田尻先生
読解の部屋

 前期に英語科教育法を取っている学生に教科書本文を使って模擬授業をさせると、ほとんどが和訳と構造分析をして終わりです。それくらい、中高での訳読式の授業が体に染みついているのです。授業者にそのやり方が楽しいかと尋ねると、「つまらないことはない」とか「やっていて熱が入った」という答えが多くを占めますが、生徒役の学生に聞くと、「楽しくない」と言います。つまり、和訳や構造分析は「自分がやるからこそ楽しい」のであって、教師の説明を聞くことは楽しくない上、学びがありません。読解は、生徒の活動であることをまず認識してください。

 では、どうやって生徒の活動にするか。それは、教師の適切な指示・発問がカギです。いい指示・発問があると、生徒は何度も黙読します。そして、そのときは「わかりたい」という意欲を持って、英文そのものを味わいます。

 さて、次の対話文で、「それはおかしいでしょ」と思う部分を見つけ、自分ならこう言うだろうという文を英語で書いてください。

 〔例〕A: Hey, Goro. What time is it now?
    B: It's 12:15.
    A: Then, what time is it in New York now?
    B: Japan is 13 hours ahead, so it's 11:15 there.

おそらく、「おかしいところを探せ」という発問でこの対話文を何度も読み返されたと思います。そのときは、和訳や構造分析をするのではなく、1つひとつの語の意味をかみしめられたのではないでしょうか。英語の文字から場面、状況、登場人物の姿形、性格、心情などを読み込むのが読書です。和訳を先にしてしまうと、英文を読書することがなくなってしまいます。

 さて正解はというと…、特にありません。上記の例文も対話文として立派に成り立ちます。ただし、もっと丁寧に答えるのなら、in the morning や曜日などをつけたほうがいいという考えもあると思います。でも私なら、まず最初に「何でこの人はニューヨークの時刻を知りたいんだろう?」と思うでしょうから、"Do you want to talk with someone in New York? It's 11:15 p.m. so it's too late to make a phone call there." ぐらいでしょうか。

 これは教師の発問で生徒が頭を使い、指示で動く(この場合は英作文)一例です。いい指示・発問は、まず先生が教科書本文を読み込まないと思い浮かびません。私も日々、大学の教科書と格闘しています。大学入試が終わり、目的を持てないまま90分の英語の授業を受けに来る学生が、時間が経つのも忘れて勉強するにはどうしたらいいか。これは、英語教師としての命題です。いい指示・発問が思い浮かべば授業に行くのが楽しいのですが、思いつかないときは大学に行く足取りが重くなります。だからこそ、同僚やネットワークがあるのは素晴らしいと思います。一人で思いつくことなど限度がありますからね。

 私は教科書本文を生かすいい指示・発問が思いつかないときや、どうしてもこのページは面白くすることができないと思った場合は、センスグループ訳や漢文読解をします。


 1.まとまった文章を読み、各文を意味の固まりごとに分けるとしたら、
   どこにスラッシュを入れればいいか考える。
 2.友だちと比較・検討する。
 3.教師のスラッシュ案をプリントでもらい、教師と討論する。
   納得した生徒は、センスグループごとに日本語にしていく。
   納得できない生徒は教師に食い下がる。
 4.生徒同士でセンスグループ訳を比較・検討したあと、教師の模範解答をもらう。
 5. 納得した生徒は、なるべくひらがなとカタカナを排除し、漢字と記号で訳をしてみる。

  〔例〕
   "I thought, / 'My coat! / My purse!'" / she recalls. /
   They were / both / back / at seat 18E, / where / she was sitting /
   when / the jetliner / hit birds, / destroying / its engines /
   and forcing it / to ditch / in the Hudson.

   「私思た/『私コート!/私小鞄!』」/彼女思出。/
   (コ&財)在た/両方/戻/18E座席、/<詳>に/彼女座てた/
   時/旅客機/打鳥、/破壊ながらエンジンs/&強制(機)/不時着/ハ川。


 ( )は代名詞を意味し、( )内にはその代名詞が指す名詞や文を入れます。< >は後置修飾部分を入れます。漢字は表意文字ですから、漢字だけでも意味がかなりわかります。なるべく漢字と記号を多く使ってセンスグループ訳をしなさいと言うと、英語の授業に漢和辞典を持ってきて、英語と漢字の勉強を楽しんでいる生徒の姿が見られます。

 センスグループ訳は、英語ネイティブの人たちがどのように英文を理解していくかが疑似体験できます。つまり、上から意味の固まりごとに理解していくやり方です。センスグループ訳が終わってすることがなくなった生徒は、これを美しい日本語にしていく作業を行ってもかまいません。すなわち、全文訳です。よく宿題で予習として全文訳をさせる先生がいますが、全文訳は芸術ですので、いきなりさせるのはどうかと思います。前述の英文を和訳すると、次のようになるでしょう。

  〔和訳〕   「私は『あ、コートと鞄!』と思いました」と彼女は振り返る。
  それらはいずれも、旅客機が鳥にぶつかったとき彼女が座っていた
  18番Eの座席にあり、鳥は両エンジンを破壊し、飛行機をハドソン川へ不時着させた。

 和訳は日本語の力を要求しますので、まずは英文をそのまま味わい、英文が体に入った後、国語の勉強として位置づけ、希望者にやらせるというスタンスではいかがでしょうか。

 
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