Vol.102
楽しく学ぶ英語からアカデミックな英語へ
発達の段階に応じた実践的な英語力を涵養
北海道登別明日中等教育学校 様
2007年に開校。開校以来、「郷土愛と国際性を身につけた生徒の育成」を目標に掲げ、国際理解・外国語教育に力を入れている。2009年に道立高校として初めてユネスコスクールへ加盟。2014年には文部科学省のSGHの指定を受け、「食糧問題」をテーマとした探究学習プログラムに取り組んでいる。
6年間を2年間ごとの基礎期・充実期・発展期の3期に分けて教育を展開している。1・2回生の基礎期は学校生活の基礎基本の確実な定着、3・4回生の充実期は主体的な学習態度の涵養、5・6回生の発展期は希望進路の実現に向け、個性や能力の一層の伸長を図ることを目標としている。
- 基本情報
- 公立、共学、普通科
- 規模
- 1学年約80名
- 主な進路
- 国公立大は、京都大1名、一橋大1名、東北大1名、電気通信大1名、横浜国立大1名、神戸市外国語大1名、北海道大2名、札幌医科大1名はじめ23名(2016年度入試/既卒生含む)
取り組みのポイント
- ●CAN-DOリストをベースに4技能をバランスよく指導
- ●キャンプや研修など各学年で実践的なコミュニケーションの場を設定
- ●大学入試への活用も踏まえて進路指導部主導でGTEC CBTを積極受検
取り組みの背景
同校では、開校当初から国際理解・外国語教育を前面に打ち出し、毎年のオープンスクールでも英語の模擬授業を実施するなど受検生に周知している。そのため、入学時から英語に対する意欲が高い生徒は多い。その同校が、もう一段ステップアップするためにチャレンジしたのが2014年に指定を受けたSGHであった。申請の経緯を知る英語科の勘野雅恵先生は、「将来の北海道のリーダーを育てたいという学校目標と、グローバルリーダーの育成をめざすSGHの理念には重なるものがあると感じています。また、SGHを通して国際理解教育の深化を図ることで、学校の特色がより鮮明になるのではないかという期待もありました」とねらいを明かす。
また、生徒の英語に対する意欲が高い半面、入学時の英語力には開きがあり、学年を追うごとに開いて行く傾向も見られていた。中には、英語によるコミュニケーションが得意な分、文法がきちんと身についていないにもかかわらず「自分は英語ができる」と過信してしまう生徒もいる。このような生徒の状況から、物おじせずに英語を使える力を身につけると同時に、大学入試にも対応できるアカデミックな英語力を鍛えていくことが課題となっている。
取り組みの詳細
コミュニケーション中心の授業を6年間一貫して実施
同校の英語教育のベースとなっているのが、3年ほど前から活用しているCAN-DOリストである(資料1)。4技能の到達目標、GTEC for STUDENTS等の外部試験の目標、授業で使う主なアクティビティを、1~6回生の学年ごとに記している。
こだわりのポイントは、4技能の並びだ。一般にアウトプット重視の流れから「話す、書く、聞く、読む」という順に並べるリストが多いが、同校ではインプットからアウトプットへという流れを意識し、リスニング→スピーキング、リーディング→ライティングという順番で身につけさせたい力を示している。
このリストをベースに、同校では1回生(中学1年生)から4技能をバランスよく身につける授業を展開している。
1・2回生は、英語を好きにさせることを意識している。1回生から週1回の英会話の授業を設け、ALTがオールイングリッシュでコミュニケーションの楽しさを伝える。通常の授業でも、できるだけペアワークやグループワークを取り入れて、間違ってもいいからとにかく話すという前向きな姿勢を養う。これについて、2015年度に赴任した小島啓一先生は、「3回生より上の生徒を指導して感じるのは、英語のコミュニケーションにおいてバリアをつくらないところ。外国人に対しても物おじしないし、ネイティブの英語もかなり聞き取れます。何より、自分が伝えたいと思うことを伝えようとする態度が身についていることに驚きました」と話す。
