Vol.113
複数技能を段階的に伸ばす取り組みを導入し、
統一感のある英語指導の検証と実践
宮崎県立宮崎大宮高等学校
1888(明治21)年に宮崎県会尋常中学校として開校。「稚心を去れ」、「自主自律」、「質実剛健」という校是の下、知・徳・体の調和のとれたたくましい人材の育成を目指す。
2015(平成27)年度からの5年間、スーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定を受け、国際社会で活躍できるグローバルリーダーの育成に向けて、英語4技能の向上を図っている。部活動加入率は各学年とも8割を超え、山岳部やソフトテニス部などはたびたび県大会や全国大会への出場を果たしている。
- 基本情報
- 公立、共学、普通科・文科情報科
- 規模
- 1学年400名
- 主な進路
- 国公立大は、東京大3名、京都大1名、九州大36名、大阪大9名、東北大5名、一橋大2名、熊本大27名、鹿児島大23名、宮崎大53名、広島大15名をはじめ306名(2017年度入試)
取り組みのポイント
- ●「コミュニケーション英語」では、4技能バランスのとれた指導を目指し、4技能をフル活用する内容で展開。
- ●初期段階で英語のパラグラフ構成を身につけられるよう、1年次1学期の「英語表現」にエッセイライティングを導入。その後のディベート活動等へつなげる。
- ●シャドーイングを「リスニングや速読のベース」、英文の再生を「英作文のベース」と位置づけ、生徒が自主的に取り組むよう促す。
取り組みの背景
県内随一の進学校として知られる宮崎県立宮崎大宮高等学校では、現行の学習指導要領が全面実施された2013年度から、英語4技能の指導や外部検定試験を取り入れた「英語表現」と「コミュニケーション英語」の授業を行っている。3年間のシラバスの下、英語科の教師が連携し、各学年の到達目標を共有。各学年がクラスや学科に関わらず、同じ教材を使って系統的な指導方法を実践している。
英語科主任の栗原英子先生は、2009年に着任した際の状況を次のように振り返る。「学年ごとにばらばらな指導が行われ、採用している外部検定試験も年度によってまちまちでした。段階的に力を伸ばせる授業構成になっていないためか、生徒の学力も不安定でした」
現行の学習指導要領が全面実施された2013年に、高校1年を担当した栗原先生含む学年団の先生で「高校1年次の英語の単位数減」への対応として、ティームティーチングの効果的なあり方や進め方について指導改善の検討を始めた。限られた授業単位数を有効に使うため、現在の指導の土台となる4技能向上を打ち出す。そして、昨年、高校3年間のシラバスを正式に学校として完成させた。現在は、そのシラバスに基づいて同一の教材を扱うため、一つ一つの教材の効果的な扱い方について検討・修正を行っている。
取り組みの詳細
1年次から4技能をフルに活用するスタイルの授業を実践
英語科では、初期指導を重要テーマと位置づけている。そこで、1年次の4月には、予習・復習の仕方や音読の重要性、辞書の活用法といった高校での英語学習の基本となる内容を、入学オリエンテーション時に指導する。
英語学習のルールを生徒が理解したところで、「コミュニケーション英語」と「英語表現」の授業が始まる。「コミュニケーション英語」では、補助プリントを基に4技能をフル活用する形で授業が進められており、レッスンの終わりには、英文の再生ができる状態を目指している。
「生徒は最初はきつそうですが、このスタイルに慣れる2学期以降は、授業の進度をアップしてもついてこられるようになります」(栗原先生)
3学期には定期考査前に教科書が一通り終わることができるため、長文読解対策の問題集等にも取り組むことができている。
1年次1学期のエッセイライティングでパラグラフ構成の型を身につけ読解力のベースをつくる
「英語表現」では、1年次の1学期にエッセイライティングに取り組む。エッセイライティングは「英語表現Ⅱ」の教科書に載っているため2年次で実施する学校も多いが、あえて1年次の初期段階に導入している。その理由は、簡単な語い・文法をもとに英文エッセイを書いて英語の文章構造を頭に入れることができ、2学期から取り組むディベートに向けて意見を構築するためのベースがつくれるからである。また、2年次で長文読解指導を行う際に、基本の構成が頭に入っているとリーディングのスピードがアップするという効果も期待されている。
