Vol.111
Enjoy making mistakes!の姿勢を浸透させ、
間違いを恐れずに英語を使い、失敗経験から学ばせる
島根県立松江商業高等学校
1900(明治33)年に開校した島根県商業学校を前身とする。校訓は「誠実・質素・勤勉」。入学時はくくり募集とし、2年次に希望進路に応じた3学科に分かれる。ビジネスやICT、語学に関する資格取得が盛ん。様々な検定の1級取得を目指して、生徒は日々勉学に励む。
学習の成果を発表する場として、2012(平成24)年度から毎年「松商だんだんフェスタ」を開催。販売実習・イベント・キッズビジネススクール・フードコートの企画から運営まで、すべてを生徒の手で行う。6回目を迎えた2017年度は、2日間で約9000人が来場した。
- 基本情報
- 公立、共学校、商業科・情報処理科・国際ビジネス科
- 規模
- 1学年200名
- 主な進路
- 4年制大は、山口大2名、佐賀大1名、島根県立大2名をはじめ36名。短期大学13名、専門学校等60名、就職82名。(2017年3月卒業生)
取り組みのポイント
- ●“Enjoy making mistakes! ”の精神を浸透させ、間違いを恐れずに英語を使う雰囲気をつくる。
- ●他教科と連携した指導で、英語ディベート大会出場や、日米の財務諸表分析の英語プレゼンテーションを実施。
- ●3年間継続してGTECを受検できるようにし、英語力の伸びを実感させ、学習意欲につなげる。スコアの上位者は学校全体で表彰する。
取り組みの背景
島根県立松江商業高等学校は、県の商業教育の拠点として、地元産業の担い手を多数輩出している。簿記や会計、情報処理などの資格・検定試験の受験ならびに資格取得に力を入れており、その取得率も高い。
生徒の学習意欲は総じて高いが、その多くが資格取得に対してであり、教科学習にも意識を向けることで生徒の力はさらに伸びるのではないかという思いが、英語科の岩田昌子先生にはあった。
「毎年1〜2月は多くの資格・検定試験が重なる時期で、特別授業に組み替えて、試験対策にあたります。生徒は、1つの試験が終わると、ぱっと次の試験に向けて集中して勉強し始めます。その切り替えの速さや集中力の高さは素晴らしいのですが、試験の時のみにとどまる傾向にあり、あまり長続きしません。しかし、学習は生涯続くものです。ポテンシャルは十分あるのですから、卒業後も自ら学び続ける姿勢を育みたいと考えました」
また、岩田先生は、英語は実技教科であり、失敗を繰り返す中で成長できるという思いもあった。
語学は、成功体験というよりも、生徒が自ら話したり書いたりして、間違えたら次はこうしようと考える中から多くを学ぶのだと思います。本校には英語を苦手としている生徒が多いので、『英語は楽しい』と感じさせることで学習意欲も高めたいとも考え、生徒が英語を使う場面を多く取り入れようとしました」
取り組みの詳細
“Enjoy making mistakes! ”で間違いを恐れず英語を話せる雰囲気をつくる
岩田先生が授業で最も大切にしているのが、生徒が間違いを恐れずに英語を使う雰囲気づくりである。年度の最初の授業では、生徒に“Enjoy making mistakes.”と伝える。間違いは次の学びにつながることであり、周りの人の学びにもなる。だから、間違いを恥ずかしがったり、恐れたりして黙ってしまわずに、どんどん発言しようと呼びかける。
そして、毎回の授業では、黒板に“Enjoy making mistakes.”と書いた紙を貼り、生徒が間違えた時には、「みんなのために間違ってくれてありがとう」と言い、生徒が発言しやすい雰囲気づくりに努めている。
また、生徒の発言が増えると、教員が予想していない発言が出てくることもある。そうした発言を拾い、教室全体に広げ、ほかの生徒に気づきを促し、視野を広げさせていくことも、岩田先生は大切にしている。
授業は、教員が教える「静」の時間と、生徒が活動する「動」の時間を組み合わせて展開している。
動の活動は主にペアやグループによるワークだ。列ごとレースやクリスクロスゲームなどを取り入れ、ゲーム感覚で学べるようにしている。質問の内容も、新出単語の意味だけでなく、単語の反意語や同義語と、生徒が予習していないようなこともあえて質問している。
「ちょっとしたドキドキ感を授業に取り入れることで、難しいかなと思うような活動でも、生徒は積極的に取り組みます。そうした活動の回数を重ねていくと、生徒の英語を話すことへの抵抗感がどんどん低くなっていきます」(岩田先生)
単元の前と後、そして毎回の授業で振り返りの場を設ける
学習意欲の継続を促す取り組みとしては、単元及び毎回の授業の「ポートフォリオ(ふりかえりシート)」の取り組みが挙げられる。
まず、単元が始まる際に、単元のテーマに関して自分が持つ知識をポートフォリオに書かせ、単元終了後には授業で学んだことや考えたことを踏まえて、再びその知識に関して書かせる。単元の前と後で書いた内容を比べて、授業を通して自分がどのように変化したのかをメタ認知させ、達成感を味わわせるのがねらいだ。
一方、毎回の授業では、「今日の授業で一番大切だと思うこと」「今日の発見!」「考えたこと、疑問に思ったこと」などを書かせて提出させる。これも、毎回の授業での学習の成果をメタ認知させるというねらいがあり、さらにここで出てきた疑問を次の授業で取り上げて、生徒の視野を広げるという目的もある。
「授業中には言えなくても、授業が終わってじっくり考えると出てくる疑問もあります。そうした中には、生徒ならではの視点の疑問もあって、それを次の授業で生徒に伝え、みんなで一緒に考えるようにしています。授業ではライブ感も大切です。生徒の声を拾い、それを教室に広げて、生徒を起点にした授業を展開するように心がけています」(岩田先生)
