Vol.127
アウトプットを意識した指導により、
4技能を総合的に伸ばす
長崎県立西陵高等学校
1986(昭和61)年創立の進学重視型単位制・2学期制の普通科高校。「自律・進取・友愛」の三綱と「ゆたかに(徳)・さとく(智)・すこやかに(体)」の三領を校訓とする。全員部活制で、1年次の部活動加入率は100%。真の文武両道を目指しており、運動部も文化部も全国大会等において好成績を残している。卒業後は、ほとんどの生徒が、国公立大学をはじめとする4年制大学に進学している。
- 基本情報
- 公立、共学、普通科
- 規模
- 1学年約240名
- 主な進路状況
- 国公立大は、長崎大、熊本大、大分大、山口大、広島大、長崎県立大をはじめ92名が合格(2019年度入試、現浪計)
取り組みのポイント
- ●2018年度1学年より「GTEC」を使った4技能の向上をめざし指導改善に着手。
- ●特にアウトプットを重視し、コミュニケーション英語では毎時ライティングやスピーキングを行った。
- ●CAN-DOリストの数値目標を精緻化、共有することで指導の平準化と底上げを図った。
取り組みの背景
長崎県立西陵高等学校では、2018年度1学年から英語4技能を総合的に伸ばす授業への転換を図った。背景には2021年度入試への対応と、同年に始まった長崎県教育委員会の「英語で発信できるグローバルパイオニア育成事業」がある。同事業は、英語の民間検定試験「GTEC」の受検と学習状況などを回答する質問紙調査を県立高校生に実施し、生徒の英語力を客観的に分析し、教師の指導力および生徒の英語力の充実を図ることを目的としている。同校においても、従来やや手薄だった発話の時間を増やすなど、4技能の向上を意識した授業構成にした。2018年6月に受検した第1回目の「GTEC」と質問紙調査をクロス分析した結果、この学年の特徴も明らかになった。英語力はリーディングとリスニングが県全体のレベルに比べて低く、将来英語を使って何かをしたい、英語を習得して海外に出たいという意識も、県の平均に比べて低かった。
この結果を受けて、生徒の英語力と英語に対する意識を高めるべく、2年間の英語指導の強化が始動。取組内容等も丁寧に定義した(資料1)。
取り組みの詳細
即興的に英語を使う力を育むべく、「話す」活動を中心に工夫
「コミュニケーション英語」の授業は週4コマで、1パート約1.5時間で構成されている。また、発話活動のしやすさを考え、1年次の教科書は難易度の低いものを新たに採用した。以下、授業の流れを見ていく。
①授業前の単語クイックレスポンス
授業前、教師が教室に入る前に係の生徒が単語の音声CDを流し、クイックレスポンスに取り組む。読解力向上のための単語力の向上を図るほか、授業前に発声しておくことで、発話がしやすい雰囲気と意識をつくることがねらいである。
②単語テスト
教師が教室に入り単語テストを実施。生徒に配布している単語帳の1ユニットを出題範囲として、週4回の授業のうち3回、15題の小テストを行った。3回のテストの正解率が8割未満の生徒は週内に再テストを行う。約2か月で単語帳1冊を1巡し、12月までに4回を繰り返した。3学期に再び後半のユニットだけ取り組み、年度末にまとめとして全範囲から100題のテストを実施した。平均点は77.1点だったが、基礎的な語彙力の底上げにつながった。
③本文全体のリーディング
レッスンの最初の授業のみ、最初に本文全体のリーディングを行い大まかな意味を把握させる。ただ黙読するのではなく、キーセンテンスやトピックを探しながら読ませたり、内容にかかわるキーワードを与え、それがどのパートで述べられているのかを考えさせたりするなど、内容理解を促す活動を入れながら読ませる。英語が苦手なクラスでは、ペアで話し合わせながらリーディングを行う場合もある。
④1分間のスモールトーク
続いて、ペアワークで英語の会話を1分間続けるスモールトークを行う。内容は、教科書の写真やイラストに何が書かれているかを話すPicture Descriptionや、パートに出てくる単語をその単語を使わずに説明する、前回のパートで学んだ文法事項を使って昨日の夜に行ったことを相手に説明するなど、本文の内容にかかわるテーマや既習事項について会話を行う。冒頭のクイックレスポンス同様、授業で発話しやすい雰囲気を作るためのウォーミングアップの役割もある。
生徒はあらかじめテーマを知らされていないので、その場で即興的に会話を組み立てなければならないと、英語科の雪野慶子先生は語る。
「授業では単に知識を習得させるだけではなく、即興的に英語を使える力の育成を意識しています。1年次の途中まではスムーズにいかないペアも少なくありませんでしたが、慣れてくると意欲的にペアワークに取り組むようになります」
⑤Q&Aワークシートを用いたペアワーク
本文の内容について異なる質問が印刷されたAとBの2枚のQ&Aワークシート(資料2)を、ペアの生徒に1枚ずつ配布。それぞれ筆記で回答したうえで、Aの生徒がBの生徒に、自分のシートに記載されている質問を相手に投げる。Bの生徒はその場で即興的に答え、Aの生徒と回答を共有する。同様にBは自分の質問をAに投げ回答を共有。ここでも即興性を育てるために、Q&Aワークシートの内容はあらかじめ生徒に知らせていない。
その後、予習として課している宿題の授業プリントを確認する。説明文に合致する単語を記入させる語定義、True or False、サマリーの穴埋めにより本文の内容理解を深める(資料3)。①~⑤で1パート1.5時間のうち1コマが終了する。
