Vol.105
既習事項を発展的表現活動へつなげる「Speak Out」を、学力幅が広い生徒集団へ実践
山形県立鶴岡中央高等学校 様
1998(平成10)年に山形県立鶴岡家政高校と同県立鶴岡西高校を統合し、普通科と総合学科を擁する高校として開校。「目指す生徒像」として、「立志:明確な夢や目標を持ち、実現のための計画を立て、目標実現に向けて着実に実行する生徒」「気づき:広い視野と洞察力を持ち、相手の立場になって考えることのできる生徒」「共生:学校とふるさとを愛し、地域のために活動することができる生徒」を掲げる。国際的な視野を持ち、伝統や故郷の良さを大切にしながら地域で活躍できる人材の育成を目指している。
- 基本情報
- 公立、共学、普通科・総合学科
- 規模
- 1学年120名(普通科)、160名(総合学科)
- 主な進路
- 国公立大は北見工業大1名、青森公立大1名、山形県立保健医療大1名、山形大4名、長岡造形大1名をはじめ9名(2016年度入試/現役のみ)
取り組みのポイント
- ●前学年で学んだ表現をアウトプットすることに特化した活動「Speak Out」により、生徒の発信力と英語に対する意識を高める。
- ●生徒が自ら学びに向かうことができるように、「Speak Out」を通して学習の課題を自覚させる。
- ●1年生での段階的な指導により、「英語を使おう」という生徒の意欲を醸成。
取り組みの背景
同校は、生徒の英語による発信力を向上させようと、特にスピーキング力の育成に力を入れている。取り組みを始めたきっかけは、2009年度に文部科学省の「英語教育改善のための調査・研究事業」の研究指定校になったことだ。スピーキングのスキルを重視することにした理由を、2016年度3年生担当の外国語科(英語)の鈴木加奈子先生は、「口頭でのやりとりは人と人との最も基本的なコミュニケーションですから、グローバル社会を生きる生徒には、自分の考えを英語でしっかり話せるようになってほしいという思いがありました。スピーキングで身につけた表現力はライティングにも活かせるので、英語による発信力を総合的に高めることにもつながると期待しました」と説明する。
ただ、取り組みを始めた当初は、スピーキングを重視した指導の前例が同校になく、不慣れな教師が多かった。さらに、入学段階で英語に苦手意識がある生徒が目立つこともあり、表現活動に対する生徒の意欲をうまく高められなかった。「私を含めてどの先生方も、授業の進度を遅らせたくないという焦りがありました。そのため、生徒のスピーキングスキルを段階的に伸ばしていくことをあまり意識できず、生徒の英語力に応じた指導ができなかったのです。『英語を使おう』という生徒の気持ちを伸ばせるように、指導を改める必要がありました」(鈴木先生)。
取り組みの詳細
発展的復習の機会 学校設定科目「Speak Out」
近年、同校の英語指導の中核に位置づけられる活動が、2・3年生の学校設定科目「Speak Out」だ。これは、表現力の育成を主眼とする週2コマの科目で、2年生ならば1年生の教科書、3年生ならば2年生の教科書というように、前の学年で学習した「コミュニケーション英語」の教科書を再び用い、レッスンの内容を振り返りながら、プレゼンテーションやディベートといった表現活動に取り組む。「『Speak Out』では、前学年で学んだレッスンをもう一度学ぶわけですから、学習内容をしっかり定着させることにつながります。さらに、生徒には初めて学ぶレッスンよりずっと取り組みやすいはずなので、多角的に検討できるテーマによってディベートを行うなど、到達目標を前学年より高く設定することもできます。つまり、生徒に負荷をかけ過ぎずに発展的復習ができると考えています」(鈴木先生)。
「コミュニケーション英語」がレッスンの内容理解、つまりインプットに重点を置くのに対し、「Speak Out」はレッスンに出てくる表現を使えるようになること、つまりアウトプットに力を入れる。そこで、10レッスンから成る「コミュニケーション英語」の教科書のうち、コミュニカティブな活動を行いやすい7レッスンを選び、「Speak Out」に用いる。「生徒には、英語による多様な表現が咄嗟に口をついて出るようになってほしいと思っています。週2コマという時間的制約の中、そこに達する練習を積むためには、7レッスンくらいがちょうど良いと感じています」(鈴木先生)。