生徒は、クラスメートから出された疑問だからこそ、自分事として真剣に考え、そして自分にもそうした視点が持てるのではないかと刺激を受ける。そして、教員自身も、予想していなかった生徒の声に大いに刺激を受けるという。
こうした振り返りを2〜3か月続けると、生徒は次第に慣れてきて、まとめる力がついてくるということも大きな成果だ。
【資料1】 ポートフォリオ(ふりかえりシート) 表面
【資料2】 ポートフォリオ(ふりかえりシート) 裏面
他教科の教員と連携し、英語ディベート大会や、財務分析の英語プレゼン大会にも参加
生徒が英語を使う場は、校外にも広げている。英語ディベート大会には2016年度から参加しており、2017年度は島根県大会に2チームが出場した。
「県大会には、県内の専門高校として初めて出場しました。全国大会出場はかないませんでしたが、生徒たちは練習の成果を十分発揮して、2チームとも1勝ずつできました。堂々とやり遂げた経験は、生徒にとって大きな自信になったと思います」(岩田先生)
国際ビジネス科の英文会計の授業では、外国と日本の企業それぞれの財務諸表を見て、企業の安全性などを導き出し、なぜ売り上げが海外と日本の企業とで大きく違うのか、負債が多いのはなぜか、様々な疑問を解決していき、それらの分析結果をまとめて英語でプレゼンテーションをした。英語での発表はもちろん、財務諸表も外国のものは英語で書かれているため、英語学習の重要な機会となった。
これらの活動では、商業科の教員が活動の内容面、英語科教員は英語によるアウトプットについて指導し、両者が連携しながら指導している。
「生徒の専門分野である商業において、英語がどのように役立つのかを実感できる機会にもなっています。教員にとっては、商業の分野で素晴らしい知識を持っているという生徒の一面を知ることができ、生徒を多面的に捉える機会になっています。他教科の先生方と連携することで、生徒も活動を多面的に捉えることができ、学びが深まっていきます。今後も教員間で協力し、様々な活動を取り入れていきたいと考えています」
GTECを1年生から継続的に受検し、長期的な英語学習につなげる
様々な活動をつなげて、生徒の英語に対する学習意欲を高めようと始めたのが、GTECである。全商英検の全員受検を希望者実施に切り替え、替わりにGTECを1年生で全員が受検。2・3年生では国際ビジネス科が全員受検とし、商業科・情報科学科は他の検定との兼ね合いで希望者受検としている。
「生徒にとって、試験に合格・不合格だけでなく、過去のスコアと比べて自分がどれだけ伸びているかが目に見えることがうれしいようです。3年生になって進路が決まると、検定試験へのモチベーションは1・2年生の頃よりは低くなりがちなのですが、GTECの場合には『グレードが○になりたい』と自分で目標を立てて、頑張っている生徒もいます」(岩田先生)
受検前には、授業で『STEP UPノート』の活用の仕方を説明して取り組ませる。
「GTECの問題を授業中に見せて、出題形式を確認したり、『STEP UPノート』でも自分のスコアより少しレベルが上のページに取り組むといいよとアドバイスをしたりしています。そして何より、日頃の授業や家庭での学習がよりよい結果に結びつくよと生徒に話しています」(岩田先生)
こうしたアドバイスをしっかりすることで、試験後の復習に生徒が自主的に取り組めるようにしている。
また、受検者全員の中から、スコア上位10名、スコアが伸びた生徒10名を表彰している。スコア上位者だけでなく、「伸び率」に着目して表彰することが、生徒の達成感につながり、次の学習意欲に結びつくと考えている。
「スコア上位者では、表彰者が毎回同じ顔ぶれになりやすいですが、伸び率となると毎回表彰される生徒が異なります。そうしたことも生徒の学習意欲を刺激していると感じます」
取り組みの成果と今後に向けて
間違いを恐れずに英語を使おうという雰囲気づくりに努め、さらに活動中心の授業にしてきた結果、生徒たちに英語を使うことへの抵抗感がだいぶ少なくなり、授業中の活動も活発になってきた。英語ディベート大会や英語のプレゼンテーションでも、生徒たちは堂々と英語のスピーチを披露し、果敢に英語でのやりとりを行うようになった。
そうしたアウトプットに積極的な姿勢は、GTECのライティングの解答にも表れているという。
「自由英作文でも、しっかりと自己表現できている生徒が増えており、日頃の授業でアウトプットをすることに慣れてきたからだと思います。GTECのライティングのテストでは、自分の意見や思いを書くことがプラスに評価されます。単語や文法を間違っても減点されるのではなく、加点評価で採点している点が、生徒にとって問題に取り組む意欲につながっていますし、それがよいスコアに表れていると感じています」(岩田先生)
今後の課題は、生徒の学習意欲を長期的なものとしていくことである。同校では、1人1冊のスケジュール帳を持ち、自己管理を促しており、面接試験に向けて先生に面接の練習をお願いしようといった、先を見通して計画的に行動できる生徒も増えつつある。そうした取り組みを生かしつつ、生涯にわたって学習し続ける姿勢を育むことが目標だ。そのためには、教員間の連携も強化したいと語る。
「商業の専門分野と英語の専門分野をうまく融合させることで、生徒は教員の予想以上の力を発揮することが分かりました。これからも学校全体で、自分の専門分野を生かして活躍できる生徒を育てていきたいと思います」(岩田先生)
岩田 昌子先生