ALTによるコミュニケーション中心の授業は3回生以降も続く。4回生(高校1年生)英語表現Ⅰの2単位と5~6回生(高校2〜3年生)英語表現Ⅱの4単位をそれぞれ分割し、一方は文法を軸としたインプット中心、もう一方はALTによるアクティビティ中心の授業を展開している。英会話だけでなくディスカッションやエッセーなど、よりレベルの高い取り組みが、生徒の英語力の伸びや発達段階に応じて取り入れられる。学年が上がるにつれて正確に文法を学ぶ時間を増やしていく一方、間違ってもいいから伝え合おうとする姿勢や意識も6年間一貫して大切にし続けているのである。
【資料1】CAN-DOリスト
初聴きのリスニングで英語の処理能力向上を図る
英語に物おじしない生徒が多い一方、それが英語力に対する過信につながることも少なくない。「コミュニケーションが得意な分、きちんとした文法や構文、語彙を使って話したり書いたりする力が追いついていない生徒も見受けられます。大人が使うような成熟した表現力を身につけさせることが3回生以降の課題です」(小島先生)。
3回生以降は、骨太の英語力をつけるために文構造の理解や内容把握を重視する。小島先生の6回生の授業を例に授業の流れを見てみよう(資料2)。
まず、初出の単語の意味をおさえたうえで、予習なしで教科書本文のCDを聴かせる。何度か聴かせた後、ペアワークでTrue or Falseの課題に取り組み、TかFか理由を英語で話し合う(習熟度によっては日本語の場合もある)。その上で初めて教科書の本文を読む。「私の授業では、初見で本文は読ませません。読むのは自分のペースでできますが、聴く場合は相手に合わせて英語を素早く理解する力が求められます。私の授業ではCDをかける時もハイスピード読みのトラックを聴かせます。聞く力を高めることで英語の処理速度が高まれば、長文を素早く読む力も身につけることができると考えています」(小島先生)。
その後は、ペアワークを行い1人が読んだ英語をもう一人が耳で聞いて繰り返す。あるいは日本語を逐次通訳のように英語に直したり、本文を見ずにCDで聴いたままを話したり、さまざまなバリエーションを盛り込みながら4技能を使った活動を繰り返す。最後は、内容に関わる質問を教科書を見ずに英語で答えるペアワークや、本文中の動詞や前置詞を正しい形に直す課題に取り組み、内容理解を深める。
【資料2】授業内で使用しているプリント
教科書は全員がコミュニケーション活動に取り組める易しめを使用/上位層には特別課題も
以上が1レッスンの流れで、おおよそ授業2コマを使って行っている。予習は授業内で行う単語や語法の小テスト対策のみで、教科書本文の予習はさせない。小島先生の授業では毎回、授業の冒頭で簡単な小テストがある。本文で使用された単語の確認、指定の語数で本文の内容について英答するテストなどを行い、定着度を確認しながら進んでいくのである。
授業で使うハンドアウトは英語科全体で共有しており、各学年の英語担当は、目の前の生徒の状況に応じて細部を変えて使用する。そのため、教師によって授業の進め方が大きく変わるようなことはない。それぞれの教師がマイナーチェンジしたハンドアウトも教科内で共有して指導改善に生かしている。
学力幅が広い中でも、生徒全員が積極的にコミュニケーション活動に取り組めるよう、教科書はどの学年も易しめのものを使用している。上位層の生徒は教科書を早めに終わらせ、レベルの高い課題に取り組ませる。たとえば、小島先生の6回生のクラスでは、英文記事を読ませて、何が書かれているのかをペアやグループで話し合わせ、週末課題として記事についてのサマリーやオピニオンを書かせている(資料3)。また、勘野先生の4回生のクラスでは、帯活動としてスピーチを行ったり、教科書に関連する内容(フードカルチャーなど)について調べさせ、英語でプレゼンテーションを行わせたりしているという。
【資料3】上位者向け課題
発達段階に応じて実践的なコミュニケーションの場を設定
教室で身につけた英語力を実践の場で生かす機会も、学年ごとに設けられている。2回生では1泊2日のイングリッシュ・キャンプを実施し、グループごとに英語による自作の英語劇を披露する。ALTとの交流は英語力を磨くチャンスだ。3回生は福島のブリティッシュヒルズに赴いて2泊3日の英語研修を実施。外国人とコミュニケーションをとりながら、イギリスの歴史を学んだりスポーツや調理実習を行ったりする。4回生は地域の小学校で外国語活動のアシスタントを務める。4回生全員が各6~7名、12グループに分かれ、ゲームや歌などを交えながら英語の授業をサポートする。
