を立案・改善するサイクルを定着させ、自立した学習者を育成
初期指導では、生徒一人ひとりが自分に合った「Study English」の教材を見つけられるよう、情報発信にも力を入れている。例えば、同校では副教材として「Classi」(*)を導入しているが、その動画教材の活用法を具体的に示す。ほかにも、インターネットの動画共有サイトにアップロードされている動画教材などを紹介する。
「Classiの動画教材は、単元・分野ごとに5〜10分程度にまとめられているため、理解に課題のある単元・分野の対策に向いています。一方、動画共有サイトでは、コミュニケーションベースの動画教材が豊富です。そうした動画教材ごとの特色を伝え、必要なものを自分で選択するよう呼びかけています。ただし、教師が行うのは、あくまでも例示です。教師が『これを使いなさい』と指導しているようでは、生徒はいつまでも自立できません。生徒には、主体的に課題を見つけ、その解決を図ってほしいという思いがあります」(遠藤先生)
動画教材を用いた「Study English」については、定期的にレポートにまとめるよう指導している(資料2)。それは、①学習内容、②学習内容を定着させるために、今後、実践していきたいこと、③実践から3〜6か月後の振り返りの3つのパートから成り、生徒各自がファイルに蓄積する。また、クラスメートに参考にしてほしい優れたレポートは、教室に掲示しクラス全体で共有している。
「学習内容を定着させるためには、反復が重要です。やりっぱなしにならないよう、今後の対策を立てさせています。また、対策を思うように実践できなかったとしても、しばらくして振り返りを行うことで、実践のどこに課題があったのかを見つけ、改善を図る機会になるでしょう。対策を立案し、その改善を繰り返す中で、生徒は自立した学習者へと成長していくと考えています」(遠藤先生)
* 株式会社ベネッセホールディングスとソフトバンク株式会社の合弁会社であるClassi株式会社が提供する、学校教育でのICT活用を総合的に支援するサービス。
【資料2】 動画視聴レポート
定期考査の採点基準を事前に明示し、意識的な「Study English」を促す
定期考査では、授業での学習内容を確認する問題に加え、発展的な問題も課す。例えば、18年度の「英語表現Ⅰ」の2学期末考査では、①条件つき自由英作文、②クラスメートを対象にしたスピーチの原稿を書かせる設問、③テーマ英作文の3つで構成されていた(資料3)。②は、口頭で発表するための文章であることを考慮し、スペリングや文法の正確性よりも、クラスメートへの語りかけとして適切な表現になっているかどうかに重点を置いて採点した。両科目の定期考査では、毎回、そうした採点基準を「テスト用ルーブリック」にまとめ、事前に生徒に配布している(資料4)。
「採点基準を示すことで、生徒一人ひとりが必要な学習を考え、準備をして定期考査に臨ませたいと考えました。そうした学習は、意識的な『Study English』になります」(遠藤先生)
【資料3】 「英語表現Ⅰ」の定期考査の問題
【資料4】 テスト用ルーブリック(抜粋)
取り組みの成果と今後に向けて
一連の指導改善により、生徒の英語力は着実に向上している。例えば、18年度の1年生には、「GTEC」のスコアを大きく伸ばす者が目立ち、英語4技能が総合的に育まれていることがうかがえる。「Learn English」と「Study English」が結びついた成果だと言える。
「「GTEC」のリスニングやリーディングの試験は、スピードが速かったり、語数が多かったりして、英語を頭の中で日本語に訳していると、間に合わなくなります。そうした試験にも対応できている生徒が多いという結果を見て、私たち教員も、本校の指導が英語による思考力を適切に育成できているのだと、自信につながりました」(飯室先生)
大きく実を結んでいる同校の指導改善だが、今後はさらなる充実を目指す。その1つが、国公立大学の個別学力検査や私立大学の個別入試を見据えた英作文の指導だ。低学年次から、アカデミック・ライティングの形式やトピックの示し方、口語と文語の違いなどへの意識づけを強化し、表現力の幅を広げるとともに、質を高めていきたいと考えている。また、生徒が間違いを恐れず、授業で積極的に英語を使おうとするためには、教師のファシリテーティング・スキルが欠かせない。そうした指導のノウハウを英語科で共有し、洗練させていくことも、今後の課題になるという。
「これからの大学入試や次期学習指導要領では、英語4技能はもちろん、それらを自在に活用しながら、考え、表現していく力がより重視されます。そうした中、本校の取り組みには一定の成果が得られていますが、指導改善に終わりはありません。今後は、本校が進めてきた『英語を使い、英語で表現する授業』をさらに発展させられるよう、先生方と力を合わせていきたいと考えています」(遠藤先生)
遠藤先生(左)と飯室先生(右)