GTEC通信生徒の英語力を高めるヒント

全国各地の先進的なお取り組みや、身近なご指導事例など、生徒の英語力を高めるためのヒントをご提供します。

Vol.108

中学1年生から多読を取り入れ、
英語への抵抗感をなくし、要点をつかむ力を育む

慶進中学校・高等学校

慶進中学校・高等学校

1928(昭和3)年創立の宇部裁縫女学校を前身として、1945(昭和20)年、宇部女子商業学校を設立。校名改称や改組を経て、2002年(平成14)年、現校名にして男女共学化。2004(平成16)年、宇部女子中学校を再開する形で中高一貫教育を開始した。校訓は「独立自尊」「至誠一貫」「敬愛感謝」。中高一貫6年制では、2年ごとの3つの成長ステージで、生徒の力を伸ばす。高校3年制では「アドバンスコース」「グローバルコース」を設け、希望進路に応じた指導を展開。

基本情報
私立、共学、普通科
規模
中高一貫6年制1学年60名、高校3年制1学年180名
主な進路
国公立大は、東京大2名、名古屋大1名、大阪大2名、島根大2名、岡山大2名、広島大3名、山口大28名、九州大6名、国公立大学医学部医学科現役7名をはじめ70名(2017年度入試)

取り組みのポイント

  • 幅広いレベルの英語図書をそろえて多読を行い、大量の英語に慣れさせるとともに、単語を推測しながら、概要をつかむ力を鍛える。
  • 毎年5月、中学生と高校生の2部門で校内スピーチコンテストを実施。上位入賞者は、市や県の大会に出場。
  • 中3〜高2では、同じタイプ(Advanced)のGTECを受け、上位者を表彰。学年を超えた生徒同士の切磋琢磨の場とする。

取り組みの背景

 生徒の希望進路が主に国公立大学という慶進中学校・高等学校では、センター試験の英語の問題において、長文読解の語数が多くなってきたことに対応するため、大量の問題文を素早く読み、要点をつかむ力を育む必要性を感じていた。さらに、難関国公立大学を目指す生徒が多いことから、個別学力検査の対応という意味でも、速読の力は育成したいと考えた。
 高校3年生の英語を担当する藤野恭平先生は、「大学入試での英語の問題文は語数が多くなる傾向にあり、長い英文を読むことに慣れるため、英語に触れる機会を圧倒的に増やす必要性を感じていました。また、センター試験でのリスニングテストでも素早く要点をつかむ力が求められています。本校が中高一貫であるという強みを生かして、中学時代から大量の英語に触れさせて、英語に慣れ、また一つひとつの意味が分からなくても、要点をつかめるように英文をとらえられる能力を育みたいと考えました」と説明する。同校では、学年の英語力等の状況も加味しながら、要点をつかむことを軸に置いた英語指導を展開している。