集大成となるのが5回生の海外研修である。2015年はカナダとアメリカに赴き、2泊3日のホームステイや大学・姉妹校訪問を行った。姉妹校交流では、生徒1人につきバディ・スチューデント1名がつき、一緒に授業を受けたり生徒が考案したゲームを行ったりして交流を深めた。大学訪問では学生とディスカッションを行い、大学・学部を選んだ理由、将来の夢などについて話し合った。「現地ではブリティッシュ・コロンビア大学に入学した日本人学生とも交流し、大きな刺激を受けました。ホームステイや高校生との交流を通して、英語が通じたという自信を得て帰って来た生徒が多かったのも大きな収穫です。その一方、もっと勉強しなければと自省する生徒も多く、どの学力層の生徒も刺激を受けている様子がうかがわれました」(小島先生)。
進路指導部主導でGTEC CBTを受験
同校ではGTEC for STUDENTS及びGTEC CBTを実施しており、前者は英語科、後者は英語科と連携しながら進路指導部が統括している(資料4)。
GTEC CBTを進路指導部が統括する背景には、求められる人材像の変化があると、進路指導部の神田耕也先生は語る。「SGHで求められるのは、答えのない問いに対し、客観的な根拠を持って答えを創り出す力、他者と協働する力、そしてグローバルなコミュニケーション能力。それは現在進行中の入試改革で求めている生徒像と同じです。社会が必要とする人材像が変わり、その中で英語の4技能の向上が求められている以上、学校全体で取り組むべき課題として4技能の検定試験を位置付けるべきだと考えました」。
4技能の検定試験の中でも、GTEC CBTを選んだのは、さまざまな検定試験の中で、4技能のバランスがもっとも良かったという実感があったからだ。4技能を測る他の検定に比べて料金が安く、公立高校として推奨しやすいのも理由の1つだった。他の検定と比較しながら、GTEC CBTについて保護者に説明すると、保護者も納得感をもって子どもに受検を勧めるようになったという。多くの国公立大入試で、GTEC CBTが活用されているという点も、保護者の背中を押す要因となっている。
同校では、GTEC CBTの良さを学年集会や保護者会を通じて生徒・保護者全体に伝えている。現在1回につき50名程度が受験しており、今後も増加していく見通しという。「高校生が受けやすいGTEC CBTの大学入試への採用が広がれば、高大接続もより良いかたちで進むのではないでしょうか。今以上にGTEC CBTが活用されることを期待しています」(神田先生)。
【資料4】英語外部検定試験に関する進路指導部発信資料
取り組みの成果と今後に向けて
コミュニケーション中心の授業に加え、1回生からの継続的な英会話の授業、実践的な英語活用の場の設定などにより、英語によるコミュニケーションに物おじしない生徒が増えていることが第一の成果だ。また、海外研修で大学のキャンパスを見て、海外の大学に行きたいという夢を膨らませる生徒も現れつつあるという。GTEC for STUDENTSのスコアも全国平均以上の伸びをみせている(資料5)。
一方、課題は、より高次のコミュニケーション能力の育成である。プレゼンテーションやスピーチなど、あらかじめ準備して臨める取り組みは得意な生徒が多い反面、その後の質問に対しては、思うように考えを述べられない生徒が多いという。また、SGHの課題研究などで、研究内容の発表者に対して、適切な質問を投げかけるのが苦手な生徒も少なくない。「準備していないコミュニケーションに対して、対応できる力をつけることが今後の課題。英語力のいっそうの向上とともに、聞く力や考える力の育成にも力を入れ、アカデミックな場でも活用できるコミュニケーション能力を身につけさせたいと思っています」(勘野先生)。
【資料5】GTEC for STUDENTS スコア推移
左から 勘野先生、小島先生、神田先生