書き上げたエッセイは、ポスターセッションという形式で発表される。一人ひとりが自分のエッセイと連動する内容のポスターを作成し、それをもとにプレゼンテーションを行う。プレゼンテーションを行ったり聴いたりすることによって、ライティングとスピーキング、リスニングの技能を伸ばすことがねらいだ。
ディベートコンテストへの取り組みで4技能を総合的に高める
1年次2学期からは「批判的思考力を養う」という授業テーマでディベートの要素を養い、3学期にはディベートコンテストを開催する。ディベートはリスニングとスピーキングの力を伸ばすための取り組みと思われやすいが、それだけではないと栗原先生は話す。「コンテストではアカデミックなテーマを設定しているので、生徒は事前準備としてたくさんの英語文献を読み、本番で話す内容を原稿として完成させる必要があります。しっかりした内容の英文を書かせるためには、何回も書き直しが求められます。コンテストの準備段階ではリーディングとライティング、本番ではスピーキングとリスニングと、4技能を総合的に伸ばすことを目指しています」
1年次でのディベートを経て、2年次では即興ディベートに取り組む。準備なしでまとまりのある言葉を話したり聴いたりしながら、生徒はスピーキングとリスニングの力をさらに高めていく。
複数技能の向上に役立つシャドーイングに生徒が必然的に取り組むよう仕掛ける
栗原先生にとって、「自宅でシャドーイングに取り組ませるにはどうすればよいか」は長年の課題だったという。シャドーイングは何回も行うことで、リスニングの力が伸びたり、英文を頭から理解する癖が身につき速読力が上がったりするメリットが期待できる。しかし、シャドーイングは目に見えない、形に残らない課題のため、重要性をいくら説明しても、提出する宿題などに追われて十分な量をこなせる生徒は多くなかった。そのため、生徒が必然的に取り組む仕掛けとして、シャドーイングと学期毎のインタビューテスト(各レッスンに関する口頭テスト)や定期考査の連動を検討した。
定期考査では、教科書から選んだ英文の音声を聴かせ、ディクテーションさせる問題の出題やインタビューテストを行った。音声の中には複雑な構文も出てくるため、テスト対策として繰り返しシャドーイングをやっていないとディクテーションや実際の応答が難しく、点数が取れない。「本気になってくれればと考えての試みでしたが、実際、多くの生徒がシャドーイングにきちんと取り組んだようです」
外部検定試験を活用して4技能指導の成果を検証
2015年度からは、指導の成果を測る指標として、全学年でベネッセの「GTEC」を受検している。GTECは4技能受検が前提であり、技能ごとにスコアが出てくる。授業で実践している4技能指導によってそれぞれの技能がどのように伸びているかを検証したり、生徒一人ひとりについて技能ごとの凹凸を確認したりするのに向いたツールと捉え、活用している。また、4技能の向上を軸にした英語科のシラバスとマッチする内容のため、対策のための時間を取る必要がない点も評価している。
また、定期考査や模試だけでは把握しきれない生徒の英語力を把握するツールとしても、GTECを役立てているという。「例えば、リーディングにおいて本校の定期考査では、模試と似たタイプの、難関国公立大の個別学力検査を意識した問題を出題しています。一方でGTECは、文章が難しいわけではないものの速読速解が求められるので、定期考査や模試には反映されない力を測ることができます。またスピーキングやライティングにしても、本校の教師が気づかない観点からの評価が受けられます」
導入当初は年1回実施だったが、2017年度からは、指導内容をより短いサイクルで振り返るため、1・2年次は6月と12月の年2回実施に切り替えている。結果は過年度・過回のものもあわせて英語科会で分析し、具体的な指導改善に活かしている。
取り組みの成果と今後に向けて
4技能統合型の指導を5年にわたって実践してきた結果、栗原先生は「リスニングとリーディングの力を維持しつつ、スピーキングとライティングを伸ばすことにつながるのではないか」と感じているという。シラバスの改変から5年目を迎え、現在、小テストの内容や問題集の進め方など細かい部分も含めて、指導の内容について一つずつ検証を進めている。「これまでの指導をブラッシュアップしながら継続していけば、大学入試の英語4技能評価にも対応できるのではないか。これからも検証を続けていきます」 と栗原先生は話す。