取り組みの詳細

中学1年生から多読を続け、単語を推測しながら、要点をつかむ力をつける

 同校では、2013年度から多読を英語指導に取り入れている。図書室にPenguin Readers、Oxford bookwormsなど、英語を学ぶ外国人向けのGraded Readerを用意。生徒は辞書を使わず、普通に読書を楽しむように、それらの本を読み、終わったら、1人1冊配布された「多読帳」に冊子のタイトルや内容の感想などを記録して、教員に提出する。
 Graded Readerは、レベル別に使用する単語や文法事項、全体の語数が制限されており、自分の英語力にあった本を選ぶことができる。また、本の内容は、オリジナルのストーリー以外に、名作文学や映画をダイジェストでまとめたものや、環境や動物について書かれたものなど、生徒が知っている内容も多く、分からない単語や文法があっても、推測しながら読みやすいという利点がある。
 「知っている内容の本をあえて選ぶ生徒もいます。多読では、1語1語の意味を完璧に理解する必要はありません。前後の文章から単語を推測して読み、内容を8割ほど理解するようにしようと、生徒には伝えています」と、英語科主任の前田一郎先生は説明する。
 現在は、自分で英文を読み進められるようになる中学1年生の夏休みから多読を行っている。中学1・2年生では長期休暇中を利用。授業時間を利用する学年もあった。また、中学3年生では朝学の読書の時間を利用し毎日英語に触れるようにしている。授業で行う場合には、生徒は、本の置いてある図書室に行き、1コマ50分の間、英語で書かれた本を読み続ける。担当教員も一緒に本を読み、本選びに迷う生徒にアドバイスをする。
 「『あなたの英語力ならこのレベルは読めるのでは?』とレベルについてアドバイスしたり、生徒の関心に応じて『この内容は読んでみるといいよ』と薦めたりしています。そうした教員とのやりとりは、生徒の意欲を刺激するようです。生徒同士でお勧めの本を、日本語で紹介する時間も年数回設けています」(前田先生)
 また、1日に読む語数の目標を、中学1年生では300語、中学2年生では500語、中学3年生では1000語と設定。中学3年生であれば1分間で平均100語を読めるため、1000語は10分間程度で読み終わる。毎日読めなくても、週に数回は30分程度読み、多読帳を提出させるよう指導する。そして、高校生になると、生徒に活動を任せる。高校1年生は多読帳を定期的に提出するようにしているが、高校2・3年生はそれも義務付けていない。
 「中学2〜3年生の間に、1人平均約25万語は読んでいます。そうして英語の本を読む習慣をつけておき、高校3年生になる頃には、勉強の合間の息抜きとして、英語の本を読むようになることを目標としています」(藤野先生)
 また近年では、オンライン上で生徒と教員の共有アカウントを作成し、生徒は読んだ英文に関する感想と、使ってみたいと思った英語表現を投稿する取り組みにも着手している。クラス全員がコメントを閲覧できるので多様な意見を知ることができ、また、明らかな誤読を教員が確認・訂正できる環境ができるため、生徒と教員間のコミュニケーションが深まっている。

校内スピーチコンテストで、英語を話すことは特別じゃない!という雰囲気を醸成

 毎年5月、中学生と高校生の2部門で、校内スピーチコンテストを実施している。これは、毎年、県や全国で開かれる英語スピーチコンテストに出場するための校内予選となる。中学生の部では、「高円宮杯全日本中学校英語弁論大会」を大きな目標として、校内大会の上位入賞者が、県の地区大会の出場に向けて、スピーチの内容を練り、校内での練習を経て、最終的な出場者を決めるという。
 中学生の部であれば、例年50人ほどがエントリーするが、これは中学校全生徒の3分の1にあたる。そして、エントリーした生徒を対象に、週1回、練習日を設け、英語科教員が指導する。

 「本校の生徒は英語を話すことに馴染みのない生徒が大半です。そんな生徒たちが、先輩や友人が壇上で英語でスピーチをしている姿を見て、『自分にもできるかも』と思い、翌年にエントリーする生徒もいます。多くの生徒が参加することで、周りの生徒にも『英語を話すことは特別なことではない』という意識が浸透していきます」(前田先生) 