次学年で「Speak Out」を行う7レッスンは、1・2年生の「コミュニケーション英語」でも重視する。例えば、生徒が英語を用いながら学習内容をより深く理解できるように、教師と生徒、生徒同士による英語でのコミュニケーションを毎回必ず行う。そのため、1レッスンに7〜8コマを充てる。一方、「Speak Out」を行わない3レッスンは各3コマほどにし、リスニングやリーディング中心の授業を行う。「レッスンの扱い方に軽重をつけることで、進度を保ちながら、英語を用いたコミュニカティブな活動にしっかり取り組めるようになりました」(鈴木先生)。
内容理解を深化させられるように英文をパートごとに精読
1年生の「コミュニケーション英語」、2年生の「Speak Out」それぞれにおける取り組みを見ていこう。
1年生の「コミュニケーション英語」の到達目標は、英文を読み、内容を正確に理解できるようになることだ。そこで、語順や文法、語彙などの指導に力を入れる。
2年生の「Speak Out」に用いるレッスンでは、まず1コマ目の冒頭に、リスニング教材に合わせて全文を黙読する時間を5分ほど設ける。その際、どの生徒もおおまかな文意がつかめるように、読解の鍵となる重要な新出単語を掲出したプリント(資料1)を配布しておく。
次に、英文をいくつかのパートに分け、リスニング、語彙や文法の説明、生徒同士が英文を相互に読むペアワークなどを交えながら、パートごとに精読していく。教師は生徒への発問も多く行うが、どの発問でも心がけているのは、生徒に考えさせることだ。例えば、「irresponsible action」(無責任な行動)という言葉が出てくれば、「For example?」と問いかけ、答えとともに理由も英語で説明させる。「生徒には、何事についても英語で思考し、意見が言える力を、3年間を通して身につけてほしいと思います。そのため、英文に書かれていることをただ読むのではなく、もっと踏み込んで解釈する練習に1年生のうちから取り組ませています」(鈴木先生)。
3コマで2パートを精読するのが基本的な進度で、音読には、1パートを精読し終えたタイミングで取り組む。「表現が生徒の頭に残るように、内容の理解が深まり、語彙も定着してきてから、音読させています。その後、パートによっては、本文の内容を生徒に英語で再生させる“reproduction”の活動も行います」(鈴木先生)。
そして、レッスンの最後のコマでは、語彙について小テストを行い、定着を図る。
また、精読する過程で、レッスンによっては「Speak Out」でプレゼンテーションやディベートを行う2年生を撮影した動画も見せる。「今、学習している内容を前年度に学んだ先輩が、英語を用いて表現する姿を見ることで、生徒は刺激を受け、『自分も頑張ろう』と思うでしょう。英語が使えるようになるとはどのようなことかが具体的にイメージできるようにもなり、生徒自身に英語を学ぶ目標ができると考えています」(鈴木先生)。
【資料1】重要単語リスト
短く区切った英文と対訳で英語の語順をしっかり意識させる
精読中に語順・文法の指導を効果的に行えるよう作成・配布しているのが、教科書の英文を左側、その日本語訳を右側に載せたワークシート(資料2)だ。英文を十数語ごとに改行し、日本語の対訳を示している。「英語が苦手な生徒は、どうしても空音読になってしまいます。こうすることによって英語の語順に慣れ、アウトプットにつながると考えました」(鈴木先生)。
ワークシートの英文では重要な語を空欄にしておき、生徒に教科書を見ながら補充させる。例えば初期には、格による語形変化を意識させるために名詞、活用や時制を意識させるために動詞を空欄にする。目的語や補語は動詞の後にくるといった語順の原則が生徒に定着してくると、without doingなど、動名詞が前置詞の目的語になり得るということを意識させることができるように、前置詞を空欄にする。「何を空欄にするかは、生徒の学習の定着度合いに応じて、段階的に変えています。生徒が学習に取り組みやすくなるように、一度にあれもこれもと示すのではなく、今の段階で身につけてほしい知識に的を絞って示しています」(鈴木先生)。
ワークシートを用いたペアワークでは、1人の生徒が日本語訳を1行ずつ声に出して読み、もう1人の生徒がそれに対応する英文を答える。ペアの両方が英文も和文も読めるように、ワーク2回を1セットにし、英文をよどみなく言えるようになるまで何セットか繰り返す。「生徒は、1セット目より2セット目、2セット目より3セット目というように、次第に英文がうまく読めるようになり、意味もよく分かるようになります。『英語ができるようになっている』と身をもって感じ、自信が持てるようになると思います。中学校時代に英語があまり得意でなかった生徒であれば、なおさらです。そうなれば、学習意欲も自ずと高まると考えています」(鈴木先生)。