⑥音読活動
以上の内容把握を行った上で、音読シート(資料4)を使って音読活動に取り組む。
音読シートの裏面には、右に日本語、左に英語の語句を並べた「Sight Translation」、教科書の重要語句を抜き出した「Quick Response」がある(資料5)。本文を読む前に、裏面を使ってペアワークを行い、内容理解を深めた上で表面の音読シートに取り組む。音読シートは教科書そのままの「Original」、括弧で単語を抜いた「Standard」(標準)と「Intermediate」(中級)、確実に覚えさせたい重要語句を抜いて日本語を当てはめた「Reading with Japanese Phrases」(発展)の4パートで構成。オリジナルを音読した後、括弧抜きの標準または中級を生徒自身で選び、最後に日本語を英語に直しながらの音読というように、段階を追ってレベルを上げていく。
⑦パートごとのリテリング
パートの理解を深めた上で、パートの要点をペアやグループで伝え合うリテリングを90~120秒で行う。暗記した本文をそのまま話そうとして、120秒で足りなくなる生徒も多い。時間内に収まるように、いかに自分の言葉で発話できるかがポイントになる。
リテリングでは、生徒自身が本文の要点をイメージして描いたイラスト(1コマ目終了後に宿題として課す)をもとにプレゼンテーションを行う(資料6)。最初はペアで1人が発表をし、もう1人が聞き手となる。聞き手は、発表が制限時間よりも短い場合はイラストについて質問を行い、発表者が英語を話し続けるための援助者にもなる。次にペアを変えたり、4人グループにしたりと形を変え、発表回数を重ねることで、生徒は自信を持って伝えることができるようになる。
「イラストを元にリテリングを行う活動が、1年間の授業の中でもっとも自分が成長できたと、アンケートに書く生徒は少なくありません。言葉で理解した内容を自分でイメージ化しリテリングすることが、思考力や英語力を伸ばすことにつながることを実感しているのではないでしょうか。また、各レッスンの最後には全パートのイラストを使って、3~4分間で本文の内容に、自分で調べた新しい情報を加えたプレゼンテーションを行っています」(雪野先生)
WPMなどの数値目標を設定し、学校全体で指導改善を推進
県の事業が始まってCAN-DOリストの精緻化も進んだ(資料7)。従来同校で使用していたCAN-DOリストでは、同校の実状に合わない部分も多かったという。この学年から、英語4技能を総合的に伸ばす観点から、「GTEC」の結果を参考に、生徒の英語力に合わせたリストに修正した。
最も大きな変化は、学年ごとの目標値を明確にしたことだ。例えば、スピーキングの「発表」では、1年次前期は30語、後期は40語、リーディングでは1年次前期はWPM70、後期はWPM80など、「GTEC」の結果をもとに、学年ごとの数値目標を定めた。
雪野先生は、客観的な指標に基づいた適切な目標設定をすることの意義を次のように語る。
「教師によって指導の方法や教材が異なることはありますが、CAN-DOリストで育てたい力を共有することにより、同じ目線で指導にあたれたことが4技能の向上につながりました」(雪野先生)
取り組みの成果と今後に向けて
4技能を総合的に伸ばす指導改善により、生徒の英語力は1年間で飛躍的に向上した。特に「GTEC」の伸びが大きかったのがリーディングとリスニングである。1年次→2年次のリーディングのスコアの伸び(資料8)は36.1、伸び率は27%。CEFRレベル別度数分布(資料9)は、1年次にA1が全体の約70%、B1は0.8%に過ぎなかったが、2年次はA1が約33%まで減り、A2が約53%に、B1が約15%に増加した。同じくリスニングのスコアの伸びは29.6、伸び率は21%。度数分布も1年次はA1が約74%、B1は2.6%だったが、2年次はA2が約51%、B1が約10%となった。4技能全体でも、スコアの伸びは109、伸び率は17%となり、A1は66.5%から28.7%へ半減、A2が33.1%から67.4%へ倍増した。
総じて、英語が苦手だった中下位層の生徒のスコアが大きく伸びる結果となっている。
「中学時代にあまり手をかけられてこなかった生徒たちが、4技能をバランスよく取り組むことで自信を持てるようになった結果でしょう。この学年は、進研模試においても例年以上の成績を上げており、4技能の向上が入試学力にも有効であることを証明していると考えています」(雪野先生)
県の事業が始まったことで、同校の生徒の実態をより正確に把握できるようになったことも大きな成果である。「GTEC」のスコアの推移だけではなく、県全体との比較や全国との比較などが容易になった。「GTEC」とあわせて行われた質問紙調査により、教師・生徒とも英語での発話の割合が県内の他校より高いことも分かった。
今後の課題は成績上位層の生徒の引き上げである。4技能全体のCEFR度数でも、B1は1年間で0.4%→3.9%まで伸びたが、成績中下位層の生徒の躍進に比べると目立って増えていない。入試への対応力をつけながらB1を増やすことが3年次に向けての目標となる。
【資料1】 「GTEC」結果分析と今後の授業等での取組
【資料2】 Q&Aシート
【資料3】 授業プリント
【資料4】 音読シート(表)
【資料5】 音読シート(裏)
【資料6】 プレゼンテーションに用いるイラスト
【資料7】 CAN-DOリスト
【資料8】 「GTEC」のスコアの伸び
【資料9】 CEFRレベル別度数分布