GTECで英語力の伸長を見える化し、英語学習の意欲を高め、教員は指導改善に役立てる

 GTECは、10年以上前から指導に取り入れており、今では中学1年生から高校3年生までが半年に1回受検し、英語力の伸びを測っている。
 「GTECは、英語力が技能別にスコアで表示されるのが、やはり大きな魅力です。受検を継続することで、生徒一人ひとりの英語力の推移が見える化され、生徒の英語学習のモチベーションにもつながっています」(藤野先生)
 結果は、学年ごとに分析し、指導改善に活用している。「教科会では、教員一人ひとりがGTECの結果分析を基に、指導の振り返りと改善点を述べます。各先生の指導の強みも分かり、自分の指導の参考にすることもあります」(前田先生)
 生徒に好評なのが、ライティングのネイティブ・スピーカーによる添削だ。普段の授業や定期考査でも担当教員から英作文の添削を受けているが、生徒にとっては日本人教員にわざわざ英文にして伝えることはない。日本語の通じないネイティブ・スピーカーだからこそ、英語で書いて伝える必然性があり、自分の書いた英語が外国人に本当に通用するのだという喜びを感じられるのだという。
 「本校がGTECを受検し始めたのは、自由英作文が大学入試で出題される傾向が強まったことも背景にあります。本校の指導の独自性として、自由英作文の対策に力を入れようというねらいもありました」
 付属学習教材の『STEP UPノート』は、事前学習に活用している。
 「GTECで成果を出せれば、生徒の自信になり、その後の学習意欲につながります」(藤野先生)
 特に、ライティングの指導に力を入れている。英語力だけでなく、書く内容を持っていないとアウトプットができないからだ。そこで、『STEP UPノート』に例示されたテーマ以外にも、GTECの過去問題や教員が予想した出題テーマと合わせて5〜10のテーマを提示し、その中から生徒にテーマを選ばせて英作文を書かせて、全員に提出させている。1人ずつ添削をして、コメントを書いて返却する。
 「あまりに書けない生徒に対しては英文の型を示しますが、中学生からあまり型にはめすぎるのはよくないと思うので、生徒に自由に書かせるようにしています。添削もGTECの添削と同じように、ネイティブ・スピーカーに通じるかどうかという観点で見て、構成や内容面をチェックしています。単語や文法のミスは下線を引くなどして、注意を促す程度にとどめています」(藤野先生)
 生徒の振り返りでは、GTECのCAN-DOリストを示して、どこを改善すればグレードがあがるのかを確認させ、次のテストに向けた目標設定をさせている。(資料1)
 「CAN-DOリストと自分の添削結果と比較させて、三単現のsや時制に気をつけようとか、具体例を入れるとより分かりやすく伝わるなど、スコアを上げるための具体的な改善点を、生徒に気づかせています」(藤野先生)
 受検後には、スコアの上位20名を表彰する。中学3年生以上の学年では同じAdvancedを受検するが、学年混在で上位者の表彰をしており、下級生が上級生を追い越して表彰されることもある。上級生は下級生に負けられない、下級生は上級生に勝ちたいという思いが生まれ、受検に向けたモチベーションになっている。
 また、スコアの伸び上位20名の表彰も行っている。スコアの上位に入れない生徒も、伸びを表彰されることで、大きなモチベーションにつながっている。

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【資料1】 GTEC can-do statements

取り組みの成果と今後に向けて

 このような指導の積み重ねは、GTECのスコアの伸びに表れている。特に、中学2年生の時から多読を取り入れている現・高校3年生では、リーディング・リスニング・ライティングの3技能とも、順調にスコアを伸ばしている。(資料2)
 さらに、GTECだけでなく、模試でも、無解答が大幅に減ったのは大きな成果だと、藤野先生は語る。
 「多読で要点をつかむ練習を積んできているため、長文読解でもおおよその内容を理解できるようになったからでしょう。生徒は何かしら答えを書いていて、正解には至らなくても部分点を確実に取れるようになりました」
 今後の課題は、スピーキングの強化だ。2017年12月、初めて受検したGTECのスピーキングテストの結果が思うように得られなかったからだ。現状では、中学1・2年生では週1時間、中学3年生では週2時間の英会話の授業を、中学1年生では日本人教員とネイティブ・スピーカーのチーム・ティーチングにて、中学2・3年生ではネイティブ・スピーカー単独にて行っている。ただ、スピーチやプレゼンテーションといった、用意してきた英文を自分で発表するという形式が主体であったため、型通りに話すことは得意であっても、他者と会話をする活動はあまり行っていないという反省があった。
 そこで、2018年度は、オンライン・スピーキング・トレーニング(OST)で、外国人講師とのインタラクティブな会話の練習を取り入れる。
 「多読によって、生徒の英語に対する抵抗感はほとんどありません。そうした姿勢をこれからも育みつつ、4技能をバランスよく育む指導に改善していきたいと考えています」(前田先生)
 また、英語力とともに、生徒の思考力やそのための知識を深めることも目指す。
 「抽象的なテーマでも自分の意見を持てるような背景知識や、論理的に構成する力などが十分でないために、英語力があっても、英語で表現しきれないというもどかしさを感じています。例えば、テーマについて調べてから、英語でアウトプットさせるなど、活動をさらに工夫していきたいと考えています」(藤野先生)
 論理的思考力や背景知識は、日々の経験や読書量などとも関連する。そこで、英語科だけでなく学校全体で目標を同じくして授業改善を図ることも視野に入れていきたいと語った。

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【資料2】 GTEC平均スコア推移 Reading, Listening, Writing総合

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左:藤野先生 右:前田先生