定期的に回収・チェックしている復習ノートでも、学習への意識づけを図る。新出単語を例文と一緒に書いているなど、他の生徒にも推奨したい復習の仕方があれば、その生徒に断った上で、ノートのコピーを授業で配布するのである。「生徒はコピーを見れば、どのように復習すればいいか、はっきりしたイメージが持てるでしょう。しかも友だちが工夫し、実践していることですから、私たち教師が『こうしなさい』とただ勧めるより何倍も訴求力があると思います」(鈴木先生)。
また、語順や文法、語彙の定着を徹底させるために、終了から3か月ほど経ったレッスンについては、その内容を振り返るプリントに週課題として取り組ませる。
【資料2】虫食い英文と対訳が載っているワークシート
アウトプット力を段階的に育成できるように「Speak Out」のレッスンを編成
2年生の「Speak Out」では、すべてのレッスンにおいて、英語による表現活動を1つずつ最終タスクとして課す。プレゼンテーション、スキット、生徒同士のインタビュー、ディベートといった具合だ。最終タスクとする表現活動は、複数の登場人物を設定しやすい内容であればスキットにするというように、各レッスンの内容に応じて選定する。
取り組むレッスンの順序は、教科書に載っている順序にかかわらず、最終タスクにどの表現活動を行うか、それによってどのような力を定着させたいかによって決める。例えば、プレゼンテーションを課すレッスンは前半に、インタビューを課すレッスンとディベートを課すレッスンは後半に行う。「ディベートでは、他者の主張を考察し、説得力のある反論をすぐに示す必要があります。これに取り組む前に、なるべく多くのレッスンを経験させ、英語による思考力や判断力、表現力などをしっかり身につけさせたいと考えました。そこで、自分の考えを整理して他者に伝える練習として、プレゼンテーションを行うレッスンを冒頭に位置づけ、相手の話にじっくり耳を傾けながら自分の考えを述べる練習として、インタビュー(レポーティング)を行うレッスンを、ディベートを行うレッスンの直前に置くことにしたのです」(鈴木先生)。
自分の学習のどこに課題があるのか 「Speak Out」を通して生徒に自覚を促す
各レッスンは8〜10コマから成り、はじめの3コマをインプット活動、残りのコマをアウトプット活動に充てる。
インプット活動では、教科書の当該レッスンの英文を復習する。全文のリーディングやリスニング、正誤判定問題などのほか、文中の単語の意味や対義語を教師が英語で話し、生徒がその単語を答えるといったタスクにも取り組む。「1年生で学んだ表現や語彙を忘れていたり、よく理解していないと感じたりすれば、生徒は悔しいはずですから、学習の仕方を見直すきっかけになるでしょう。3年生の『Speak Out』では同じ思いをしないように、自分が今学んでいる2年生の『コミュニケーション英語』にもっとしっかり取り組もうという気持ちになると思います」(鈴木先生)。
さらに、読解のタスクとして、当該レッスンの英文と同じトピックの英文を教師が配布する。トピックに対する理解を深めることのほかに、学習における課題を自分で見つける練習というねらいもある。「配布する英文は、教科書の英文とだいたい同じくらいの難易度の、生徒にとって初見の英文です。『Speak Out』では、一度学習した英文を扱うので、このようにして背景知識を増強するために別の英文を読ませます。ただ読ませるではなく、使うために読ませるので、この英文もある程度使えるようになるためにタスクを設け取り組ませます」(鈴木先生)。
アウトプット活動の主な内容は、最終タスクに向けた準備だ。「ここで再度英文を読むのですが、ここではQuestionに答えるための受動的な読みでなく、相手にどうやったら理解してもらえるか、自分が使うために読むという、より能動的な読みになります」(鈴木先生)。教科書の英文の内容とそれに対する感想を何も見ずに友だちに説明したり、友だちと一対一で討論したりというように、英語で考え他者に伝える練習を、どのレッスンでも重ねる。そして、プレゼンテーションの資料やスキットの台本、ディベートの原稿などを作成し、レッスン最後の1〜2コマで行われる最終タスクに臨む。
最終タスクはグループごとに教室の前に出て行い、他グループの講評を受ける。「生徒は、自分の発表に対する友だちの意見を聞くことで、論理のつながりや言葉の選び方などを振り返るきっかけができるでしょう。何が足りなかったのかを自覚し、もっと良い発表ができるように、今後の学習で改善しようとする意欲につながると考えています」(鈴木先生)。
討論の難度を徐々に上げながら小規模ディベートを繰り返す
最終タスクとしてディベートを課すレッスンは、所要時数10コマ、1か月以上をかけて取り組む「Speak Out」最大の活動だ。修学旅行が終わる2年生11月の後半に設定している。「修学旅行直後はどの生徒も学習への意識が下がりがちな時期ですから、生徒の気持ちを改めて英語に向けさせるように、ディベートを行うレッスンを行うことにしています」(鈴木先生)。
アウトプット活動では、最初は2〜3人による小規模なディベートが中心となる。「布団とベッドのどちらが好きか」といった単純なテーマについて日本語で論じ合う段階から、個人的な好悪だけでは判断できないテーマについて英語で論じ合う段階へというように、討論の難度を徐々に上げながら繰り返し行う。「自分の主張を、相手の主張に応じて述べるというディベートの特性を、どの生徒もしっかり理解できるように、事前指導に力を入れています」(鈴木先生)。
最終タスクでは、5〜6人が1グループになり、2グループずつ順番にディベートに取り組む。テーマは、当該レッスンの英文に関連し、いくつもの視点から当否を分析できるようなものを、教師が設定する。例えば、国籍を変えて母国以外の国で活躍するプロサッカー選手についての英文であれば、野球で全国的に活躍する大阪府の中学生を、他の都道府県の野球の強豪高校が勧誘することの是非をディベートのテーマにするといった具合だ。
GTECを全学年で実施し学習に対する生徒の意識づけを徹底
生徒の英語力の伸びを客観的に測定するツールとして活用するのが、GTEC for STUDENTS(以下、GTEC)だ。3年間を通して英語の総合的なスキルの定着度合いを見取れるように、全学年で実施している。「授業で学習した語彙や文法、表現が身についているかどうか、定期的に振り返らせたいと考えました。リーディングやリスニングの問題では、内容を正確に把握していてはじめて正解できる設問が多いので、どの生徒にも自分の実力がよく分かると思います」(鈴木先生)。
GTECを受験することによって、学習に対する生徒のモチベーションを高めようというねらいもある。「スコアが伸びている生徒は自信をつけ、やる気になるでしょうし、そうでない生徒も自分の課題が洗い出されるので、今後につながります。ライティングではネイティブの講師によるアドバイスがもらえるため、生徒がさらに前向きに学習できるようになると考えています」(鈴木先生)。
取り組みの成果と今後に向けて
一連の取り組みによって、英語に対する生徒の姿勢や意識には明らかな変化が見られる。どの生徒も表現を工夫しようと、1年生のうちから進んで辞書を引くようになった。2年生で「Speak Out」に取り組み始めると、1年生で学んだ、「コミュニケーション英語」以外の英語科目の教科書も持参するようになった。「『英語表現』や『コミュニケーション英語』など別々の科目で学んだことを、英語で表現するという1つの目的のために用いるようになったと感じます。積極的に英語を使おうとする気持ちが強くなったからこその変化だと思います。2年生の『Speak Out』でディベートを行うレッスンの後には、『反論として言うべきことは分かっていたけれど、それを表す英語が口から出なかった』と悔し泣きをする生徒もいるほどです」(鈴木先生)。
こうした変化はGTECのスコアにも現れている。全国では年間40ポイント程度の伸びのところ、1年生から2年生では60ポイント近く伸びている(資料3)。「英語力を底上げできていると実感しますし、上位層も増えています」(鈴木先生)。
今後は、「Speak Out」のような発展的復習に取り組む場を増やすことを検討している。「『Speak Out』と同じ活動は、補習の時間にもできると思います。学習した表現を振り返り、自分で用いる練習を1年生のうちから定期的に積ませることで、英語による生徒の表現力をさらに伸ばしていきたいと考えています」(鈴木先生)。
【資料3】GTEC for STUDENTS スコアの伸び